5 / 229
1章 義妹と書いて偽妹と読む
散らかし方はリアルもバーチャルも変わらない
しおりを挟む
プライベートスペースとは、個人用の電脳を指す言葉の一つである。決まった呼称はないが、大体はこのような呼び方をしている。過疎電脳をプライベートスペースと言ったりする冗談も存在する。この場合、大体は煽りである。
プロゲーマーサクラバこと大学の友人である桜庭のプライベートスペースは、大人数が腰掛けられる数の椅子と大きな机、そこから大型スクリーンが見えるような並びになっていた。あとは各種オブジェクトが整理整頓された配置になっていた。
「わぁーここがプロゲーマーのプライベートスペースなんだ! 思ったよりシンプルなんですね!」
プロゲーマーの部屋を見てテンションが上がる偽物。キョロキョロと部屋のものを一つ一つ触って騒いでいた。
「ここはチームメンバーでミーティングするぐらいにしか使わないしな」
「えーこんな良い部屋なのにもったいない。なんなら舞香が使ってもいいっすよ」
妹のアバターを盗んだ挙句、プライベートスペースを盗ろうというのか。
「場合によってはそれも考えてるな」
「おい、桜庭。何言っているんだ」
「落ち着けって。ほら、二人とも座って」
桜庭に促され、席に着く。
大テーブルの端っこに固まって三人座る。
桜庭の向い合せに座ると、偽物が横に陣取ってきた。それに怪訝な視線を送るも、意に介すどころか妹が隣に座ってあげましたと言わんばかりのドヤ顔を披露してくれた。
「よく隣に座れるな」
苦情の一つでも言ってやったら「家ではいつも隣同士でご飯食べてたじゃん」と俺の家族しか知らないことを返される。それに戸惑い返事を窮していると桜庭が「では本題に入ろうか」と切り出した。
「最近、配信者が謎の存在――ここではエネミーと呼ぼうか。エネミーに襲われている事件が多発している。これについては二人とも知ってるか?」
「いいや、初耳だ」
「あ、私知ってる。ライバーさんとかネットアイドルとか舞香よく見てるけど、最近襲われてたとこ配信してたわ」
「そうそれ。三刀は疎いようだから説明しておくか」
「三刀だと舞香もそうだから、面倒だから名前で呼んでよー」
「ああ……たしか総司だっけ?」
「友人の名前忘れるなよ」
「普段、苗字でしか呼ばないと名前がパッと出てこないんだよ」
友達がいのない奴という文句は喉元で押さえこみ、別の文句を投げつける。
「そのエネミーとかいう奴は今関係ないだろう」
「ま、とりあえず聞けって」
そういって桜庭はエネミーの説明を始める。
最初に姿が確認されたのは五か月前、大学一年の冬のこと。奇しくも妹が死んだ時期と重なっていた。そのエネミーの出現する時間・場所に法則性はなく、配信者がいればそこに現れることだけがわかっている。
だが、それだけならはた迷惑なウイルスかクラッカーによる攻撃か、で済む話だという。
このエネミーはそれだけで済まない被害を与えているとのことだ。この情報は企業が関わっている配信者やプロゲーマーでのみ共有されているものゆえオフレコだと念を押される。
そのエネミーに撃破された者は記憶喪失になるという。記憶喪失の度合いは多岐に渡る。配信中の記憶を失うだけに留まった者もいれば数か月から数年に渡る記憶が失ってしまった者もいる。しかし、それ以上の症状はない。一件たりとも。人為的に記憶喪失になる仕組みなんて聞いたことがなく、その外れ値もないとするならば怪奇現象と呼んでしかるべきだという。
ゆえに桜庭は、この偽物が死んだはずの妹で、エネミーになんらかの形で巻き込まれたと考えたそうだ。
「それはコイツにとって都合が良い解釈が過ぎる。そもそも記憶喪失以外にはならないんじゃないのか?」
「……実はもう一つ、オレしか知らないことがある。オレはそのアバターを見たことがある。件のエネミーによく似た何かに襲われていたところを、だ」
プロゲーマーサクラバこと大学の友人である桜庭のプライベートスペースは、大人数が腰掛けられる数の椅子と大きな机、そこから大型スクリーンが見えるような並びになっていた。あとは各種オブジェクトが整理整頓された配置になっていた。
「わぁーここがプロゲーマーのプライベートスペースなんだ! 思ったよりシンプルなんですね!」
プロゲーマーの部屋を見てテンションが上がる偽物。キョロキョロと部屋のものを一つ一つ触って騒いでいた。
「ここはチームメンバーでミーティングするぐらいにしか使わないしな」
「えーこんな良い部屋なのにもったいない。なんなら舞香が使ってもいいっすよ」
妹のアバターを盗んだ挙句、プライベートスペースを盗ろうというのか。
「場合によってはそれも考えてるな」
「おい、桜庭。何言っているんだ」
「落ち着けって。ほら、二人とも座って」
桜庭に促され、席に着く。
大テーブルの端っこに固まって三人座る。
桜庭の向い合せに座ると、偽物が横に陣取ってきた。それに怪訝な視線を送るも、意に介すどころか妹が隣に座ってあげましたと言わんばかりのドヤ顔を披露してくれた。
「よく隣に座れるな」
苦情の一つでも言ってやったら「家ではいつも隣同士でご飯食べてたじゃん」と俺の家族しか知らないことを返される。それに戸惑い返事を窮していると桜庭が「では本題に入ろうか」と切り出した。
「最近、配信者が謎の存在――ここではエネミーと呼ぼうか。エネミーに襲われている事件が多発している。これについては二人とも知ってるか?」
「いいや、初耳だ」
「あ、私知ってる。ライバーさんとかネットアイドルとか舞香よく見てるけど、最近襲われてたとこ配信してたわ」
「そうそれ。三刀は疎いようだから説明しておくか」
「三刀だと舞香もそうだから、面倒だから名前で呼んでよー」
「ああ……たしか総司だっけ?」
「友人の名前忘れるなよ」
「普段、苗字でしか呼ばないと名前がパッと出てこないんだよ」
友達がいのない奴という文句は喉元で押さえこみ、別の文句を投げつける。
「そのエネミーとかいう奴は今関係ないだろう」
「ま、とりあえず聞けって」
そういって桜庭はエネミーの説明を始める。
最初に姿が確認されたのは五か月前、大学一年の冬のこと。奇しくも妹が死んだ時期と重なっていた。そのエネミーの出現する時間・場所に法則性はなく、配信者がいればそこに現れることだけがわかっている。
だが、それだけならはた迷惑なウイルスかクラッカーによる攻撃か、で済む話だという。
このエネミーはそれだけで済まない被害を与えているとのことだ。この情報は企業が関わっている配信者やプロゲーマーでのみ共有されているものゆえオフレコだと念を押される。
そのエネミーに撃破された者は記憶喪失になるという。記憶喪失の度合いは多岐に渡る。配信中の記憶を失うだけに留まった者もいれば数か月から数年に渡る記憶が失ってしまった者もいる。しかし、それ以上の症状はない。一件たりとも。人為的に記憶喪失になる仕組みなんて聞いたことがなく、その外れ値もないとするならば怪奇現象と呼んでしかるべきだという。
ゆえに桜庭は、この偽物が死んだはずの妹で、エネミーになんらかの形で巻き込まれたと考えたそうだ。
「それはコイツにとって都合が良い解釈が過ぎる。そもそも記憶喪失以外にはならないんじゃないのか?」
「……実はもう一つ、オレしか知らないことがある。オレはそのアバターを見たことがある。件のエネミーによく似た何かに襲われていたところを、だ」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる