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3章 守るべきもの

そんなことは言っていない

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 通された部屋には北御門が待機していた。まだ約束の時間までは早かったからか俺の顔を見て、そのままの動きで壁にかかっていた時計を見ていた。

「早かったね。時間通りに来るものだと思ってたよ」

「俺もその予定のはずだったんだけどな」

 そうボヤいたら案内してくれた人が「この人、何かの手違いで説明会に参加するハメになって、先ほど会長がその姿を見て驚いていました」と苦笑した。

「あぁ……あれに参加したんだ。いい気しなかったでしょ」

 気まずそうな顔をされた。

 どうやら北御門もあの説明会が厄介な面々の交流の場になっていることは認識しているようであった。

「袖の下渡しそうな奴らばっかだったな」

「宗教法人を名乗ってはいるものの、実態は慈善活動団体みたいなものだから渡されても困るけどね」

「その割には会長にお近づきになりたいって参加者全員言ってたぞ」

「幹部になりたいんだろうね。街の顔役として引っ張りだこだから、経営者からすれば魅力的なんだろうね」

「そう聞くと悪徳宗教にしか聞こえないぞ」

「安心して彼らは幹部にはなれないから。なれるのは会長が本物の神様だって知っている中でもごく一部。今の幹部にも経営者はいるけど、そういう人は元から会長が本物の神様って知ってる人だから」

「それを隠して金蔓を説明会に参加させるとか、悪徳というかズルいな」

「え、あ、そ、そうなの……かな?」

 頭を捻る北御門。

「あ、でも! 三刀くんなら幹部候補として迎え入れられるよ」

 その提案は部屋に入ってきた人物によって却下されることになる。

「やめとき! 宗教なんてうっさんくさいもの。そんなんなくても人は生きていけるんやから」

 脱いだジャケットを肩に背負って登場した樹神さん。ジャケットを北御門に投げて渡し「疲れたぁー」とボスんとソファに腰掛ける。

「あー何度やっても人前に立って話すの苦手やわー」

 正面に座った樹神さん。説明会のシャンと鈴が鳴るような立ち振る舞いは彼女の本来の性格からかけ離れているのだろう。畳の上で寝転がり、座布団を丸めて昼寝するような着飾らなさが彼女本来の持ち味なのだろう。

 その横に座る北御門は立ち上がり、ジャケットを畳む。手際も、その出来も綺麗なものであった。普段からやらされ慣れているのがその所作から伺えた。

「宗教法人の会長が、宗教を胡散臭いとか言ったらお終いですよ」

 苦言を呈すのは北御門。

「こちとら神さんがぎょーさんいた時代の先輩方に、自分の教えからかけ離れたものになってるって愚痴られた身にもなってみぃ。阿呆らしくなるで。果ては神々が去った時代に神の声を聞いたなんて嘯く輩の多いこと! おかげで神様自らが道を違えないように目を光らせてる天樹会まで変な目で見られて、マジで阿呆くさくてしゃーないわ」

 なかなか明け透けな方らしい。

「それに数百年ぶりに神さんが生まれるから指導役任されたと思ったら、こない厄介なことになってるしで、もー面倒!」

 樹神さんはソファの背に両腕を回し、足をだらりと伸ばして天井を仰ぎ見た。

「樹神さん、その数百年ぶりに生まれる神というのはあの少女のことですか?」

 数秒の間があった。

「そうともいうし、そうではないとも言えるなぁ」

 顔をコチラに向ける。

「あの子も神候補やし、あんたの妹さんも神候補の一人や」
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