妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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4章 我が女神、それは

兄妹に感謝する機会なんて基本的にない方が幸せ

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 配信を強制終了したあと、妹は配信の疲れがどっと押し寄せたのかプライベートスペースで溶けるようにだらけていた。脳みそは手遅れだったらしく、黙って虚空を見つめていると思えば、突然フヒッと笑ったり、喉仏にジジイが顔を出したようにしゃがれた声を出したり、なかなかの奇行ぶりだった。

 相手をせずに隣でシオミンの配信をチェックしていると「ねえー! かまってー!」と突然起き上がって背中から覆い被さってくる。

「にーちゃんが配信辞めさせたんだから構えよー!」

 俺の肩を掴んでぶんぶん揺らす。

「知らねえよ。むしろ、あのままやってたら終わりが見えなかっただろうから感謝してほしいぐらいだ」

「それはそうだけどもうプライベートスペースでやるネタが尽きてやることないの!」

 そういえばアンジェラに襲われる可能性を考慮してプライベートスペースでのみ配信するように指示を出していた。アンジェラと密約を交わした今、もう襲われる心配はない。ゆえにプライベートスペースの外でも配信して構わないのだが、それをどうやって伝えるべきだろうか。

「他の配信者はどうしているんだ?」

「人によりけり。私みたいにプライベートスペースで配信してる人もいれば、エネミー気にせず大っぴらに配信してる人もいる。ま、配信者に限らずゲーマーはほとんど無視してるね。失って困る記憶どころか過去を忘れて一からやり直したいーって人も少なからずいるみたい」

「最後のはなんというか苦労したんだろうな」

「ねー。エネミーに襲われてみたって動画あげてる人もいるし、近日中の記憶しか取られないから問題ないって見方が多いみたい。忘れたら大変な記憶がある人はしばらく控えましょうってノリだね」

 大昔、伝染病が流行った時も風邪と大して変わらないから問題ないとマスクもせずに巷へ遊びに出掛け、感染爆発したという授業を思い出す。大昔から人間という生き物は成長をしないらしい。今回の場合は、自分の記憶を失うだけで人にうつさないから万事オーケイという考えなのかもしれないが。

「にーちゃん、もう外で配信してもいいでしょ?」

 上目遣いをされる。

 わざとらしく溜息をついて、妹の我儘を聞き届ける兄を演じてみせる。

「しょうがないな。もしエネミーに出会っても戦わないですぐに逃げるんだぞ?」

「よっしゃ! これでネタ切れから解放されるー!」

 両腕を突き上げて喜びを表現する妹。太陽のように晴れ晴れした表情で、この顔を見れただけでもアンジェラと手を組んで良かったと思える。

「さーって次は何やろっかなー。一人用ゲームと雑談は飽きたし、やっぱMMORPGとかやってみたかったしこれを機にチャレンジってのもいいね」

 楽しそうに予定を組み始める姿に安堵して、シオミンの配信チェックに戻ろうとすると「ヤバいヤバい!」と首根っこ掴まれ、空中に映し出したスクリーンに顔を合わせられる。

「汐見柚子からコラボのお誘いきたんだけど!」

 その時、俺は生まれて初めて舞香が妹になってくれて良かったと心から感謝した。
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