9 / 229
1章 義妹と書いて偽妹と読む
シスコン×ブラコン
しおりを挟む
「というかなんでそこに入れているんだ」
ディスプレイを占領した偽物に問うた。
パソコンの中は一種の電脳といって差し支えないため、アバターが入ることも理論上は可能である。だが、パスワードは掛けているし、ファイアウォールも張られている。昨日、桜庭がやったようにゲスト権限でも付与しなければ他人のパソコンの中に無断で入るなどということはできないはずだ。
なのにこの偽物、パソコンを点けた途端にシレっと入り込み、今ではシオミンフォルダのスクリーンショットを見て「引くわー」と言って、ゴミ箱にドラッグする振りをして俺をからかい始めやがった。
「なんでってニーちゃんのパスワード知ってからだけどー?」
「知ってる訳がないだろう。俺は誰にも教えたことはない」
「うん、教えてもらってないよ。実家にいた時、後ろから覗き見たから。ほら、この姿お披露目したいのに私のパソコンがちょうどオシャカになって、ニーちゃんのパソコン借りた時あったでしょ。あの時」
よく覚えていた記憶であった。
それは去年の夏、帰省した時のことだ。帰省せずに短期バイトで小金を稼ごうと思っていたら親父からの「顔ぐらい見せに来い」というお達しで、強制帰省となった。帰省した足で家族で外食し、久しぶりの我が家に到着した。俺の部屋はものの半年で妹の物置となっていて、ベッドの上以外は足の踏み場がない状態だった。そのまま深夜の大掃除をしていたら妹が部屋ににやけ面でやってきた。
「お前の荷物だろ。片付けろよ」
その苦情は「あとでやるって」と軽く受け流され、俺が置いていったパソコンの前に片付けた荷物の山を横にずらし始める。黙ってそれを見ていたら、力のかけ方を間違えたらしく大きな音を立てて崩れ落ちた。
「……あとで片付け手伝うよ?」
この期に及んでも手伝うとしか言わない妹に呆れつつ「何がしたいんだ?」とさっさと用事を終わらせる方向にシフトすることにした。
「パソコン貸して! 見せたいものがあるんだ!」
足で妹の荷物の山を部屋の端へ寄せてパソコンの前に立ち、不承不承ながらパソコンの電源を点ける。久しぶりに起動するためか少しばかり時間がかかった。後ろから妹がパスワードを食い入るように見ているのは気付いていたが、見られて恥ずかしいものが入っていないパソコンのためパスワードを見られてもいいだろうと、そのままパスワード入力した。
その後、妹がパソコンを操作し、サーバに保存されたデータを見せてくる。
そこで今もディスプレイに映るアバターを初めて見た。
銀髪赤目の怪しげな雰囲気、可愛いらしき顔つき、衣装は黒と青のゴスロリ。
良い出来だと思い「外注したのか?」と尋ねたら「残念、自作なんだなこれが」と無い胸を張った。
「こういう才能あったのか。この道で食っていくのか?」
素直に関心した。妹の腕前ならば問題ないだろうと思い、尋ねる。もし肯定が返ってきたのであったならば応援しようと思った。なんなら桜庭からプロゲーマーチームを紹介してもらい、仕事を貰う手筈まで考えていた。
「いやいや、これは私の野望の第一歩。これを使って稼いでいくのだ」
どう使っていくのか訊いても教えてくれなかった。
上手くいったら教えてくれると言っていたのだが、結局それを知る時は来なかった。
そして、俺が人に分かるようにパスワードを打ったのはその一度きり。
それを知っているとしたら、妹に非常に近い人物か、妹自身だ。
「てかさ、パスワードなんだけど、ニーちゃんと舞香の誕生日二つ並べたやつって、舞香のこと好き過ぎでしょ。可愛い声で、お兄ちゃんだぁいすき、って言ったげよっか?」
そう言ってケラケラと指差して嘲笑う。
ウザい。
このウザさには身に覚えしかない。
もはや、このアバターの中身は妹としか思えなかった。
