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3章 守るべきもの
品性までは金で買えない
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天樹会の本拠地は雑居ビルである。ビル一棟丸ごと借りているらしく、各階で宗教法人としての活動を行っているようであった。
樹神という女性から会おうと言われた場所はこのビルである。話は通しておくから時間になったら、受付のねーちゃんに誰それと伝えれば通すように言っておくとのことであった。だが、乗り込むぞという意気込みが強すぎて、時間よりも早く到着してしまう失態を犯していた。
北御門を呼び出そうとも考えたが、妹に話を聞かれたくないゆえ携帯は自宅に置いてきたので連絡を取りようがない。
一階はエレベーターフロアらしく、そこを少しばかり覗いてどこかで時間を潰そうと考えていたら見知らぬおばさんに肩を叩かれる。
「あら、あなた天樹会に興味あるの? おばさんが一緒についてってあげるわよ」
そう言うやいなや、俺の腕を引っ張り、タイミング悪く開いたエレベーターにそのまま連れ込まれてしまった。エレベーター内でおばさんに「興味ないです」と断りを入れるも「だいじょーぶ。うちは他の新興宗教と違って、江戸から続く老舗だから!」と押し切られた。
中高年は人の話を聞かないという特性があるらしい。いくら俺が否定し続けても「だいじょうぶよ~」と聞く耳をもたない。掴まれた腕を振りほどくという手もあったが、このあと樹神さんと会うのにそこの信者と揉め事を起こしたくない思惑もある。
あれよあれよと新規会員説明会らしき場所に「追加で一人ね!」と放り込まれ、俺はパンフレットの山を手渡された。
俺が最後の一人だったらしく、席に着くと同時に説明が始まった。
説明された内容は、以前調べた内容と大きく変わらないようであった。ボランティア活動が主であり、他には地域活性化を目的とした活動もしているという。顔役という部分は地域活性化で担っているのだろう。
周囲の参加者を見渡す。
十数人程度の参加者がいるようだが、若い人はいなかった。
皆さん、中高年以上で身なりのよろしい方が多いように思えた。あまりにバシッと決めている方が多いので、これは新規事業説明会の場か社交界に類する一般市民には知る機会のない何かなのではないかと勘ぐってしまう。
あまりに周囲を見回していたら隣の席のダンディなオジサマに「君、気が散るからあまりキョロキョロするものじゃない」と注意されてしまった。
このオジサマも例に漏れず、むしろ舐められないようにという思いが先走っているようで、ブランド物らしきシルエットが素晴らしいスーツに、腐れ大学生の俺でも名前ぐらいは知っている老舗メーカーの腕時計をつけていた。全身で総額幾らになるか、しがない大学生の俺には想像もつかない。
説明会の一環であるオリエンテーションでは、参加者同士が自己紹介する場が設けられていた。
ここが参加者にとっては本番だったらしく、一通りの自己紹介が終わると商談が始まってしまう。自らの会社がどんなことをしているのかを語っていたのは、自己PRだったのだ。ちなみに俺の自己紹介の時は、学生ベンチャーか何かだと期待されていたのか、ただの学生と言ったら目に見えるほど落胆されてしまった。
無理矢理連れてこられて落胆されるなんて理不尽の極みである。
その後は俺はいないものとして商談が進み、商談もひと段落つくと、話題は将来的に会長やその周辺と懇意にできる人が現れるのかというものだった。話している内容から察するに、街の顔役と親しくなれば商売をする上ではとても便利というものだった。
その話に加わる気もなかったが、周囲のオジ様達は軽んじていいという評価が下った俺に勝ち誇った顔や大げさに呆れた表情を見せてくる。
「みなさま、本日は珍しく会長がいらっしゃいますので挨拶をしていただきたいと思います。再度ご着席していただき、少々お待ちください」
司会進行の指示に従い、元いた席に座る。
それから一分ほどして、会場の扉が開かれる。レディーススーツの樹神さんが会場に入り、登壇する。ハイトーンのグラデーションカラーの髪とレディーススーツ、颯爽と歩く姿が噛み合ってまるでランウェイを歩くモデルのようであった。
「天樹会会長務めさせていただいております、樹神真紀です。本日は説明会にお越しいただき――ってキミ、ここでなにやっとんの?」
樹神さんが俺を指差す。
「信者の方に放り込まれました」
「あーもうそれは悪いことしたわ。彼らに悪気はないねん。許してやってくれへんか」
「出て行くタイミングなかったので参加してましたが、もう出てってもいいですか?」
「この挨拶終わったら例の件、すぐ行くから待ってて。なんなら敏樹はもう待たせてあるから」
樹神さんが近くの信者に指示を出して、俺は応接間に案内されることになった。
説明会の会場から出て行く際にちらりと後ろに目を遣る。
