妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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2章 アンチもいれば信者もいる男

記憶喪失者側からの拒否

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 桜庭が運転する車に揺られて一時間。

 やってきたのは桜庭の実家だった。とは言ってもそこに車を泊めて、親御さんに簡単な挨拶しただけで家の中に入ったわけではない。用事があったのはその隣の家。工藤という表札が掛かった家であった。

 チャイムを鳴らすと、幼馴染の親御さんが現れたので、ここでも挨拶をすることになる。話は通っていたらしく「あら、あなたが麗子が面白いって言ってた人?」と言われる。麗子という幼馴染が俺のことを愉快な人間だと思っていることが判明する。

「面白いつもりはないんですがね……」

 そう切り返すも「天然で面白いってことね」と真っ向から切り伏せられてしまった。

 幼馴染である工藤さんの自室は二階にあるので階段を登り、桜庭がノックする。

「麗子、入るぞ」

 扉の向こう側から穏やかな声が聞こえる。

「直人さんですね。どうぞ入ってください」

 扉を開けると、果実を切った時のような爽やかな甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 女性の部屋というものは今にして思えば妹のものしか知らなかった。妹の部屋は、およそ整理整頓というものから縁遠い生活を送っているのが一目でわかるものだった。俺にとってはそれがデフォルトで、女性の部屋に対して夢を見なくさせるには十分なものだった。

 そんな俺に対し、その部屋は忘れていたロマンを思い出させるものであった。

 第一印象は大人可愛い部屋だった。

 全体的に白やグレーなど落ち着いたフリルやレースが多くあり、家具はアンティーク調でまとめていて大人っぽさを演出していた。もこもこなラグやクマさんのぬいぐるみ、差し色で薄い桃色のクッションが置かれて可愛いらしさもあった。

 その真ん中で座る工藤さん。背は小さめではあるけれど、可愛らしいというよりかは美人の部類に入っていた。スレンダーでウェーブがかった長髪を流し、大きめのルームウェアを身に着けていた。

「直人さん、その方が?」

 ゆっくりとした所作で尋ねる姿はいいとこのお嬢様然としていた。

 妹に爪の垢を煎じてがぶ飲みさせたい。

「ああ、前言ってた量産型を馬鹿にしたやつに喧嘩売ったやつだ」

 どういう紹介の仕方してんだよ、小突いてやりたくなるがお嬢様の前なので我慢する。

「三刀総司です。よろしく」

「わぁーすごい! 機械苦手だから、あたしも量産型使ってるの! だから、ああ言ってくれてスカッとしました!」

「そう言ってくれると喧嘩売ってみて良かったと思いますね」

「大会がああなって有耶無耶になったのは残念ですけど、本当なら量産型使いの星になってたはずなのにね」

「ありがとうございます。しかし、貴女みたいな人がコイツみたいな性格悪い奴の幼馴染なんて何かの間違いじゃないですかね」

 工藤さんが目を逸らす。

「あたしが記憶喪失ってことは……聞いてる……よね?」

「聞いていますがそれがなにか?」

「その……あたし記憶を失う前、全然違う感じだったみたいで」

 そう言って俯いてしまう。

 隣から桜庭が携帯の画面を俺に見せてくる。そこには工藤さんによく似た、けれど雰囲気がジェラピケが似合いそうな今の工藤さんと真逆の――深夜のドンキで見掛けそうな人の写真が表示されていた。

「これは……?」

 わかりきった答えを尋ねる。

 答えたくなさそうな工藤さんの代わり桜庭が言う。

「半年前の麗子の姿がこれ」

 言うべきか言わざるべきか少しばかり考えて、正直になろうと決めた。

「記憶戻らない方が良くないか」

 それに乗っかって工藤さんも「あたしも記憶取り戻さない方がいいと思います……」と同意を示した。

 桜庭だけが「いや、こんなんでも俺の大切な幼馴染だし、こいつのダチも記憶戻って欲しいって願ってるからな!」と一人言い張って聞かなかった。
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