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出題編っぽいもの
【渡部 たかや】の手記2
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芳賀は自室へと引きこもってしまった。
高倉由美の存在は彼女にとって、安心出来る位置を占めていたということらしい。
一応、一緒にいた方がいいと声をかけたものの、怯えた表情をされ、逃げるよう自室へと駆けていった。
オオタキは、老体に鞭打っての仕事の反動で自室で眠っている。
オオタキにも声掛けはしたが、こちらは独りで眠りたいと、その方が落ち着けるから、と言われた。
襲撃を受ける心配は欠片もないようだった。
これを書いているのは、客室より広い部屋だ。
たぶん、談話室だと思う。
監視が終わった解放感からか、テル君は食料庫の奥にあった比較的新しく、そして未開封のインスタントコーヒーの瓶やカセットコンロ、ミネラルウォーターを用意してコーヒーをいれて飲んでいた。
俺がよほど物欲しそうな顔をしていたのか、テル君が、
「飲みますか?」
そう言ってきた。
彼の様子を見る限り、毒入りではなさそうだ。
カップを綺麗にして、自分でいれておそるおそる飲んだ。
そうまでして、コーヒーを飲みたかったのかと言われそうだが、嗜好品を体が求めていたんだろう。
毒は入っていなかった。
そのことに改めてホッと息をつく。
自分もそうとう、参ってきてると理解した。
彼が犯人ではないことはわかっていたのに、もしかしたら目を離した隙にコーヒー豆の袋に毒を入れたんじゃないか、と言う考えが頭をよぎった。
もちろんそんなことはなかったけれど。
「……ありがとうございました」
コーヒーの苦味を噛み締めていると、テル君がそう言ってきた。
なんの事かわからず、俺は彼を見返した。
「俺を信じてくれたでしょう?」
テル君は、真っ直ぐこちらを見てそう言った。
その時の彼の顔は、やはり十代の少年のものとは思えないほど大人びていた。
むしろ、中性的な顔立ちから意思の強い女性のようにも見えてしまった。
さすがに、こう書くと我ながら気持ち悪いな。
続いてテル君に、
「善人だと、言われませんか?」
生憎、そう言われたことは今までの人生で全くの皆無だった。
それから、俺とテル君はボードゲームやトランプをして時間を潰した。
そして、テル君がずっと気になっていたらしいことを口にした。
「でも、高倉さんを殺した犯人はどこから来てどこにいったんでしょうね?」
不思議な言い方だなと思った。
高倉が殺害された部屋は密室ではなかった。
発見された時、鍵がかかっていなかった。
「変だと思いませんか?
あの時、鍵の束とマスターキーは誰が管理してました?」
自分が最初に管理したあと、あの鍵の束はやはり責任から逃れたいのか、疑いを掛けられたくなかったからか、誰も自分が管理しようと名乗りを挙げなかった。
けれど、放置しておく訳にもいかない。
そこで仕方なしとばかりに手を挙げたのは、オオタキだった。
テル君の監視もだが、鍵の管理もオオタキが行っていたのだ。
しかし、オオタキとテル君にはアリバイがある。
オオタキはテル君を監視して完徹したのだ。
しかも、テル君と一緒にいるところを俺と芳賀は確認しているのだ。
なんなら、テル君はウツラウツラしていたけれど、オオタキと俺、そして芳賀は言葉を交わしている。
鍵についても、この時確認した。
盗まれてはいなかった。
となると、高倉の部屋は最初から鍵がかかっていなかったのか?