まさか俺が会長と知り合いだったとは思わなかったのであろう。目を大きく見開いたり、口から力がぬけてアホ面をかましたり、など多種多様な愕然とする様を観察できた。
樹神という女性から会おうと言われた場所はこのビルである。話は通しておくから時間になったら、受付のねーちゃんに誰それと伝えれば通すように言っておくとのことであった。だが、乗り込むぞという意気込みが強すぎて、時間よりも早く到着してしまう失態を犯していた。
北御門を呼び出そうとも考えたが、妹に話を聞かれたくないゆえ携帯は自宅に置いてきたので連絡を取りようがない。
一階はエレベーターフロアらしく、そこを少しばかり覗いてどこかで時間を潰そうと考えていたら見知らぬおばさんに肩を叩かれる。
「あら、あなた天樹会に興味あるの? おばさんが一緒についてってあげるわよ」
そう言うやいなや、俺の腕を引っ張り、タイミング悪く開いたエレベーターにそのまま連れ込まれてしまった。エレベーター内でおばさんに「興味ないです」と断りを入れるも「だいじょーぶ。うちは他の新興宗教と違って、江戸から続く老舗だから!」と押し切られた。
中高年は人の話を聞かないという特性があるらしい。いくら俺が否定し続けても「だいじょうぶよ~」と聞く耳をもたない。掴まれた腕を振りほどくという手もあったが、このあと樹神さんと会うのにそこの信者と揉め事を起こしたくない思惑もある。
あれよあれよと新規会員説明会らしき場所に「追加で一人ね!」と放り込まれ、俺はパンフレットの山を手渡された。
俺が最後の一人だったらしく、席に着くと同時に説明が始まった。
説明された内容は、以前調べた内容と大きく変わらないようであった。ボランティア活動が主であり、他には地域活性化を目的とした活動もしているという。顔役という部分は地域活性化で担っているのだろう。
周囲の参加者を見渡す。
十数人程度の参加者がいるようだが、若い人はいなかった。
皆さん、中高年以上で身なりのよろしい方が多いように思えた。あまりにバシッと決めている方が多いので、これは新規事業説明会の場か社交界に類する一般市民には知る機会のない何かなのではないかと勘ぐってしまう。
あまりに周囲を見回していたら隣の席のダンディなオジサマに「君、気が散るからあまりキョロキョロするものじゃない」と注意されてしまった。
このオジサマも例に漏れず、むしろ舐められないようにという思いが先走っているようで、ブランド物らしきシルエットが素晴らしいスーツに、腐れ大学生の俺でも名前ぐらいは知っている老舗メーカーの腕時計をつけていた。全身で総額幾らになるか、しがない大学生の俺には想像もつかない。
説明会の一環であるオリエンテーションでは、参加者同士が自己紹介する場が設けられていた。
ここが参加者にとっては本番だったらしく、一通りの自己紹介が終わると商談が始まってしまう。自らの会社がどんなことをしているのかを語っていたのは、自己PRだったのだ。ちなみに俺の自己紹介の時は、学生ベンチャーか何かだと期待されていたのか、ただの学生と言ったら目に見えるほど落胆されてしまった。
無理矢理連れてこられて落胆されるなんて理不尽の極みである。
その後は俺はいないものとして商談が進み、商談もひと段落つくと、話題は将来的に会長やその周辺と懇意にできる人が現れるのかというものだった。話している内容から察するに、街の顔役と親しくなれば商売をする上ではとても便利というものだった。
その話に加わる気もなかったが、周囲のオジ様達は軽んじていいという評価が下った俺に勝ち誇った顔や大げさに呆れた表情を見せてくる。
「みなさま、本日は珍しく会長がいらっしゃいますので挨拶をしていただきたいと思います。再度ご着席していただき、少々お待ちください」
司会進行の指示に従い、元いた席に座る。
それから一分ほどして、会場の扉が開かれる。レディーススーツの樹神さんが会場に入り、登壇する。ハイトーンのグラデーションカラーの髪とレディーススーツ、颯爽と歩く姿が噛み合ってまるでランウェイを歩くモデルのようであった。
「天樹会会長務めさせていただいております、樹神真紀です。本日は説明会にお越しいただき――ってキミ、ここでなにやっとんの?」
樹神さんが俺を指差す。
「信者の方に放り込まれました」
「あーもうそれは悪いことしたわ。彼らに悪気はないねん。許してやってくれへんか」
「出て行くタイミングなかったので参加してましたが、もう出てってもいいですか?」
「この挨拶終わったら例の件、すぐ行くから待ってて。なんなら敏樹はもう待たせてあるから」
樹神さんが近くの信者に指示を出して、俺は応接間に案内されることになった。
説明会の会場から出て行く際にちらりと後ろに目を遣る。
まさか俺が会長と知り合いだったとは思わなかったのであろう。目を大きく見開いたり、口から力がぬけてアホ面をかましたり、など多種多様な愕然とする様を観察できた。
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