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1章 義妹と書いて偽妹と読む
崩れてからが本番
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走った。
リアルでやろうとすれば日頃の運動不足が祟って、息切れをするか、思い切り転倒するぐらいの全力疾走。妹を担いで向かった先にアテなどない。とにかくその場から離れることが最優先だった。
あまりに余裕がなかった反動なのか、適当に隠れられる場所を見つけて一息ついたら、スタコラサッサと正義の味方から走って逃げられるアニメキャラクターは物凄い脚力の持ち主なのでは」と緊張感の欠片もないことが頭によぎった。
「ここ、戦った跡あるね」と妹が言った。
妹の言うとおり、そこは戦場だった痕跡があった。
ビル屋内。弾が跳ね、鉤爪で抉られた跡がそこにはあった。そして、プレイヤーが死んだとされる場所には大量の物資も転がっていた。
「最後のチームが戦っていた場所だね」
妹は物資に飛びつき、装備を整えていく。
「ほら、にーちゃんもさっさと装備整えて、いつアイツが来るかわからないんだし」
妹の横にしゃがみ、一緒に物資を漁り、漁ったアイテムで能力を使うためのエネルギーを回復する。
「なあ」
「にーちゃん?」
「お前は戦うな」
妹の顔を見ずに言った。
「はぁ!?」
怒っている顔が目に浮かぶ。妹はいつも怒るときは目を大きくしていた。
「俺だけが戦う。お前はグレネードで自決してゲームから安全に離脱しろ」
ゲームジャンルごとのお約束ごとがある。
それはゲームをより面白くするためだったり、不快感を消すためのものだ。ゆえにそれはリアリティがないという誹りを受けたとしても必要なものとして、長年掛けて洗練されながら守り抜かれてきた。
FPSというゲームにおいては、グレネードなどの爆発物は自分と敵にはダメージを与えるが、味方にはダメージを与えない仕様となっている。これは味方との意思疎通が難しい混乱する戦場において、視認性が悪く、突然爆発するものは、ただただ味方を巻き込み、殺すだけの武器になり得るからだ。
ゆえに味方へのダメージ、いわゆるフレンドリーファイアは抑制されている。
だから、妹は自決することで安全にゲームから離脱することができる。
「だったらにーちゃんも一緒に死のうよ。そうすれば二人して安全に抜けられるって」
たしかに今ならば俺自身も安全にゲームから抜けられる。
「悪いな。俺は今からクソ野郎の敵を取りに行く」
妹の顔を見る。
妹は泣いていた。
「そりゃにーちゃんだもん。そうするよね……」
妹は「ちょっと待ってて」と言って、そこら中に転がる物資の中から一つを探し出し、俺に手渡す。
それは刀によく似た、片刃の直剣であった。
「これ、スコープで見てた時から持ってるの知ってて狙ってたの。ネタ武器扱いされるけど、攻撃力だけならピカ一だし、近接戦闘なると思うからさ」
それを受け取ると、俺は踵を返す。
「それじゃあ――逝ってくる」
空を指差し、そう宣言した。
「妹の偽物だと思ってる相手にやることじゃないよ、それ」
苦笑する妹。
「馬鹿。妹だと認めたから言ったんだ。そうじゃなきゃ誰が助けてやるものか」
桜庭のもとへ駆け出した。
動揺する妹を置いて、逃げ出した。
言い逃げである。
「ぜーったい、私のこと忘れないでよね!」
やはり、ここでも後ろから声が追いかけてきた。
リアルでやろうとすれば日頃の運動不足が祟って、息切れをするか、思い切り転倒するぐらいの全力疾走。妹を担いで向かった先にアテなどない。とにかくその場から離れることが最優先だった。
あまりに余裕がなかった反動なのか、適当に隠れられる場所を見つけて一息ついたら、スタコラサッサと正義の味方から走って逃げられるアニメキャラクターは物凄い脚力の持ち主なのでは」と緊張感の欠片もないことが頭によぎった。
「ここ、戦った跡あるね」と妹が言った。
妹の言うとおり、そこは戦場だった痕跡があった。
ビル屋内。弾が跳ね、鉤爪で抉られた跡がそこにはあった。そして、プレイヤーが死んだとされる場所には大量の物資も転がっていた。
「最後のチームが戦っていた場所だね」
妹は物資に飛びつき、装備を整えていく。
「ほら、にーちゃんもさっさと装備整えて、いつアイツが来るかわからないんだし」
妹の横にしゃがみ、一緒に物資を漁り、漁ったアイテムで能力を使うためのエネルギーを回復する。
「なあ」
「にーちゃん?」
「お前は戦うな」
妹の顔を見ずに言った。
「はぁ!?」
怒っている顔が目に浮かぶ。妹はいつも怒るときは目を大きくしていた。
「俺だけが戦う。お前はグレネードで自決してゲームから安全に離脱しろ」
ゲームジャンルごとのお約束ごとがある。
それはゲームをより面白くするためだったり、不快感を消すためのものだ。ゆえにそれはリアリティがないという誹りを受けたとしても必要なものとして、長年掛けて洗練されながら守り抜かれてきた。
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ゆえに味方へのダメージ、いわゆるフレンドリーファイアは抑制されている。
だから、妹は自決することで安全にゲームから離脱することができる。
「だったらにーちゃんも一緒に死のうよ。そうすれば二人して安全に抜けられるって」
たしかに今ならば俺自身も安全にゲームから抜けられる。
「悪いな。俺は今からクソ野郎の敵を取りに行く」
妹の顔を見る。
妹は泣いていた。
「そりゃにーちゃんだもん。そうするよね……」
妹は「ちょっと待ってて」と言って、そこら中に転がる物資の中から一つを探し出し、俺に手渡す。
それは刀によく似た、片刃の直剣であった。
「これ、スコープで見てた時から持ってるの知ってて狙ってたの。ネタ武器扱いされるけど、攻撃力だけならピカ一だし、近接戦闘なると思うからさ」
それを受け取ると、俺は踵を返す。
「それじゃあ――逝ってくる」
空を指差し、そう宣言した。
「妹の偽物だと思ってる相手にやることじゃないよ、それ」
苦笑する妹。
「馬鹿。妹だと認めたから言ったんだ。そうじゃなきゃ誰が助けてやるものか」
桜庭のもとへ駆け出した。
動揺する妹を置いて、逃げ出した。
言い逃げである。
「ぜーったい、私のこと忘れないでよね!」
やはり、ここでも後ろから声が追いかけてきた。
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