それは無いだろう。
いつ襲撃されるかわからないのだ。
施錠くらいしていたはずだ。
現に、彼女の部屋の窓は掛金が下りていたし、割られてもいなかった。
まぁ、仮に彼女の部屋の窓から侵入できたとしたら、犯人には空き巣かスパイ〇ーマンの素質があるだろう。
何故なら、高倉に割り振られた部屋は二階だったのだから。
ちなみに、芳賀と粕田の部屋も二階に割り振られていた。
俺とオオタキは一階。
森谷の書斎も一階だ。
テル君やコウサカが寝泊まりしていた使用人室も一階にある。
それはともかく、結果として高倉の部屋の鍵は開いていた。
テル君曰く、スペアキーは無いとのことだったが、こうなってくると犯人はやはり鍵の予備を予め作っており、それを所持していることが考えられる。
テル君の言葉に、俺は以上のことを返した。
「えぇ、そうですね。
マスターキーのコピーを持っているのかもしれません。
でも、そうだとしてもおかしいんですよ」
少し勿体ぶった言い方に、俺は前のめりになりつつ訊ねた。
「なにが?」
「亡くなった粕田さんの仕掛けたブービートラップです。
粕田さんは、アレを侵入経路に使われそうな場所に仕掛けていました。
扉を開けると、糸が引っ張られて空き缶がガランゴロンって喧しい音を出す、アレです。
それが作動していなかった。
この洋館の中の戸締りとその確認は、全員でしましたよね?
そして、不審人物の有無も確認しました。
そんな人物は見つけられなかった。
そして、ブービートラップの発動もなかったんですよ?
犯人は幽霊のように現れて高倉さんを殺して、煙のように消えたようにしか見えないんですよ」
つまり、この洋館、それ自体が巨大な密室だったと言いたいわけだ。
そこまで一気に言って、それから躊躇いがちにテル君はさらに続けた。
「もしかして、ブービートラップが不発だったりとかして、そこから犯人がこの洋館に入ってきたとは考えられませんかね?」
幽霊やお化けでない限り、どこかから犯人が出入りしたはずである。
そう考えるのが自然だった。
そして、なによりも高倉の死が発覚してまだ数時間だが、ちゃんと戸締りの確認をしていなかったことに改めて気づいた。
「確認、しませんか??」
決定権を俺に委ねているのは、おそらく一度犯人扱いされたからだろう。
俺は快諾した。
個人的に、もしかしたらどこかの窓なりドアなりが壊されているかもしれない、という考えを提示されて気持ち悪くなったからだ。
すぐに行動に移った。
まずは、万が一犯人といつ遭遇してもいいように武器になるものを探した。
ボードゲームやらが押し込まれていた物置で、野球のバットとテニスラケットを見つけた。
ついでにそれらのスポーツで使うボールも見つけたけれど、武器になりそうなのは野球のバットくらいだった。
それを二人で持って、物置を出た。
テニスラケットの方は網が無かったので放置した。
ここにはブービートラップは無かった。
おそらく、窓が無かったから粕田も仕掛けなかったんだろうと思う。
そういえば、その物置のドアを開けた時に挟まっていた紙くずがヒラヒラと落ちた。
ゴミに構っている暇は無いので、それもそのまま放置した。
そう、この時はゴミだと思ったのだ。
でも、各部屋を確認する度に、それもブービートラップが無い部屋に限ってこの紙くずがドアに挟まっていたのである。
さすがに、おかしいことに二人して気づいた。
「あの、もしかして、なんですけど」
空き部屋の1つを開けて確認した時に、またあの紙くずがヒラヒラとドアから落ちた。
それをテル君がつまみ上げて、こちらを見て言った。
「これ粕田さんか、高倉さんがこっそり挟んでたやつだったりしませんかね?」
うん、俺もそう思ってた。
だから、頷いた。
「たぶん、そうだろうね」
あまりにも不自然なほど紙くずがドアに挟まれていたのだ。
こうして、客室以外の各部屋をチェックし終えて談話室に戻ってきた。
ブービートラップは正常だった。
壊れてはいなかったし、なんなら窓もドアも無傷だった。
加えて、あの紙くずだ。
アレがドアの開閉、その有無を調べるために誰かが仕掛けたものだったなら、基本的に紙は挟まっていたということになる。
つまり、誰も侵入していないということになる。
なってしまうのだ。
少なくとも、高倉殺しの犯人は文字通り煙のように消えてしまったように思えた。
もしくは、いいや、やめよう。
また、疑いだしたら大変なことになってしまう。
あと二日間、籠城していればきっと大丈夫だ。
そう、自分に言い聞かせる。
なんてことだ。
なんてことだ。
今度はオオタキが殺されてしまった!
しかも、テル君まで!!
高倉由美の存在は彼女にとって、安心出来る位置を占めていたということらしい。
一応、一緒にいた方がいいと声をかけたものの、怯えた表情をされ、逃げるよう自室へと駆けていった。
オオタキは、老体に鞭打っての仕事の反動で自室で眠っている。
オオタキにも声掛けはしたが、こちらは独りで眠りたいと、その方が落ち着けるから、と言われた。
襲撃を受ける心配は欠片もないようだった。
これを書いているのは、客室より広い部屋だ。
たぶん、談話室だと思う。
監視が終わった解放感からか、テル君は食料庫の奥にあった比較的新しく、そして未開封のインスタントコーヒーの瓶やカセットコンロ、ミネラルウォーターを用意してコーヒーをいれて飲んでいた。
俺がよほど物欲しそうな顔をしていたのか、テル君が、
「飲みますか?」
そう言ってきた。
彼の様子を見る限り、毒入りではなさそうだ。
カップを綺麗にして、自分でいれておそるおそる飲んだ。
そうまでして、コーヒーを飲みたかったのかと言われそうだが、嗜好品を体が求めていたんだろう。
毒は入っていなかった。
そのことに改めてホッと息をつく。
自分もそうとう、参ってきてると理解した。
彼が犯人ではないことはわかっていたのに、もしかしたら目を離した隙にコーヒー豆の袋に毒を入れたんじゃないか、と言う考えが頭をよぎった。
もちろんそんなことはなかったけれど。
「……ありがとうございました」
コーヒーの苦味を噛み締めていると、テル君がそう言ってきた。
なんの事かわからず、俺は彼を見返した。
「俺を信じてくれたでしょう?」
テル君は、真っ直ぐこちらを見てそう言った。
その時の彼の顔は、やはり十代の少年のものとは思えないほど大人びていた。
むしろ、中性的な顔立ちから意思の強い女性のようにも見えてしまった。
さすがに、こう書くと我ながら気持ち悪いな。
続いてテル君に、
「善人だと、言われませんか?」
生憎、そう言われたことは今までの人生で全くの皆無だった。
それから、俺とテル君はボードゲームやトランプをして時間を潰した。
そして、テル君がずっと気になっていたらしいことを口にした。
「でも、高倉さんを殺した犯人はどこから来てどこにいったんでしょうね?」
不思議な言い方だなと思った。
高倉が殺害された部屋は密室ではなかった。
発見された時、鍵がかかっていなかった。
「変だと思いませんか?
あの時、鍵の束とマスターキーは誰が管理してました?」
自分が最初に管理したあと、あの鍵の束はやはり責任から逃れたいのか、疑いを掛けられたくなかったからか、誰も自分が管理しようと名乗りを挙げなかった。
けれど、放置しておく訳にもいかない。
そこで仕方なしとばかりに手を挙げたのは、オオタキだった。
テル君の監視もだが、鍵の管理もオオタキが行っていたのだ。
しかし、オオタキとテル君にはアリバイがある。
オオタキはテル君を監視して完徹したのだ。
しかも、テル君と一緒にいるところを俺と芳賀は確認しているのだ。
なんなら、テル君はウツラウツラしていたけれど、オオタキと俺、そして芳賀は言葉を交わしている。
鍵についても、この時確認した。
盗まれてはいなかった。
となると、高倉の部屋は最初から鍵がかかっていなかったのか?
それは無いだろう。
いつ襲撃されるかわからないのだ。
施錠くらいしていたはずだ。
現に、彼女の部屋の窓は掛金が下りていたし、割られてもいなかった。
まぁ、仮に彼女の部屋の窓から侵入できたとしたら、犯人には空き巣かスパイ〇ーマンの素質があるだろう。
何故なら、高倉に割り振られた部屋は二階だったのだから。
ちなみに、芳賀と粕田の部屋も二階に割り振られていた。
俺とオオタキは一階。
森谷の書斎も一階だ。
テル君やコウサカが寝泊まりしていた使用人室も一階にある。
それはともかく、結果として高倉の部屋の鍵は開いていた。
テル君曰く、スペアキーは無いとのことだったが、こうなってくると犯人はやはり鍵の予備を予め作っており、それを所持していることが考えられる。
テル君の言葉に、俺は以上のことを返した。
「えぇ、そうですね。
マスターキーのコピーを持っているのかもしれません。
でも、そうだとしてもおかしいんですよ」
少し勿体ぶった言い方に、俺は前のめりになりつつ訊ねた。
「なにが?」
「亡くなった粕田さんの仕掛けたブービートラップです。
粕田さんは、アレを侵入経路に使われそうな場所に仕掛けていました。
扉を開けると、糸が引っ張られて空き缶がガランゴロンって喧しい音を出す、アレです。
それが作動していなかった。
この洋館の中の戸締りとその確認は、全員でしましたよね?
そして、不審人物の有無も確認しました。
そんな人物は見つけられなかった。
そして、ブービートラップの発動もなかったんですよ?
犯人は幽霊のように現れて高倉さんを殺して、煙のように消えたようにしか見えないんですよ」
つまり、この洋館、それ自体が巨大な密室だったと言いたいわけだ。
そこまで一気に言って、それから躊躇いがちにテル君はさらに続けた。
「もしかして、ブービートラップが不発だったりとかして、そこから犯人がこの洋館に入ってきたとは考えられませんかね?」
幽霊やお化けでない限り、どこかから犯人が出入りしたはずである。
そう考えるのが自然だった。
そして、なによりも高倉の死が発覚してまだ数時間だが、ちゃんと戸締りの確認をしていなかったことに改めて気づいた。
「確認、しませんか??」
決定権を俺に委ねているのは、おそらく一度犯人扱いされたからだろう。
俺は快諾した。
個人的に、もしかしたらどこかの窓なりドアなりが壊されているかもしれない、という考えを提示されて気持ち悪くなったからだ。
すぐに行動に移った。
まずは、万が一犯人といつ遭遇してもいいように武器になるものを探した。
ボードゲームやらが押し込まれていた物置で、野球のバットとテニスラケットを見つけた。
ついでにそれらのスポーツで使うボールも見つけたけれど、武器になりそうなのは野球のバットくらいだった。
それを二人で持って、物置を出た。
テニスラケットの方は網が無かったので放置した。
ここにはブービートラップは無かった。
おそらく、窓が無かったから粕田も仕掛けなかったんだろうと思う。
そういえば、その物置のドアを開けた時に挟まっていた紙くずがヒラヒラと落ちた。
ゴミに構っている暇は無いので、それもそのまま放置した。
そう、この時はゴミだと思ったのだ。
でも、各部屋を確認する度に、それもブービートラップが無い部屋に限ってこの紙くずがドアに挟まっていたのである。
さすがに、おかしいことに二人して気づいた。
「あの、もしかして、なんですけど」
空き部屋の1つを開けて確認した時に、またあの紙くずがヒラヒラとドアから落ちた。
それをテル君がつまみ上げて、こちらを見て言った。
「これ粕田さんか、高倉さんがこっそり挟んでたやつだったりしませんかね?」
うん、俺もそう思ってた。
だから、頷いた。
「たぶん、そうだろうね」
あまりにも不自然なほど紙くずがドアに挟まれていたのだ。
こうして、客室以外の各部屋をチェックし終えて談話室に戻ってきた。
ブービートラップは正常だった。
壊れてはいなかったし、なんなら窓もドアも無傷だった。
加えて、あの紙くずだ。
アレがドアの開閉、その有無を調べるために誰かが仕掛けたものだったなら、基本的に紙は挟まっていたということになる。
つまり、誰も侵入していないということになる。
なってしまうのだ。
少なくとも、高倉殺しの犯人は文字通り煙のように消えてしまったように思えた。
もしくは、いいや、やめよう。
また、疑いだしたら大変なことになってしまう。
あと二日間、籠城していればきっと大丈夫だ。
そう、自分に言い聞かせる。
なんてことだ。
なんてことだ。
今度はオオタキが殺されてしまった!
しかも、テル君まで!!
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