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2章 アンチもいれば信者もいる男
陰キャ
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世間が大変なことになっていようと、俺のアンチが世間様に迷惑をかけていようと、日常というものは途切れることなく続いていくものである。それはもうこちらの都合なんかお構いなしで矢継ぎ早に流れていくものである。
しがない大学生である俺は今日も今日とて講義に足を運び、同時多発的に大量の課題が出された。しかも締め切りが全て早いときた。これはいかんと思い、図書館に籠もり、爆弾解除するように慎重に、けれど迅速に処理に徹する。
本来大学生というのは、友人らと協力し合い、もしくは一方的に利用するケースもあるかもしれないが、複数人で課題の解決に臨むべきなのだ。無論、一人で出来てこそ立派な学生だという風向きはあるのかもしれない。だが、えてしてそういう輩は名のある大学に受かっているはずである、受験から逃れるためだったり、モラトリアム期間を延長することを目的とした輩ばかりで溢れかえっている本学では求めるには高過ぎるレベルであることは否定し難い。
普段は桜庭と協力していたのだが、ここ最近の桜庭は忙しく大学どころではないため、俺一人で対策せねばならなくなっていた。「他の友人に協力を仰げば?」と妹は軽く言ってくれるが、そんな友人ができるならば桜庭と友人になどなっていない。
遠くのテーブル席では陽キャ達が雑談しながら楽しそうに課題をこなしていた。その中の一人は見覚えがあった。
そいつは同学年で講義が一部被っていた。野郎である。細みな優男。ユニセックスな雰囲気を持つし、ファッションもそれを強調するような、綺麗な格好をしている。
普段は野郎の顔なんて覚える趣味もないが、そいつは地元紙のモデルをやっていて、街を歩けばそいつの顔が嫌でも目につく。目につき過ぎて、休日外に出ない日ぐらいしか顔を見なくて済む日はない。
そいつがなにか仕草をする度に、周囲の女性がキャーキャー騒ぐものだから、うるさくてかなわない。ここは図書館であり、静かにするべきルールを守っている俺の方がどこかアウェイだった。陽キャに歯向かう勇気など俺にはなかった。
ここにいては進む課題も進まないと観念し、自宅でお菓子でも食べながら続きをしようと思って帰り支度を始める。
すると何を思ったのだろう。そのモデルは俺の席までやってきて、柔和な笑みを浮かべてくる。
「ねえ、君さ同じ講義に出てたよね。一緒に課題やらない?」
陽キャというものを舐めていた。顔見知り程度の輩にまで物怖じせず、声をかけるとは。しかも、課題を一緒にやるなんて渡りに船である。
ただ、その誘いを受けるという選択肢はなかった。
その理由はコイツのお仲間であった。
女性が多い。男性もいたが、少しばかり肩身狭そうにしていた。それもそのはず、女性たちがモデルと一緒に過ごしたいばかりに、モデルと男たちの友人グループにくっついてきたからだ。男たちはモデル一強の空気を変えようとしていたが、その全てが空振りに終わっていた。
何故知っているか?
図書館であれだけ騒げば、そりゃあ筒抜けだ。
そんな中に単身陰キャが飛び込めば、男性たちには新しい競争相手として扱われ、女性たちには邪魔だ出て行けとばかりにけちょんけちょんにされるのが目に見えている。
きっとこのモデルも自分のお仲間からヘイトを買うのが嫌で新しい生贄として誘ったのだろう。
そんなところに飛び込む阿呆はいない。
飛び込むのは女に飢えた見境のないケダモノだけだ。
俺はシオミンを愛好する紳士だから飛び込まないで済んだ。
「悪いな。一人の方が落ち着くんだ」
そう強がりを吐いて帰路についた。
課題が深夜までかかったのは言うまでもない。
しがない大学生である俺は今日も今日とて講義に足を運び、同時多発的に大量の課題が出された。しかも締め切りが全て早いときた。これはいかんと思い、図書館に籠もり、爆弾解除するように慎重に、けれど迅速に処理に徹する。
本来大学生というのは、友人らと協力し合い、もしくは一方的に利用するケースもあるかもしれないが、複数人で課題の解決に臨むべきなのだ。無論、一人で出来てこそ立派な学生だという風向きはあるのかもしれない。だが、えてしてそういう輩は名のある大学に受かっているはずである、受験から逃れるためだったり、モラトリアム期間を延長することを目的とした輩ばかりで溢れかえっている本学では求めるには高過ぎるレベルであることは否定し難い。
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遠くのテーブル席では陽キャ達が雑談しながら楽しそうに課題をこなしていた。その中の一人は見覚えがあった。
そいつは同学年で講義が一部被っていた。野郎である。細みな優男。ユニセックスな雰囲気を持つし、ファッションもそれを強調するような、綺麗な格好をしている。
普段は野郎の顔なんて覚える趣味もないが、そいつは地元紙のモデルをやっていて、街を歩けばそいつの顔が嫌でも目につく。目につき過ぎて、休日外に出ない日ぐらいしか顔を見なくて済む日はない。
そいつがなにか仕草をする度に、周囲の女性がキャーキャー騒ぐものだから、うるさくてかなわない。ここは図書館であり、静かにするべきルールを守っている俺の方がどこかアウェイだった。陽キャに歯向かう勇気など俺にはなかった。
ここにいては進む課題も進まないと観念し、自宅でお菓子でも食べながら続きをしようと思って帰り支度を始める。
すると何を思ったのだろう。そのモデルは俺の席までやってきて、柔和な笑みを浮かべてくる。
「ねえ、君さ同じ講義に出てたよね。一緒に課題やらない?」
陽キャというものを舐めていた。顔見知り程度の輩にまで物怖じせず、声をかけるとは。しかも、課題を一緒にやるなんて渡りに船である。
ただ、その誘いを受けるという選択肢はなかった。
その理由はコイツのお仲間であった。
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何故知っているか?
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そんな中に単身陰キャが飛び込めば、男性たちには新しい競争相手として扱われ、女性たちには邪魔だ出て行けとばかりにけちょんけちょんにされるのが目に見えている。
きっとこのモデルも自分のお仲間からヘイトを買うのが嫌で新しい生贄として誘ったのだろう。
そんなところに飛び込む阿呆はいない。
飛び込むのは女に飢えた見境のないケダモノだけだ。
俺はシオミンを愛好する紳士だから飛び込まないで済んだ。
「悪いな。一人の方が落ち着くんだ」
そう強がりを吐いて帰路についた。
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