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4章 我が女神、それは

土下座配信

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 朝のニュースに心癒されてから講義に出席するために出掛け、夕方に大学から帰ってきてからも妹は配信を続けていた。

 現在のところ二十時間ぶっ続けで配信している。リスナーもそれぞれ仕事や学校が重なって途中で抜けていった。さすがに帰った頃にはもう配信を辞めているだろうと思っていたのだろう。未だ配信を続けている妹にドン引きしたコメントが山のように送られていた。

 ドン引きも一周回ると、今朝方のように優しく諭すのではなく「いい加減諦めて寝た方がいい。むしろ、寝ろ馬鹿野郎」と悲惨な健康診断の結果を見た医者の如く𠮟責されるようだ。それでも妹はめげずに「次はいける気がするから……!」などとパチンコ中毒末期患者のようなことをギラギラな目で言ってのける。もはや正気ではない。

 このままでは体力の限界までやるだろう。

 クリアできないのだから一生やる羽目になるだろう。

 このままでは寝て起きてはクリアできないゲームをするという生産性の欠片もないニート以下の存在が誕生してしまう。ドクターストップならぬブラザーストップをかけなければならない。噂に聞く母親がゲームのコンセントを抜いてゲームを強制終了させる技をしなければならない。

 妹は俺のプライベートスペースで配信をしている。

 そこに乱入することに決めた。

 ヘッドマウントディスプレイを通して身体が量産型アバターに変換される。つかの間の浮遊感の後、俺のプライベートスペースに着地する。俺のとはいっても、配信用に借り、ほぼ妹の部屋のような状態だ。実家の部屋と同じように整理整頓はされておらず、様々なオブジェクトがそこら中に散乱していた。配信用に一部のスペースだけオブジェクトがない箇所があり、そこに妹が座ってゲームをプレイしていた。もっとも足でオブジェクトを隅っこに押しやっただけだ。

 コメントが俺が現れたことに気付き、ざわめきだす。

 妹は画面に集中しているせいで気づかない。

 ゲームは序盤の山場。ここでよく死んでいる場面を今朝方よく見た。

 案の定、失敗した妹は癇癪を起こす。

 お菓子売り場の床で暴れる駄々っ子のようにその場でジタバタし、そして寝転がったまま見下ろす俺と目が合った。

「いつまでゲームやっているんだ」

「……クリアするまで終われない配信だから終われなくて……ね?」

 ウインクして可愛さアピールで誤魔化そうとする。

「ね、じゃない。早く終われ」

「えーでもリスナーとの約束が……」

「俺のせいにしていいから終われ。そして、今後クリアするまで終われない配信は禁止だ」

「えーっ! マイカの武器にしようとしてたのに!」

 英断だ、というコメントが多く流れる。リスナーも毎回いつまでも終わる気配がない配信をされても困るのだろう。

「待って! ラスト一回! 最後にもう一回だけ!」

 土下座を披露する妹。

 そのまま頭に足を乗せて馬鹿にしたい衝動に駆られたが、切り抜かれてアンチが増えることを危惧し、それを許した。

 そして、妹が気合を入れ直し臨んだラストチャンスは、開始五秒で凡ミスをかまし、妹の絶叫とともに配信が打ち切られた。

 この最後のやり取りを残した切り抜き動画は、伝説の土下座配信として語り継がれることになることを俺らはまだ知らない。
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