妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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4章 我が女神、それは

意識高く天より高く

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 雑魚をリンチにして絞めた後、空気を戻さないようすかさずアンジェラに「何処へ向かっているんだ」と訊いた。

「お兄さんは始めたばかりでしょう? 物語最初の遺跡に挑戦するのではなくて?」

 最初の遺跡。そんなものがあるのか。

「違うの?」

「いや、山登りしようとしてた」

 アンジェラに「お兄さんはそちら側だったのね」と神妙な顔をされた。

 ゲームのプレイスタイルの話をしているのだろう。

 アンジェラは王道スタイル。ちゃんと物語も楽しめば、寄り道をしたり、道中しっかりレベル上げしつつ、また物語に戻っていくのだろう。

 対して俺のスタイルはスタイルと呼ぶのもおこがましいが、少なくない割合で存在する。それはチュートリアルを読まなければ、イベントも基本スキップして何をするべきなのかも何が起きているのかも分からないまま進めるスタイルだ。

 ストーリー性のあるゲームをやらないで格ゲーや音ゲー、FPSだけやればいいという意見もあるだろう。

 だが待って欲しい。そんな建設的な意見を聞く奴はこんなプレイスタイルにならない。天上天下唯我独尊の悪い方の意味をゲーム内ならば誰にも迷惑かけないからと実行し、自分に跳ね返っても気にしない愚か者のプレイスタイルなのである。

「ちなみに単独登山しようとしてモンスターにぶっ殺された」

「あそこ、レベル高いから仕方ないわ」

 そのことを知っているということは既に

 高レベルなのだろうか。それについて聞いて見ると「あたしなんてまだまだよ。早い人はレベル上限までカンストしてるもの。あたしはまだ武器種開放したばかり」

「あのハンマーって開放武器だったのか」

 騎士でいうところの二刀流あたりなのだろう。

「そうよ。クレリックの武器であるメイスの派生の一つにハンマーがあるの」

「ちゃんとプレイしてて偉いな。俺がアンジェラの立場だったらシステム改竄して絶対に楽する」

 アンジェラは小ぶりながらしっかり主張する胸に手を当てる。

「当然よ。神様になるのだから清廉潔白でいなきゃならないわ。だからズルはしないって決めてるの」

 志が高い。

 夢に向かって努力する眩しい存在であった。俺は自分から目標に向かって努力したことがない。努力したことは努力せざるえない状況だから頑張ったまでだ。

 だから、羨ましくなって少し意地悪をしたくなる。

「清廉潔白な存在が人を襲うのはいかがお考えで?」

「襲っていないわ。だって、戦っているのですもの」

「それは屁理屈なのではないのだろうか」

「あら酷い。ちゃんとゲームシステムと戦えるように調整してあげたのに」

 アンジェラが曰く、戦闘形態である姿には基本的にダメージを与えられないらしい。そこをアンジェラがちょちょいのちょいで弄くり、ダメージを与えられるようにしたとのことだ。正々堂々と闘いたい、後ろめたさなしに夢を叶えたいというまさに清廉潔白な理由であった。

 拒否権なしの勝負はいささか思考回路が蛮族であるが神様の尺度からするとあってないようなものなのだろう。

「でもさすがにショッピングモールの電脳で暴れるのは清廉潔白とはいえないのではないか?」

 これも神様の尺度からすれば誤差なのだろうと、笑い話にしてしまおうと切り出した。冗談風味に誤魔化すのか、いっそ開き直るのか、それとも違う何かで笑わせてくれるのか、期待した。

 だがアンジェラが見せた反応はそのいずれでもなかった。

「え、あたし……ショッピングモールの電脳で人を襲ったことないわ……」

 瞳が揺れ、顔は青褪めていた。
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