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【花】を始末した後。
 ジェシー達は貨物室に行き、他の【花】を調べた。
【花】は十輪全て揃っていた。
 つまり、この中のどれかにAは触れ、寄生されたというわけだ。
 その後、ジェシーはDとともにそれぞれの部屋で軟禁となった。
 寄生されているかもしれないからだ。
 けれど、それは杞憂に終わる。
 ジェシーとDは、規定時間を過ぎても体調不良を起こすことは無かったのだった。

 残りの二週間は穏やかに過ぎた。
 商会に提出予定の報告書も、この間に抜かりなく作成してある。
 そして、帰港してすぐにジェシーとハルは冒険者ギルドへと向かった。
 ギルド伝で、報告書と納品する【花】を商会へと提出してもらうためだ。
【花】は厳重に封印を施されている。
 何も無ければ、このまま、商会へと渡ることだろう。
 ジェシー達は報酬を受け取ると、きっかり半分に分けた。

「でも、大丈夫なんでしょうか?
 どこかでまた【花】が誰かに寄生したり、暴れたりしたら……」

「んー、たぶん大丈夫だと思う。
 今回の【アドヴェンス商会】の件な、商会自体が、たぶん領分を犯すってことに気づいてないから」

「領分??
 誰の、いえ、どこのですか??」

 ジェシーは短く答える。

「農業ギルド」

 農業ギルドという組織は、未知の植物の輸入等に関しても厳しく目を光らせている。
 他所から入ってきた動植物のせいで、畑にも影響が出るからだ。
 しかし、これはあまり知られていない。
 周知徹底を心がけてはいるものの、中々進まないのである。
 その理由は色々だ。
 そう、本当に理由については多すぎるので、今回は割愛させてもらう。

「もう十年近く関わりはないが、報告くらいはしとく義務が、俺にはあるからな」

 つまり、情報をリーク、チクるのである。

「そのための証拠もある」

 言って、余分に取ってきた【花】のことを口にした。
 一輪は、【農業ギルド】に提出する予定だ。
 話を聞いたハルが、首を傾げる。

「もう一輪はどうするんです?」

 花は二輪ある。
 うち一輪が農業ギルド用なら、もう一輪はどうするつもりなのか。

「……兄貴への手土産」

「はい??」

「一番上の兄貴には、なんだかんだ迷惑かけっぱなしだから。
 たまには良いと思ってな。
 兄貴はこういうの扱うの得意だし」

「えっと、大丈夫、なんですか??」

 寄生されたり、暴れたりと中々扱いが大変そうだ。
 危険性だけで言うなら、すぐにでも処分した方がいいだろう。

「大丈夫」

 確信をもって、ジェシーは断言した。



【それから数ヶ月後】

 新しいアジト、その庭にてなにやら種を撒いているジェシーの姿があった。
 ただし、撒いている場所はプランターだ。

「今度はどんな野菜を育てるんですか?」

 農家出身だからか、ジェシーは食べる分だけの野菜をこうして育てているのだ。
 ハルとしても、その恩恵にあずかれるので、興味津々で聞いたのである。

「あー、これ、野菜じゃないんだ」

「?」

「ほら、何ヶ月か前に人に寄生する【花】の採取依頼受けただろ?」

「あー、はいはい、受けましたね」

 ちなみに、あの商会はその後、農業ギルドから圧力がかかり手広くやっていた商売の一部を縮小、あるいは潰す結果となり、今は底辺へと転がり落ちつつある。

「んで、実家の一番上の兄貴がな。
 あの【花】の品種改良に成功したらしくてさ。
 その種をくれたんだ。
 防犯にちょうどいいから植えようと思ってさ」

「防犯??」

 植物を育てるのと、防犯がいまいち結びつかずハルはますます不思議そうにする。

「そ、泥棒対策。
 トラバサミが禁止になって手に入り難くなったから、代わりにって兄貴が【花】を品種改良したトラップ作ってくれたんだよ」

 ジェシーが種を撒き終える。
 そして、水をやり、じいっとプランターを見つめる。
 すぐに、芽が出てきた。
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