ディスプレイを占領した偽物に問うた。
パソコンの中は一種の電脳といって差し支えないため、アバターが入ることも理論上は可能である。だが、パスワードは掛けているし、ファイアウォールも張られている。昨日、桜庭がやったようにゲスト権限でも付与しなければ他人のパソコンの中に無断で入るなどということはできないはずだ。
なのにこの偽物、パソコンを点けた途端にシレっと入り込み、今ではシオミンフォルダのスクリーンショットを見て「引くわー」と言って、ゴミ箱にドラッグする振りをして俺をからかい始めやがった。
「なんでってニーちゃんのパスワード知ってからだけどー?」
「知ってる訳がないだろう。俺は誰にも教えたことはない」
「うん、教えてもらってないよ。実家にいた時、後ろから覗き見たから。ほら、この姿お披露目したいのに私のパソコンがちょうどオシャカになって、ニーちゃんのパソコン借りた時あったでしょ。あの時」
よく覚えていた記憶であった。
それは去年の夏、帰省した時のことだ。帰省せずに短期バイトで小金を稼ごうと思っていたら親父からの「顔ぐらい見せに来い」というお達しで、強制帰省となった。帰省した足で家族で外食し、久しぶりの我が家に到着した。俺の部屋はものの半年で妹の物置となっていて、ベッドの上以外は足の踏み場がない状態だった。そのまま深夜の大掃除をしていたら妹が部屋ににやけ面でやってきた。
「お前の荷物だろ。片付けろよ」
その苦情は「あとでやるって」と軽く受け流され、俺が置いていったパソコンの前に片付けた荷物の山を横にずらし始める。黙ってそれを見ていたら、力のかけ方を間違えたらしく大きな音を立てて崩れ落ちた。
「……あとで片付け手伝うよ?」
この期に及んでも手伝うとしか言わない妹に呆れつつ「何がしたいんだ?」とさっさと用事を終わらせる方向にシフトすることにした。
「パソコン貸して! 見せたいものがあるんだ!」
足で妹の荷物の山を部屋の端へ寄せてパソコンの前に立ち、不承不承ながらパソコンの電源を点ける。久しぶりに起動するためか少しばかり時間がかかった。後ろから妹がパスワードを食い入るように見ているのは気付いていたが、見られて恥ずかしいものが入っていないパソコンのためパスワードを見られてもいいだろうと、そのままパスワード入力した。
その後、妹がパソコンを操作し、サーバに保存されたデータを見せてくる。
そこで今もディスプレイに映るアバターを初めて見た。
銀髪赤目の怪しげな雰囲気、可愛いらしき顔つき、衣装は黒と青のゴスロリ。
良い出来だと思い「外注したのか?」と尋ねたら「残念、自作なんだなこれが」と無い胸を張った。
「こういう才能あったのか。この道で食っていくのか?」
素直に関心した。妹の腕前ならば問題ないだろうと思い、尋ねる。もし肯定が返ってきたのであったならば応援しようと思った。なんなら桜庭からプロゲーマーチームを紹介してもらい、仕事を貰う手筈まで考えていた。
「いやいや、これは私の野望の第一歩。これを使って稼いでいくのだ」
どう使っていくのか訊いても教えてくれなかった。
上手くいったら教えてくれると言っていたのだが、結局それを知る時は来なかった。
そして、俺が人に分かるようにパスワードを打ったのはその一度きり。
それを知っているとしたら、妹に非常に近い人物か、妹自身だ。
「てかさ、パスワードなんだけど、ニーちゃんと舞香の誕生日二つ並べたやつって、舞香のこと好き過ぎでしょ。可愛い声で、お兄ちゃんだぁいすき、って言ったげよっか?」
そう言ってケラケラと指差して嘲笑う。
ウザい。
このウザさには身に覚えしかない。
もはや、このアバターの中身は妹としか思えなかった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる