妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
6 / 229
1章 義妹と書いて偽妹と読む

面倒な人を集めがちな人

しおりを挟む
 この偽物は「なるほど私は記憶喪失だったのか」などと呑気なことをのたまう。

 それが度し難かった。

「妹の死因は不明だ。そんなオカルトに巻き込むな」

「お前の気持ちはわかる。ただ、オレの幼馴染もこれに巻き込まれて、ほぼすべての記憶を奪われたから、ようやく手掛かりが得られそうで引けないんだ」

 初めて聞く事実だった。

 桜庭の幼馴染も被害に遭っていた。おそらく妹が死んだのと同時期の話だろう。その時期は顔を合わせることが少なかったから、そのことに気付くタイミングはなかった。

「……俺は認めない。ただ、お前がどうしようと知ったことじゃない。それでいいか?」

 その妥協案に桜庭はフッと笑みを浮かべる。

 お高いアバターのソレは鼻につく程度にはイケメンだった。

「ああ! それで構わない。舞香さん、悪いがエネミーを追うのを手伝ってくれないか?」

 その誰もが頷きそうな甘いマスクなアバターの誘いに偽物は「え、嫌だけど」とぶった切った。そのイケてるフェイスが驚き崩れる様は、見ていて愉快愉悦ゆえ偽物がやった行為だとしても賞賛を送りたくなってしまう。

「待て待て待て。理由を聞かせてくれないか?」

 断られるとは思っていなかったのかその動揺ぶりはまるで彼女に縋るヒモ男のようだった。

「え、だってにーちゃん一緒じゃないから」

 ここで改めて俺を巻き込んでくる。俺のストーカーと考えれば俺を巻き込むことは論理的に納得はいくが、法的に問題のある論理は非常に不愉快であった。感情優先なところばかりは妹とよく似た行動原理でそれがまた癪に障る。

「私、知ってる人にーちゃんしかいないから一緒じゃなきゃやだ」

 都合よく記憶喪失だと口にした。

 桜庭はそれを真に受けて「どこまで覚えてる?」とか訊いていた。

「どこまでとか覚えてないからわっかんないし」

「そりゃそうか……」

「私が知ってるのは、知人以上の交友関係はにーちゃんしか知らないってことだけ」

 こうした桜庭と偽物の問答によって、偽物の設定が披露されていく。

 家族関係も友人関係も全て忘れ、俺のことだけ記憶にある。だから兄と二人きりの家族で自分はボッチだと勘違いしていたらしい。社会常識などはおそらく大体は覚えている。けど元々馬鹿だからあまり期待しないで欲しいとのこと。ログアウトもできず、ずっと一人で色んな電脳を巡っている。メールが無視された時は一日中切れ散らかしたらしい。

 こうした偽物に都合の良い設定に、辟易していたら「信じてないな~」と偽物に頬を指でぐりぐりされた。

「桜庭、俺はもう行っていいか? コイツとは関わりたくない」

「言っとくけど、にーちゃんいないならマジで協力しないかんね」

 桜庭が懇願するような眼で俺を見てくる。

 長毛種な犬がずぶ濡れで懇願するような眼で見てくる。

 可愛さの欠片もないただひたすらに哀れな目で見てくる。

「貸し一つな」

 ここで折れてしまうのは俺の悪い癖だ。

「いやーやっぱ総司は優しいわ!」

 毎回折れて妹をよく調子づかせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...