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2章 アンチもいれば信者もいる男
イマドキの子は進んでいるのに少子化
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妹を携帯に入れたままバイトに汗を流していると、途中で桜庭が合流した。夜遅くになって客もまばらになった頃、天樹会の話を切り出した。
桜庭が言うには会うだけ会った方がよさそうということだが、相手の本拠地に出向く必要はないという意見であった。どんな相手かわからず、何をされるかわかったものではないため、第三者の目がある場所がいいという。また、相手が複数人で来る可能性もあるため、桜庭がついてくるかつチームメンバーに近くで見張っててもらうことを提案された。
その提案に同意して、相談終わったと思った。
桜庭が続ける。
「あ、オレ、バイト今日までだから」
アホ面を晒す俺に桜庭はしてやったりな顔をする。
「いやーエネミー関連で忙しくてなーこれからもっと忙しくなりそうだから辞めるしかなかったんだよなー」
忙しいのはわかるが、一緒のシフトに入ることが多かった桜庭が辞めてしまったら俺の負担が大きくなるではないか。
「てかバイト補充されないの?」
シャツの胸ポケットに入れた携帯から妹の声が聞こえてくる。桜庭は「一緒にバイトまでくるとかやっぱシスコンだな」とおちょくってくる。それを丁寧にシカトする。
「されるはされるだろうが、すぐには難しいだろうな」
「ふーん、サクラバさんはバイト辞めて本業専念?」
「本業は学生なんだけどな。まープロとして対エネミーの方針決めにしばらく専念かな」
「どんなもんなの?」
「毎日役人たちと相談してる。ただ何をするにも上の許可がーって感じで正直アテにならん。そもそも未知の存在に対し、どうするべきか上の上でも揉めてるらしい。ならそっちで話しつけてから、俺らに話持ってこいよって思うね」
決まるアテのないミーティングに参加させられて、そのくせ何か案を出せとせっつかれて苛立つ日々のようだった。「いっそ国を無視して、どうにかしてやろうか。今こそネットの自由を取り戻す時だ!」なんてアナーキーな発言も飛び出した。
延々と毒づく桜庭に嫌気が差す。
「そういえば前に探り入れられたって言ってただろ。国は何か知ってたのか?」
「知らない顔の色んな派閥が出入りするせいでオレも全体像を掴めた訳じゃないけどな。――だが何か知ってる奴は絶対にいる」
技術立国として名を馳せた我が国で、よもや国の中枢にオカルトを信じている輩がいるとは。しかも、百年も昔ならいざ知らず、今や電脳世界がごく当たり前な日常と化した時代にも関わらず。
「そっちに関してはオレに任せとけ。お前はお前でアンチどうにかしろ」
「アンチってのは相手してあげると喜ぶんだ。リアルじゃ誰にも相手にされないボッチ野郎がやってるに違いない。アイドル界隈に生息するアンチの底を垣間見てきた俺からしたらこんなのはまだまだだな」
「ちなみにどんな奴がいたんだ」
「アイドルに反応がもらえると嬉しかったのがエスカレートしていって、酷すぎて無視されるようになって、でも無視されるのが許せなくなって、ダイレクトな犯罪行為に走り、逮捕された」
「お前はそうはなるなよ」
「安心しろ。俺は紳士を心掛けているからな」
「変態紳士の間違いだろ」
「ははは、くたばれ」
暇つぶしに悪口の空中戦でも始めようかと、罵詈雑言のボキャブラリーを引き出していたら、視界にあるものが入り込んだ。先日見かけたどこぞのお嬢様な少女だった。今日も今日とて物陰から俺に向かって視線を飛ばしている。
桜庭も気付き、妹もカメラ越しに見つけて「可愛い!」とスピーカーから甲高い声が響いた。
「あの子、また来てたのか」
その呟きに反応を示したのは桜庭だった。
「またって前にも来てたのか?」
「お前がバイト休んでた時にな」
「めっちゃ見られてるな」
「めっちゃ見てくるんだよな」
じーっと見てくる少女。やはり今日も俺が視線をそちらに配るとさっと隠れてしまうようで、バレないよう視界の端っこに収めていた。
「にーちゃんさ、話しかけてみたら?」
「あの調子だと逃げられるだろ」
「私の見立てだと話したいけど話しかけられない恥ずかしがり屋な波動を感じますね」
「その身体でどうやって波動感じるんだよ」
「遠赤外線的な」
「この携帯に赤外線機能ついてないぞ」
妹が入ってるせいで騒がしい携帯を桜庭に預け、少女に歩いて近づく。少女は最初は隠れる素振りをしたものの、逃げ出すことはせずに俺を待った。
「こんばんは。君、一人みたいだけど家は近いのかな?」
少女は意を決すた顔をする。
「二人きりで話したいの。……だめかしら?」
上目遣いは大変可愛らしかった。
