妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
37 / 229
2章 アンチもいれば信者もいる男

不思議と信用できない人

しおりを挟む
 たとえば困った状況と聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか。

 人によって答えは様々だろう。あるものにとっては困った状況でも、またある者にとっては困るほどの状況ではないということもある。困った状況にあるが、助けを求められる状況ではないということも大いにあり得る。

 俺は今まさにそういう状況に陥っていた。

 バイト先は靴屋だ。何の変哲もないチェーン店の靴屋。もうすぐ閉店時間になろうというところで、客も数人程度。店長から明日から売り出す新作の靴の品出しをもう始めちゃっていいと指示を受けたので対応していた最中にそれは起きた。

 いつの間にか店内にいた少女にめっちゃ見られている。

 物陰からバレないようにじっとこちらを見てくるのだ。そちらに視線を送ると、サッと隠れる。視線を外すとまた物陰から顔を出して見てくる。店内のあちこちに置かれた鏡で動きはバレバレなのだが、本人はどうやらバレていないと思っているらしい。

 背丈から見るに、小学生の低学年だろうか。幼さの残る顔立ちをしていた。ただ、欧米の血が混ざっているのか綺麗な金の髪色をしていた。お嬢様なのだろう。子供服に疎い俺でも一目でお高そうと分かるフォーマルっぽいグレーのワンピース、フワフワのベレー帽を身に着けていた。

 子供は嫌いではないが、こういった状況は得意ではない。

 外面が良い桜庭はバイトを休んでいる。店長は店の奥で事務作業にかかりっきりになっているから、誰かに頼るということもできやしない。

 親に連れられて来たのだろうと辺りを見回してみても、親っぽい人は見当たらない。大人は数人いたのだが、どれもこの子の親と呼ぶには身なりに差があった。

 さて、どうしたものかと品出ししながら考えていると自動ドアが開いて新しい客が入ってくる。

 そちらに目を遣ると見知った顔であった。

 先日、一緒に課題をしないかと誘ってきたモデルくんだった。

 向こうも俺の顔に気付くと笑顔でツカツカと近寄ってくる。少女はモデルの顔を見ると、少し離れた場所に逃げて行った。

「やあ、君ってここのバイトだったんだね。知らなかったよ」

「教える理由もなかったんで」

「でもわかるかも。僕もモデルやってるって自分からは言わないしね」

「いや、それとは理由が違うと思うが」

 俺は純粋にそこまで親しい友人がいないだけである。向こうが想定してるのは業務内容を考慮して、面倒な会話にならないようにという訳ではない。

「でも、たまたまだけど会えて良かったよ。大学構内だと話すタイミングなかったしね」

「……話すことなんてあったか?」

「仲良くなりたいだけだよ」

 胡散臭い。

 爽やかな優男の笑みが警笛を全力で鳴らしていた。

 何か裏がある。そう思わせてならないクリーンなお顔であった。

「ところでさ気になったんだけど、あの子どうしたの?」

 モデルくんが遠くから俺らを見てくる少女を指差す。

「わからない。いつの間にかいて、ずっと見てくるんだ。親っぽい人もいなそうだし困ってる」

「ふうん、じゃ僕がちょっと話してくるよ」

 そう言うとモデルくんは少女のもとへ近づいていく。

 少女は近づいてくるモデルに目を細め、一歩後退り、警戒感をあらわにした。

 モデルくんはしゃがんで少女と視線を合わせる。

 そこでいくつかの話をしていたようだった。

 話が終わると、少女は外へ駆けていく。

 モデルくんは戻ってきて「なんか僕が信用ならなかったみたいで逃げだしちゃった」と照れ臭そうに頭を搔いていた。

「いや、助かったよ。もうすぐ閉店だから、最悪警察に連絡しなきゃいけないところだった。というかもう蛍の光流れるから、欲しいものあったらさっさと会計してくれないか?」

「友人ってことで少し待ってもらうことはできないかな」

「客に優劣をつけるなんてできないからさっさとしろ」

 蛍の光が流れ始めたので、流石に買うのを諦めたようだった。

「バイト終わりなんでしょ。だったら一緒に帰らないかい?」

「悪いな。店が終わっても品出しは続くんだ」

 そう言うとモデルくんはトボトボと帰っていった。

 閉店後の戸締りしながらバイト中にあったことを思い出す。

 まともに話したこともないやつと「仲良くなりたい」なんて絶対にまともな感性を持っているはずがない。絶対に何か裏があるに違いない。その裏が何かは知らないが、そのうちヤバい学外サークルに誘われそうな予感はある。正直、誘うならば女性からお誘いを受けたかった。何が悲しくて野郎から誘われなければならないのだ。友達が少ないから野郎でもいけると思われたのだろうか。

 そういえば夜更けに一人で返ったあの少女は無事家に辿り着けただろうか。

 あの胡散臭いモデルくんと少し話しただけで逃げ出した危機意識の高さならばきっと無事だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...