70 / 229
4章 我が女神、それは
こんな世界は間違っている
しおりを挟む
放心した妹と傷心した俺を引き連れたシオミンは、巧みな話術で間をもたせ、始めたばかりのプレイヤーでは難しい遺跡へと進んでいく。本来はストーリー上最初に行くべき遺跡に挑む予定だったが、俺とシオミンがプレイ済みであったのを鑑みて、適正レベルよりもある程度上の遺跡の方が盛り上がるだろうとの判断であった。
結果からするとその判断自体は間違いではなかったものの、精度が低かった。適正レベルよりも上の難度だったとはいえ、多少レベルが上がっただけのゲームプレイ不慣れな初心者が向かうことを想定したダンジョンであったので、あっさりクリアできてしまった。
あまりのサクサクぶりに妹から「あたしって実はゲーム上手いのでは?」などと先日あった長時間配信の醜態など頭から消え去った発言も出る始末であった。
盛り上がりに欠ける展開で必要となったのはやはり話術と話題であった。
「汐見はどうして舞香とコラボに誘ったんだ?」
憧れの存在を呼び捨てにする罪悪感に苛まれつつも尋ねることができた。おそらくコメント欄はシオミンファンが暴れているのが容易に想像できる。だから見てやるもんかとコメント欄を自分からは見えなくしてやった。
精神的勝利という一人相撲をしていた俺にシオミンははにかみながら答える。
「知りたい?」
「そりゃまあ汐見ほどの有名人が駆け出しもいいとこな舞香とコラボする利点が思い浮かびませ……ばないから」
危うく敬語を使いそうになる。シオミンはそれを追求することなく答える。
「利点はあるよ。なんだと思う?」
「……絶対にないとは思うが青田買いとか?」
先にずかずかと歩いていた妹が「絶対にないとは失礼な!」とぷんすかする。
それを見たシオミンは軽く笑う。
「惜しい! それもないとは言い切れないけど、メインはそこじゃないよ!」
妹が戻ってくる。
「私とコラボしたい。つまりは私のファンだから。Q.E.D.」
あまりにも頭の悪い証明に「馬鹿め。そんなわけがあるか」と妹の頭をわしゃわしゃする。
「はぁ!? 私のこの完璧な理論がケチつけるとかありえないし!」
「お前の理論が正しいならばこの世界はきっと間違っている」
「全世界が私にひれ伏し崇めることの何が間違ってるっていうのさ!」
「それが正しいと思うお前の頭の中が間違っている」
わしゃわしゃしていた手に力を入れる。電脳世界で痛みを感じることはないだろうが、それでもアバターのコリジョン同士が触れ合うことによって動きを封じる程度の拘束力は生まれる。それを逆手にとって妹は「ぎゃーころされる―」などと棒読みな演技を始めやがった。
それを眺めていたシオミンはころころと笑う。
大変可愛らしい笑い方に妹を押さえる手の力が緩む。妹はそれに気づかず、ぎゃーすか暴れるフリをする。ぐりぐりと頭を押し付けるように暴れる。
「あーおもしろい。兄妹仲いーんだね」
その発言に妹は暴れるのを止め、シオミンに詰め寄る。
「どこをどう見たらそうなるの!? 目悪いなら病院行こ!」
あまりに失礼な発言もシオミンは気に留めない。
「今だってお義兄さんが手を緩めたのに自分から頭押し付けてたよねー」
「な、企業秘密だから言わないでよ!」
「カワイイなーもう」
両手をぶんぶんと上下する妹を胸の前で両手を握るシオミン。それは愛おしそうともいえるぐらい慈愛に満ちていた。
「あ、汐見がコラボに誘った理由だったよね」
嫌な予感がした。
「マイマイのファンでしたー。それも初配信からずっと追っかけるファンでーす!」
やはり、こんな世界は間違っている。
結果からするとその判断自体は間違いではなかったものの、精度が低かった。適正レベルよりも上の難度だったとはいえ、多少レベルが上がっただけのゲームプレイ不慣れな初心者が向かうことを想定したダンジョンであったので、あっさりクリアできてしまった。
あまりのサクサクぶりに妹から「あたしって実はゲーム上手いのでは?」などと先日あった長時間配信の醜態など頭から消え去った発言も出る始末であった。
盛り上がりに欠ける展開で必要となったのはやはり話術と話題であった。
「汐見はどうして舞香とコラボに誘ったんだ?」
憧れの存在を呼び捨てにする罪悪感に苛まれつつも尋ねることができた。おそらくコメント欄はシオミンファンが暴れているのが容易に想像できる。だから見てやるもんかとコメント欄を自分からは見えなくしてやった。
精神的勝利という一人相撲をしていた俺にシオミンははにかみながら答える。
「知りたい?」
「そりゃまあ汐見ほどの有名人が駆け出しもいいとこな舞香とコラボする利点が思い浮かびませ……ばないから」
危うく敬語を使いそうになる。シオミンはそれを追求することなく答える。
「利点はあるよ。なんだと思う?」
「……絶対にないとは思うが青田買いとか?」
先にずかずかと歩いていた妹が「絶対にないとは失礼な!」とぷんすかする。
それを見たシオミンは軽く笑う。
「惜しい! それもないとは言い切れないけど、メインはそこじゃないよ!」
妹が戻ってくる。
「私とコラボしたい。つまりは私のファンだから。Q.E.D.」
あまりにも頭の悪い証明に「馬鹿め。そんなわけがあるか」と妹の頭をわしゃわしゃする。
「はぁ!? 私のこの完璧な理論がケチつけるとかありえないし!」
「お前の理論が正しいならばこの世界はきっと間違っている」
「全世界が私にひれ伏し崇めることの何が間違ってるっていうのさ!」
「それが正しいと思うお前の頭の中が間違っている」
わしゃわしゃしていた手に力を入れる。電脳世界で痛みを感じることはないだろうが、それでもアバターのコリジョン同士が触れ合うことによって動きを封じる程度の拘束力は生まれる。それを逆手にとって妹は「ぎゃーころされる―」などと棒読みな演技を始めやがった。
それを眺めていたシオミンはころころと笑う。
大変可愛らしい笑い方に妹を押さえる手の力が緩む。妹はそれに気づかず、ぎゃーすか暴れるフリをする。ぐりぐりと頭を押し付けるように暴れる。
「あーおもしろい。兄妹仲いーんだね」
その発言に妹は暴れるのを止め、シオミンに詰め寄る。
「どこをどう見たらそうなるの!? 目悪いなら病院行こ!」
あまりに失礼な発言もシオミンは気に留めない。
「今だってお義兄さんが手を緩めたのに自分から頭押し付けてたよねー」
「な、企業秘密だから言わないでよ!」
「カワイイなーもう」
両手をぶんぶんと上下する妹を胸の前で両手を握るシオミン。それは愛おしそうともいえるぐらい慈愛に満ちていた。
「あ、汐見がコラボに誘った理由だったよね」
嫌な予感がした。
「マイマイのファンでしたー。それも初配信からずっと追っかけるファンでーす!」
やはり、こんな世界は間違っている。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる