上 下
22 / 229
1章 義妹と書いて偽妹と読む

崩れてからが本番

しおりを挟む
 走った。

 リアルでやろうとすれば日頃の運動不足が祟って、息切れをするか、思い切り転倒するぐらいの全力疾走。妹を担いで向かった先にアテなどない。とにかくその場から離れることが最優先だった。

 あまりに余裕がなかった反動なのか、適当に隠れられる場所を見つけて一息ついたら、スタコラサッサと正義の味方から走って逃げられるアニメキャラクターは物凄い脚力の持ち主なのでは」と緊張感の欠片もないことが頭によぎった。

「ここ、戦った跡あるね」と妹が言った。

 妹の言うとおり、そこは戦場だった痕跡があった。

 ビル屋内。弾が跳ね、鉤爪で抉られた跡がそこにはあった。そして、プレイヤーが死んだとされる場所には大量の物資も転がっていた。

「最後のチームが戦っていた場所だね」

 妹は物資に飛びつき、装備を整えていく。

「ほら、にーちゃんもさっさと装備整えて、いつアイツが来るかわからないんだし」

 妹の横にしゃがみ、一緒に物資を漁り、漁ったアイテムで能力を使うためのエネルギーを回復する。

「なあ」

「にーちゃん?」

「お前は戦うな」

 妹の顔を見ずに言った。

「はぁ!?」

 怒っている顔が目に浮かぶ。妹はいつも怒るときは目を大きくしていた。

「俺だけが戦う。お前はグレネードで自決してゲームから安全に離脱しろ」

 ゲームジャンルごとのお約束ごとがある。

 それはゲームをより面白くするためだったり、不快感を消すためのものだ。ゆえにそれはリアリティがないという誹りを受けたとしても必要なものとして、長年掛けて洗練されながら守り抜かれてきた。

 FPSというゲームにおいては、グレネードなどの爆発物は自分と敵にはダメージを与えるが、味方にはダメージを与えない仕様となっている。これは味方との意思疎通が難しい混乱する戦場において、視認性が悪く、突然爆発するものは、ただただ味方を巻き込み、殺すだけの武器になり得るからだ。

 ゆえに味方へのダメージ、いわゆるフレンドリーファイアは抑制されている。

 だから、妹は自決することで安全にゲームから離脱することができる。

「だったらにーちゃんも一緒に死のうよ。そうすれば二人して安全に抜けられるって」

 たしかに今ならば俺自身も安全にゲームから抜けられる。

「悪いな。俺は今からクソ野郎親友の敵を取りに行く」

 妹の顔を見る。

 妹は泣いていた。

「そりゃにーちゃんだもん。そうするよね……」

 妹は「ちょっと待ってて」と言って、そこら中に転がる物資の中から一つを探し出し、俺に手渡す。

 それは刀によく似た、片刃の直剣であった。

「これ、スコープで見てた時から持ってるの知ってて狙ってたの。ネタ武器扱いされるけど、攻撃力だけならピカ一だし、近接戦闘なると思うからさ」

 それを受け取ると、俺は踵を返す。

「それじゃあ――逝ってくる」

 空を指差し、そう宣言した。

「妹の偽物だと思ってる相手にやることじゃないよ、それ」

 苦笑する妹。

「馬鹿。妹だと認めたから言ったんだ。そうじゃなきゃ誰が助けてやるものか」

 桜庭のもとへ駆け出した。

 動揺する妹を置いて、逃げ出した。

 言い逃げである。

「ぜーったい、私のこと忘れないでよね!」

 やはり、ここでも後ろから声が追いかけてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...