18 / 78
18
しおりを挟む
さて、農民出身冒険者の合同昇級試験の日まで、まだ時間はある。
俺はその日、出身地は別だが同じ農民出身冒険者の人達と会っていた。
利用しているギルドもそれぞれ別である。
召集には、お金がかかったものの嫌がらせなどの妨害工作が万が一にも無いように、農業新聞の広告欄を使った。
そのまま、広告を載せたのだ。
『冒険者をやっている農民たちへ、昇級試験について情報を交換したい。試験を受ける者は、これこれこの日のこの時間に、指定の飲食店へ来られたし』という具合に。
広告に載せた通り、情報交換が主な目的だ。
農業新聞とは、その名の通り農民向けに農業ギルドが発行している新聞だ。
普通の新聞に載るようなニュースから、農業新聞なので新しい堆肥や肥料が開発された、とか、どこそこの国では干ばつが続いて食糧危機にあるとか、やはりどこそこの国ではバッタが大量発生して食糧難になりつつある、とかそんな情報が記載されている新聞だ。
ちなみに、今日の見出し記事は、王室献上品の梨。
その初物が出荷されたというものだった。取材先はどうやらこの前手伝いに行った親戚の家である。
よし、じゃあ、そろそろB級品が送られてくるかなぁ。
楽しみだ。
異国の農業の情報も載っているので、農民関係なくそちら出身の人達にはなかなか重宝している情報源だったりする。
ただ、農民を目の敵にしている人間がこれを読むのか?
というと、たぶん読む人は少ないんじゃないかなと思う。
だって農民、農業向けの情報紙だし。
とある飲食店の、本来なら宴会とかするための部屋を貸し切って、俺が音頭を取り、その情報交換会は始まった。
ちなみに、貸し切るのに現金少々、残りは実家からの作物の横流しで手を打った。
飲食店なので、食べ物は各自注文する形だ。
「今日は集まって頂き本当にありがとうございました」
年齢、性別、種族に、出身地。
何もかもがバラバラだが、農民出身という事と、冒険者であるという点においてだけ共通点のあるもの達が、この場に二十名ほど集まっている。
中には、農民同士でパーティを組んでおり代表として参加した人もいた。
俺の短めな開始の挨拶が終わると同時に、ざわざわと情報交換会は幕を開けた。
「まず、順番に知りたいことを言って貰っていいですか?
俺が、用意してもらったこの黒板に書いていくので」
ちなみに部屋には長机を長方形に並べてあり、ぐるっと部屋を一周するようになっていた。
「それじゃ、時計回りでいきましょう。
俺から始まって、ぐるりと一周します。
聞きたい内容が既に出ていたらその時に申告してください」
そうして、俺は口を開き、言いながら黒板にそれを書いていく。
【試験官のS級冒険者について】
【誰が、農民出身者の昇級試験の申し込みを握り潰しているのか?】
俺が知りたいのはこの二つだ。
それを書き、順番に出た意見を書いていく。
この際だから、と昇級試験には関係ない事柄も出てくる。
【そもそも本当に昇級試験は開催されるのか?】
【試験は公平なものか?】
【どこの冒険者ギルドが一番、農民に対する扱いがブラックなのか?】
【どこまで、冒険者ギルドを信用できるのか】
等など様々な『聞きたいこと、交換したい情報』が出てくる。
そして、それに対する各自の持つ〖答え〗が提示されていく。
この集まり、その時間が終わる頃には、農民出身者に対して差別的な、現在確認されている冒険者リストまで作成できてしまった。
いわゆる、農民出身冒険者専用ブラックリストと言ったところか。
そして、冒険者ギルドの本部内の勢力図的なものがわかったりしたのでかなり有意義な時間を過ごすことが出来た。
昇級試験もそうだが、農民に対して風当たりが強いのはそもそもそういうのを管轄、決定の場に一人も農民出身者がいないことが分かった。
多くが高等教育機関で勉強したもの達の集まりで、農民に対する理解がまるで無かったのだ。
それよりも、寄付と称して金をくれる貴族出身者が手厚いサポートを受けるし、街出身の新人冒険者はまずは万年低ランクの農民出身冒険者を仲間にするよう、一部の冒険者ギルドでは助言されているらしいと言うことまで分かった。
新人の農民出身者ではなく、ある程度経験を積んでいる農民出身冒険者を選ぶように言い、経験値を積ませる。
そして、ある程度経験値を積ませることが出来たらそれとなく、農民出身冒険者をパーティから外すように提案するのだ。
セコいし悪質だ。
しかし、気づけなかった俺もアホだったなと反省するしかない。
農民だから、その理由にどこか納得していたのも事実だ。
もちろん、それは俺だけでは無かった。
イラつきや、そのまま怒りを現す人までいた。
馬鹿にしやがって!! 食糧供給ストップさせるぞ!! と叫ぶ人もいた。
そして、この集まりの最後の最後で、俺はこの場に集まった人達にとある提案をした。
「皆さん、こんな機会二度とないんです。
ちょっと、実家にいた時のように、好きに暴れてみませんか?