大昔からイマドキの子は進んでいると聞くが、この子も例にもれず進んでいるようだった。この子が進んでいるのではなく俺が周回遅れになっているだけな気もしなくはない。
桜庭が言うには会うだけ会った方がよさそうということだが、相手の本拠地に出向く必要はないという意見であった。どんな相手かわからず、何をされるかわかったものではないため、第三者の目がある場所がいいという。また、相手が複数人で来る可能性もあるため、桜庭がついてくるかつチームメンバーに近くで見張っててもらうことを提案された。
その提案に同意して、相談終わったと思った。
桜庭が続ける。
「あ、オレ、バイト今日までだから」
アホ面を晒す俺に桜庭はしてやったりな顔をする。
「いやーエネミー関連で忙しくてなーこれからもっと忙しくなりそうだから辞めるしかなかったんだよなー」
忙しいのはわかるが、一緒のシフトに入ることが多かった桜庭が辞めてしまったら俺の負担が大きくなるではないか。
「てかバイト補充されないの?」
シャツの胸ポケットに入れた携帯から妹の声が聞こえてくる。桜庭は「一緒にバイトまでくるとかやっぱシスコンだな」とおちょくってくる。それを丁寧にシカトする。
「されるはされるだろうが、すぐには難しいだろうな」
「ふーん、サクラバさんはバイト辞めて本業専念?」
「本業は学生なんだけどな。まープロとして対エネミーの方針決めにしばらく専念かな」
「どんなもんなの?」
「毎日役人たちと相談してる。ただ何をするにも上の許可がーって感じで正直アテにならん。そもそも未知の存在に対し、どうするべきか上の上でも揉めてるらしい。ならそっちで話しつけてから、俺らに話持ってこいよって思うね」
決まるアテのないミーティングに参加させられて、そのくせ何か案を出せとせっつかれて苛立つ日々のようだった。「いっそ国を無視して、どうにかしてやろうか。今こそネットの自由を取り戻す時だ!」なんてアナーキーな発言も飛び出した。
延々と毒づく桜庭に嫌気が差す。
「そういえば前に探り入れられたって言ってただろ。国は何か知ってたのか?」
「知らない顔の色んな派閥が出入りするせいでオレも全体像を掴めた訳じゃないけどな。――だが何か知ってる奴は絶対にいる」
技術立国として名を馳せた我が国で、よもや国の中枢にオカルトを信じている輩がいるとは。しかも、百年も昔ならいざ知らず、今や電脳世界がごく当たり前な日常と化した時代にも関わらず。
「そっちに関してはオレに任せとけ。お前はお前でアンチどうにかしろ」
「アンチってのは相手してあげると喜ぶんだ。リアルじゃ誰にも相手にされないボッチ野郎がやってるに違いない。アイドル界隈に生息するアンチの底を垣間見てきた俺からしたらこんなのはまだまだだな」
「ちなみにどんな奴がいたんだ」
「アイドルに反応がもらえると嬉しかったのがエスカレートしていって、酷すぎて無視されるようになって、でも無視されるのが許せなくなって、ダイレクトな犯罪行為に走り、逮捕された」
「お前はそうはなるなよ」
「安心しろ。俺は紳士を心掛けているからな」
「変態紳士の間違いだろ」
「ははは、くたばれ」
暇つぶしに悪口の空中戦でも始めようかと、罵詈雑言のボキャブラリーを引き出していたら、視界にあるものが入り込んだ。先日見かけたどこぞのお嬢様な少女だった。今日も今日とて物陰から俺に向かって視線を飛ばしている。
桜庭も気付き、妹もカメラ越しに見つけて「可愛い!」とスピーカーから甲高い声が響いた。
「あの子、また来てたのか」
その呟きに反応を示したのは桜庭だった。
「またって前にも来てたのか?」
「お前がバイト休んでた時にな」
「めっちゃ見られてるな」
「めっちゃ見てくるんだよな」
じーっと見てくる少女。やはり今日も俺が視線をそちらに配るとさっと隠れてしまうようで、バレないよう視界の端っこに収めていた。
「にーちゃんさ、話しかけてみたら?」
「あの調子だと逃げられるだろ」
「私の見立てだと話したいけど話しかけられない恥ずかしがり屋な波動を感じますね」
「その身体でどうやって波動感じるんだよ」
「遠赤外線的な」
「この携帯に赤外線機能ついてないぞ」
妹が入ってるせいで騒がしい携帯を桜庭に預け、少女に歩いて近づく。少女は最初は隠れる素振りをしたものの、逃げ出すことはせずに俺を待った。
「こんばんは。君、一人みたいだけど家は近いのかな?」
少女は意を決すた顔をする。
「二人きりで話したいの。……だめかしら?」
上目遣いは大変可愛らしかった。
大昔からイマドキの子は進んでいると聞くが、この子も例にもれず進んでいるようだった。この子が進んでいるのではなく俺が周回遅れになっているだけな気もしなくはない。
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