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4章 我が女神、それは
こんな世界は間違っている
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放心した妹と傷心した俺を引き連れたシオミンは、巧みな話術で間をもたせ、始めたばかりのプレイヤーでは難しい遺跡へと進んでいく。本来はストーリー上最初に行くべき遺跡に挑む予定だったが、俺とシオミンがプレイ済みであったのを鑑みて、適正レベルよりもある程度上の遺跡の方が盛り上がるだろうとの判断であった。
結果からするとその判断自体は間違いではなかったものの、精度が低かった。適正レベルよりも上の難度だったとはいえ、多少レベルが上がっただけのゲームプレイ不慣れな初心者が向かうことを想定したダンジョンであったので、あっさりクリアできてしまった。
あまりのサクサクぶりに妹から「あたしって実はゲーム上手いのでは?」などと先日あった長時間配信の醜態など頭から消え去った発言も出る始末であった。
盛り上がりに欠ける展開で必要となったのはやはり話術と話題であった。
「汐見はどうして舞香とコラボに誘ったんだ?」
憧れの存在を呼び捨てにする罪悪感に苛まれつつも尋ねることができた。おそらくコメント欄はシオミンファンが暴れているのが容易に想像できる。だから見てやるもんかとコメント欄を自分からは見えなくしてやった。
精神的勝利という一人相撲をしていた俺にシオミンははにかみながら答える。
「知りたい?」
「そりゃまあ汐見ほどの有名人が駆け出しもいいとこな舞香とコラボする利点が思い浮かびませ……ばないから」
危うく敬語を使いそうになる。シオミンはそれを追求することなく答える。
「利点はあるよ。なんだと思う?」
「……絶対にないとは思うが青田買いとか?」
先にずかずかと歩いていた妹が「絶対にないとは失礼な!」とぷんすかする。
それを見たシオミンは軽く笑う。
「惜しい! それもないとは言い切れないけど、メインはそこじゃないよ!」
妹が戻ってくる。
「私とコラボしたい。つまりは私のファンだから。Q.E.D.」
あまりにも頭の悪い証明に「馬鹿め。そんなわけがあるか」と妹の頭をわしゃわしゃする。
「はぁ!? 私のこの完璧な理論がケチつけるとかありえないし!」
「お前の理論が正しいならばこの世界はきっと間違っている」
「全世界が私にひれ伏し崇めることの何が間違ってるっていうのさ!」
「それが正しいと思うお前の頭の中が間違っている」
わしゃわしゃしていた手に力を入れる。電脳世界で痛みを感じることはないだろうが、それでもアバターのコリジョン同士が触れ合うことによって動きを封じる程度の拘束力は生まれる。それを逆手にとって妹は「ぎゃーころされる―」などと棒読みな演技を始めやがった。
それを眺めていたシオミンはころころと笑う。
大変可愛らしい笑い方に妹を押さえる手の力が緩む。妹はそれに気づかず、ぎゃーすか暴れるフリをする。ぐりぐりと頭を押し付けるように暴れる。
「あーおもしろい。兄妹仲いーんだね」
その発言に妹は暴れるのを止め、シオミンに詰め寄る。
「どこをどう見たらそうなるの!? 目悪いなら病院行こ!」
あまりに失礼な発言もシオミンは気に留めない。
「今だってお義兄さんが手を緩めたのに自分から頭押し付けてたよねー」
「な、企業秘密だから言わないでよ!」
「カワイイなーもう」
両手をぶんぶんと上下する妹を胸の前で両手を握るシオミン。それは愛おしそうともいえるぐらい慈愛に満ちていた。
「あ、汐見がコラボに誘った理由だったよね」
嫌な予感がした。
「マイマイのファンでしたー。それも初配信からずっと追っかけるファンでーす!」
やはり、こんな世界は間違っている。
結果からするとその判断自体は間違いではなかったものの、精度が低かった。適正レベルよりも上の難度だったとはいえ、多少レベルが上がっただけのゲームプレイ不慣れな初心者が向かうことを想定したダンジョンであったので、あっさりクリアできてしまった。
あまりのサクサクぶりに妹から「あたしって実はゲーム上手いのでは?」などと先日あった長時間配信の醜態など頭から消え去った発言も出る始末であった。
盛り上がりに欠ける展開で必要となったのはやはり話術と話題であった。
「汐見はどうして舞香とコラボに誘ったんだ?」
憧れの存在を呼び捨てにする罪悪感に苛まれつつも尋ねることができた。おそらくコメント欄はシオミンファンが暴れているのが容易に想像できる。だから見てやるもんかとコメント欄を自分からは見えなくしてやった。
精神的勝利という一人相撲をしていた俺にシオミンははにかみながら答える。
「知りたい?」
「そりゃまあ汐見ほどの有名人が駆け出しもいいとこな舞香とコラボする利点が思い浮かびませ……ばないから」
危うく敬語を使いそうになる。シオミンはそれを追求することなく答える。
「利点はあるよ。なんだと思う?」
「……絶対にないとは思うが青田買いとか?」
先にずかずかと歩いていた妹が「絶対にないとは失礼な!」とぷんすかする。
それを見たシオミンは軽く笑う。
「惜しい! それもないとは言い切れないけど、メインはそこじゃないよ!」
妹が戻ってくる。
「私とコラボしたい。つまりは私のファンだから。Q.E.D.」
あまりにも頭の悪い証明に「馬鹿め。そんなわけがあるか」と妹の頭をわしゃわしゃする。
「はぁ!? 私のこの完璧な理論がケチつけるとかありえないし!」
「お前の理論が正しいならばこの世界はきっと間違っている」
「全世界が私にひれ伏し崇めることの何が間違ってるっていうのさ!」
「それが正しいと思うお前の頭の中が間違っている」
わしゃわしゃしていた手に力を入れる。電脳世界で痛みを感じることはないだろうが、それでもアバターのコリジョン同士が触れ合うことによって動きを封じる程度の拘束力は生まれる。それを逆手にとって妹は「ぎゃーころされる―」などと棒読みな演技を始めやがった。
それを眺めていたシオミンはころころと笑う。
大変可愛らしい笑い方に妹を押さえる手の力が緩む。妹はそれに気づかず、ぎゃーすか暴れるフリをする。ぐりぐりと頭を押し付けるように暴れる。
「あーおもしろい。兄妹仲いーんだね」
その発言に妹は暴れるのを止め、シオミンに詰め寄る。
「どこをどう見たらそうなるの!? 目悪いなら病院行こ!」
あまりに失礼な発言もシオミンは気に留めない。
「今だってお義兄さんが手を緩めたのに自分から頭押し付けてたよねー」
「な、企業秘密だから言わないでよ!」
「カワイイなーもう」
両手をぶんぶんと上下する妹を胸の前で両手を握るシオミン。それは愛おしそうともいえるぐらい慈愛に満ちていた。
「あ、汐見がコラボに誘った理由だったよね」
嫌な予感がした。
「マイマイのファンでしたー。それも初配信からずっと追っかけるファンでーす!」
やはり、こんな世界は間違っている。
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