害獣やモンスターを駆除する時みたいに」
と。
そして、冒険者ギルドから渡された合同昇級試験に関する概要が書かれた紙を掲げてみせた。
その一点を俺は読み上げた。
そこには、こう書かれているのだ。
『どのような方法を用いても構わない。これは実戦とおなじであると考えてもらって構わない』と。
「実戦、大いに結構じゃないですか!
なんせ、害獣、モンスターの駆除は俺たちの専門分野です!
向こうは受からせるつもりは多分ないでしょう。
だから、目にもの見せつけるチャンスだと思いませんか?」
自分が絶対的に優位であると考えている者の鼻っ柱を折って、赤っ恥をかかせることが出来るかもしれないのだ。
俺の提案に、その場の全員が悪い笑みを浮かべたのは、なかなか愉快な光景だった。
農民の横のつながりは、えげつないのである。
俺はその日、出身地は別だが同じ農民出身冒険者の人達と会っていた。
利用しているギルドもそれぞれ別である。
召集には、お金がかかったものの嫌がらせなどの妨害工作が万が一にも無いように、農業新聞の広告欄を使った。
そのまま、広告を載せたのだ。
『冒険者をやっている農民たちへ、昇級試験について情報を交換したい。試験を受ける者は、これこれこの日のこの時間に、指定の飲食店へ来られたし』という具合に。
広告に載せた通り、情報交換が主な目的だ。
農業新聞とは、その名の通り農民向けに農業ギルドが発行している新聞だ。
普通の新聞に載るようなニュースから、農業新聞なので新しい堆肥や肥料が開発された、とか、どこそこの国では干ばつが続いて食糧危機にあるとか、やはりどこそこの国ではバッタが大量発生して食糧難になりつつある、とかそんな情報が記載されている新聞だ。
ちなみに、今日の見出し記事は、王室献上品の梨。
その初物が出荷されたというものだった。取材先はどうやらこの前手伝いに行った親戚の家である。
よし、じゃあ、そろそろB級品が送られてくるかなぁ。
楽しみだ。
異国の農業の情報も載っているので、農民関係なくそちら出身の人達にはなかなか重宝している情報源だったりする。
ただ、農民を目の敵にしている人間がこれを読むのか?
というと、たぶん読む人は少ないんじゃないかなと思う。
だって農民、農業向けの情報紙だし。
とある飲食店の、本来なら宴会とかするための部屋を貸し切って、俺が音頭を取り、その情報交換会は始まった。
ちなみに、貸し切るのに現金少々、残りは実家からの作物の横流しで手を打った。
飲食店なので、食べ物は各自注文する形だ。
「今日は集まって頂き本当にありがとうございました」
年齢、性別、種族に、出身地。
何もかもがバラバラだが、農民出身という事と、冒険者であるという点においてだけ共通点のあるもの達が、この場に二十名ほど集まっている。
中には、農民同士でパーティを組んでおり代表として参加した人もいた。
俺の短めな開始の挨拶が終わると同時に、ざわざわと情報交換会は幕を開けた。
「まず、順番に知りたいことを言って貰っていいですか?
