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1章 義妹と書いて偽妹と読む

シスコン×ブラコン

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「というかなんでそこに入れているんだ」

 ディスプレイを占領した偽物に問うた。

 パソコンの中は一種の電脳といって差し支えないため、アバターが入ることも理論上は可能である。だが、パスワードは掛けているし、ファイアウォールも張られている。昨日、桜庭がやったようにゲスト権限でも付与しなければ他人のパソコンの中に無断で入るなどということはできないはずだ。

 なのにこの偽物、パソコンを点けた途端にシレっと入り込み、今ではシオミンフォルダのスクリーンショットを見て「引くわー」と言って、ゴミ箱にドラッグする振りをして俺をからかい始めやがった。

「なんでってニーちゃんのパスワード知ってからだけどー?」

「知ってる訳がないだろう。俺は誰にも教えたことはない」

「うん、教えてもらってないよ。実家にいた時、後ろから覗き見たから。ほら、この姿お披露目したいのに私のパソコンがちょうどオシャカになって、ニーちゃんのパソコン借りた時あったでしょ。あの時」

 よく覚えていた記憶であった。

 それは去年の夏、帰省した時のことだ。帰省せずに短期バイトで小金を稼ごうと思っていたら親父からの「顔ぐらい見せに来い」というお達しで、強制帰省となった。帰省した足で家族で外食し、久しぶりの我が家に到着した。俺の部屋はものの半年で妹の物置となっていて、ベッドの上以外は足の踏み場がない状態だった。そのまま深夜の大掃除をしていたら妹が部屋ににやけ面でやってきた。

「お前の荷物だろ。片付けろよ」

 その苦情は「あとでやるって」と軽く受け流され、俺が置いていったパソコンの前に片付けた荷物の山を横にずらし始める。黙ってそれを見ていたら、力のかけ方を間違えたらしく大きな音を立てて崩れ落ちた。

「……あとで片付け手伝うよ?」

 この期に及んでも手伝うとしか言わない妹に呆れつつ「何がしたいんだ?」とさっさと用事を終わらせる方向にシフトすることにした。

「パソコン貸して! 見せたいものがあるんだ!」

 足で妹の荷物の山を部屋の端へ寄せてパソコンの前に立ち、不承不承ながらパソコンの電源を点ける。久しぶりに起動するためか少しばかり時間がかかった。後ろから妹がパスワードを食い入るように見ているのは気付いていたが、見られて恥ずかしいものが入っていないパソコンのためパスワードを見られてもいいだろうと、そのままパスワード入力した。

 その後、妹がパソコンを操作し、サーバに保存されたデータを見せてくる。

 そこで今もディスプレイに映るアバターを初めて見た。

 銀髪赤目の怪しげな雰囲気、可愛いらしき顔つき、衣装は黒と青のゴスロリ。

 良い出来だと思い「外注したのか?」と尋ねたら「残念、自作なんだなこれが」と無い胸を張った。

「こういう才能あったのか。この道で食っていくのか?」

 素直に関心した。妹の腕前ならば問題ないだろうと思い、尋ねる。もし肯定が返ってきたのであったならば応援しようと思った。なんなら桜庭からプロゲーマーチームを紹介してもらい、仕事を貰う手筈まで考えていた。

「いやいや、これは私の野望の第一歩。これを使って稼いでいくのだ」

 どう使っていくのか訊いても教えてくれなかった。

 上手くいったら教えてくれると言っていたのだが、結局それを知る時は来なかった。

 そして、俺が人に分かるようにパスワードを打ったのはその一度きり。

 それを知っているとしたら、妹に非常に近い人物か、妹自身だ。

「てかさ、パスワードなんだけど、ニーちゃんと舞香の誕生日二つ並べたやつって、舞香のこと好き過ぎでしょ。可愛い声で、お兄ちゃんだぁいすき、って言ったげよっか?」

 そう言ってケラケラと指差して嘲笑う。

 ウザい。

 このウザさには身に覚えしかない。

 もはや、このアバターの中身は妹としか思えなかった。
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