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先代って結構恨み買ってたのね 前編

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 魔王軍の大幹部、四天王。
 その一人が討たれた。
 その情報は瞬く間に拡散された。
 ダンジョンの件から数日後には、王国内で知らない者はいない話題となっていた。
 国としては、前代未聞の事態に俺とラインハルトのクランへの対応を検討中らしい。
 この検討中というのは、別に罰せられるとかではないらしい。
 一応戦争相手の将の首級をとってきた、ということでなんらかの褒賞を与えた方がいいだろう、との声が上がったためらしい。
 個人ではなくあくまで組織として倒した、というのはそれなりにいい方向に向いたようで安心した。

「【白薔薇騎士団ナイツ・ローズ】と協力して倒したって聞きましたけど、本当は??」

 その日、俺は二年前のことを調べるために、冒険者ギルドを訪れていた。
 そんな俺に受付さんが訊いてくる。

「ご想像にお任せします」

 俺の返答に、受付さんは苦笑した。
 苦笑はそのままに、

「すごいですねぇ」

 なんて言われた。
 俺は笑顔で返す。

「えぇ、実は俺って凄いんです、エッヘン」

 さて、そんな俺に受付さんは笑顔のまま、目当てのものを渡してくれた。
 二年前の、先代【神龍の巣シェンロン】が受けていた依頼の記録である。

「これですね。
 どうぞ、あ、ただしこの建物から持って出ちゃダメですよ?」

「わかってますって」

 返す俺に、受付さんは少し不思議そうに言ってくる。

「でも、なんで急にそんなものを?」

「いやぁ、いろんな人から話を聞く度に先代すごすぎるなぁって思って。
 ちょっと活動の参考にしよっかなって」

 ちなみにエールはアジトで、先代達の残した日報等を引っ張り出している頃だろう。
 俺は受け取った記録の束を手に、酒場の片隅の席へと腰をおろした。
 そして、パラパラと記録に目を通す。
 それには、いつ、どんな依頼を受けたのかが記載されていた。
 報告書も一緒になっていた。

「…………へぇ、半年前から徐々に魔物の凶暴化が起こってたのか」

 ということは、魔族たちによる研究が活発化していたのかもしれない。
 記録をチェックし、自分なりに纏めてみた。
 流れとしてはこんな感じになった。

 ■■■
 〇半年前
 ゴブリン討伐の依頼を受け、達成する。
 この時にゴブリン達の強さに先代たちは、違和感を覚える

 〇二ヶ月後
 討伐依頼中心に受けるようになる。
(※討伐依頼そのものが多くなっていた??)
 魔物の凶暴化が知られるようになる。
 新規メンバー(新人)の育成目的もあったようだ。

 〇四ヶ月後
 護衛の依頼を数件受けている。
 この時、一人負傷している。

 〇六ヶ月後
 件のドラゴン討伐の依頼にて、先代たちは帰らぬ人となる。


 ■■■

「……イオが居てくれたらなぁ」

 俺よりも頭がいい妹がいたら、この記録だけでいろいろ考察してくれるのに。
 まぁ、無い物ねだりだ。
 とりあえず、調べられるだけのことは調べた。
 帰るか。
 借りた記録を片付けはじめる。
 ふと視線を上げると、喧騒はそのままだけど客たちの視線が向けられていた。

 中には、わざわざ指をさしてヒソヒソと話している連中もいる。

「あんなチビが倒せるかよ
 相手魔族だぞ?
白薔薇騎士団ナイツ・ローズ】のラインハルトの方が絶対強いだ ろ」

 なんて、わざわざ聞こえるように言ってる奴もいた。
 まぁ、普通はそういう反応するよなぁ。
 だからラインハルトに華を持たせてやろうとしたんだけど。
 連れが顔を真っ青にして、そいつの口を塞ぐ。
 しかし、ちゃんと聴こえてたし、なんなら嘲りもしっかり見た。
 席ごと蹴飛ばしたい欲に駆られるが、我慢した。
 建物内での喧嘩は、被害が出るとお金を請求されるからだ。

「お前!!
 下手なこと言うんじゃねーよ!!
 あいつ、【龍の鱗スケイル】や、マージ潰した奴だぞ!?」

 別のやつも慌てて、その言葉を継いだ。

「【龍の鱗スケイル】だけじゃなく、【道化師同盟ジョーカーズ】【悪徳亡霊スペクター】【邪竜連合ドラゴンヘッド】【冥界王の番犬ケルベロス】【女王様の下僕ペット】も潰されたんだぞ」

「えっ!?
 あの変態同盟と名高い【女王様の下僕ペット】を?!」

 その言葉に、ほかの客たちがさらにざわめき出す。

「うそだろ」

「絶対関わりたくない冒険者クラン、No.1【女王様の下僕ペット】を潰した?! 」

「わざわざ変態と関わりもったのか、あのチビ!!??」

「まだ若いのに、倒錯趣味に目覚めるとは」

 そこ!?
 そこなの?!
 あそこ、そういうプレイで死者出してるから潜入して調べてくれって依頼されただけなのに。
 ちなみに、死者云々はただの事故だったことがわかった。
 そして、俺が潰したんじゃなく色々あって解散したって聞いてるぞ。
 というか、そういうプレイでも死者が出る、と学ぶことになるなんて思ってなかったよ。

 というか、他に名前の上がったクランの方が悪名高いのに、なんで【女王様の下僕ペット】の方でこんなにザワつくんだ。

 受付さんに記録を返しに行ったら、めちゃくちゃ笑いこらえてた。

「ゆ、ゆうめーに、なる、なるのも、たい、たいへ……っぶは」

 そして堪えきれずに、盛大に吹き出した。

「あはははは!!
 いやぁ、もうおっかしい!!」

 腹を抱えて笑っている。
 嘲笑じゃないだけマシか。

「笑うのはその辺にしてくれません?
 あと、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

 笑すぎて涙まで流している受付さんに、俺は言った。
 目尻の涙を拭って、受付さんが答える。

「はい? なんでしょう??」

「……受付さんは二年前もここで仕事してましたか?」

 そう訊ねた。
 受付さんが頷く。
 俺は続けて、受付さんから見た先代【神龍の巣シェンロン】について色々聞いてみた。

 なるほどね。

 知りたかったことが概ねわかった。
 そして、俺は冒険者ギルドを後にした。

「…………」

 んー????
 俺は周囲を見回す。
 ま、いっか。
 この後も予定があるから、今は気にしない事にしよう。
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