俺が、用意してもらったこの黒板に書いていくので」
ちなみに部屋には長机を長方形に並べてあり、ぐるっと部屋を一周するようになっていた。
「それじゃ、時計回りでいきましょう。
俺から始まって、ぐるりと一周します。
聞きたい内容が既に出ていたらその時に申告してください」
そうして、俺は口を開き、言いながら黒板にそれを書いていく。
【試験官のS級冒険者について】
【誰が、農民出身者の昇級試験の申し込みを握り潰しているのか?】
俺が知りたいのはこの二つだ。
それを書き、順番に出た意見を書いていく。
この際だから、と昇級試験には関係ない事柄も出てくる。
【そもそも本当に昇級試験は開催されるのか?】
【試験は公平なものか?】
【どこの冒険者ギルドが一番、農民に対する扱いがブラックなのか?】
【どこまで、冒険者ギルドを信用できるのか】
等など様々な『聞きたいこと、交換したい情報』が出てくる。
そして、それに対する各自の持つ〖答え〗が提示されていく。
この集まり、その時間が終わる頃には、農民出身者に対して差別的な、現在確認されている冒険者リストまで作成できてしまった。
いわゆる、農民出身冒険者専用ブラックリストと言ったところか。
そして、冒険者ギルドの本部内の勢力図的なものがわかったりしたのでかなり有意義な時間を過ごすことが出来た。
昇級試験もそうだが、農民に対して風当たりが強いのはそもそもそういうのを管轄、決定の場に一人も農民出身者がいないことが分かった。
多くが高等教育機関で勉強したもの達の集まりで、農民に対する理解がまるで無かったのだ。
それよりも、寄付と称して金をくれる貴族出身者が手厚いサポートを受けるし、街出身の新人冒険者はまずは万年低ランクの農民出身冒険者を仲間にするよう、一部の冒険者ギルドでは助言されているらしいと言うことまで分かった。
新人の農民出身者ではなく、ある程度経験を積んでいる農民出身冒険者を選ぶように言い、経験値を積ませる。
そして、ある程度経験値を積ませることが出来たらそれとなく、農民出身冒険者をパーティから外すように提案するのだ。
セコいし悪質だ。
しかし、気づけなかった俺もアホだったなと反省するしかない。
農民だから、その理由にどこか納得していたのも事実だ。
もちろん、それは俺だけでは無かった。
イラつきや、そのまま怒りを現す人までいた。
馬鹿にしやがって!! 食糧供給ストップさせるぞ!! と叫ぶ人もいた。
そして、この集まりの最後の最後で、俺はこの場に集まった人達にとある提案をした。
「皆さん、こんな機会二度とないんです。
ちょっと、実家にいた時のように、好きに暴れてみませんか?
害獣やモンスターを駆除する時みたいに」
と。
そして、冒険者ギルドから渡された合同昇級試験に関する概要が書かれた紙を掲げてみせた。
その一点を俺は読み上げた。
そこには、こう書かれているのだ。
『どのような方法を用いても構わない。これは実戦とおなじであると考えてもらって構わない』と。
「実戦、大いに結構じゃないですか!
なんせ、害獣、モンスターの駆除は俺たちの専門分野です!
向こうは受からせるつもりは多分ないでしょう。
だから、目にもの見せつけるチャンスだと思いませんか?」
自分が絶対的に優位であると考えている者の鼻っ柱を折って、赤っ恥をかかせることが出来るかもしれないのだ。
俺の提案に、その場の全員が悪い笑みを浮かべたのは、なかなか愉快な光景だった。
農民の横のつながりは、えげつないのである。
5
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説
【無双】底辺農民学生の頑張り物語【してみた】
一樹
ファンタジー
貧乏農民出身、現某農業高校に通うスレ主は、休憩がてら息抜きにひょんなことから、名門校の受験をすることになった顛末をスレ立てをして語り始めた。
わりと強いはずの主人公がズタボロになります。
四肢欠損描写とか出てくるので、苦手な方はご注意を。
小説家になろうでも投稿しております。
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる