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復讐遊戯 10

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 私はエディにとりついた妹の映る画面から、今度はラスボスである縫いぐるみを探す。
 すぐに、見つけた。
 縫いぐるみの中に居る存在は、今までの映像を見る限り妹の味方のようだ。
 縫いぐるみは、ジークを追いたてている所だった。

 「あははははハハハ」

 縫いぐるみは笑い声を上げながら、包丁をチャーミングに振り回しながらジークを追いかける。
 
 「くんなぁぁぁああああああ!!??」

 「まてまて~♡」

 音声だけきくと、ジークの必死さを除けばただのリア充の追いかけっこである。
 ここが海の見える砂浜で、追いかけっこをしているのが初々しい美男美女のカップルだったならさぞ絵になったことだろう。
 しかし、ここは廃墟、とまではいかないが不気味な屋敷であり、追いかけっこをしているのは呪術儀式によって召喚された存在である。
 やがてジークは袋小路――壁にまで追い詰められた。

 「約束だから、あの人との約束だから、ボクは殺さないよ。
生殺与奪はあの人に任せてるからね」

 「あ、あぁ、あのひと?」

 「君達が無実の罪で断罪して、死に追いやった哀れな哀れなリリーさんだよ」

 その名前が出ると同時に、ジークの顔が真っ青になる。

 「なんで、俺なんだ!?
アクアだって、いやアクアが原因だろ!?」

 「連帯責任、連帯責任♡」

 そこで、ジークの体が浮かびあがった。 
 かと思うと、壁に思い切り叩きつけられる。
 数度、それが繰り返され、やがてジークは気絶してしまった。
 それを、魔法ではない不思議な力が働いているのだろう、彼の体がズルズルとだれもいないのにひとりでに引き摺られていく。
 先頭は縫いぐるみである。
 縫いぐるみとリリーが合流する。
 今度は近くにあった部屋に入る。
 私は手元のボタンを操作してその部屋のカメラを起動させる。
 何もない部屋である。
 部屋には灯りも無かったはずなのだが、うっすら月灯りではない、別の光源があるのか明るかった。
 そこで、ジークはロープも何も無いのに、逆さまに宙づりになってしまう。
 目覚めない彼の股間、そこをを縫いぐるみから包丁を借りて潰す様に突きさす。
 痛みで、彼は目覚めたようだ。

 「やぁ、お目覚めだね。どうだい?
見る景色が変わっただろう?」

 縫いぐるみがジークにそう声をかける。

 「ひぃっ。やめ、おろして!! いたい、いたい!!」

 「良いけれど、そうすると首の骨が折れて死んでしまう」

 その縫いぐるみの言葉にわざとらしく、リリーがそれは困ると口を挟んだ。
 中身がリリーと知らないジークは血塗れエディを見てギョっとする。

 「エディ!?
お前、死んだんじゃ??」

 「へぇ、貴方にはこれが生きている状態に見えるんだ。
残念外れ。私はエディじゃありませーん。リリーでーす」

 そこで、血がべったりと付着した燭台をジークに向ける。

 「や、やめ」

 躊躇い無く、首に少し浅くそれを突きさして、直ぐにぬく。
 血が流れ始めた。
 
 「やめてってお願いした私を凌辱したのは、貴方達よね?
ねぇ? 悪い事したらまず何をするんだっけ?」

 「わ、わるかった!! 許してくれ! 助けて!!」

 「違う違う、そんな言葉を求めてるんじゃないの。
悪い事をしたら、ごめんなさい、でしょう?
言えたら許してあげてもいいよ」

 リリーの言葉に、ジークは血を抜かれながら叫ぶように『ごめんなさい』を繰り返す。
 何度も、何度も繰り返す。
 その間にも血は流れ続けている。

 「あぁ、さむい。さむい。お願いだ、もういいだろ? ごめんなさい。この通りだ。
ちが、たりない。すごく、寒いんだ。言った通りにしたゆるしてくれるんだろ」

 「え? なんのこと?
私は【許す】なんて一言も言ってないよ。【許してあげてもいい】って言ったんだよ。
で、考えた結果。やっぱり許さない事にしたよ、ざんねんでした。
ごめんで済めば、法律も警察も捜査局も、そして復讐もいらないんだよ」

 けらけら笑いながら、もう二か所リリーはジークの首を刺して、血を抜いた。
 やがてジークの顔が青ざめて、意識が朦朧していく。
 
 「ゆるして、くれ」

 「だーめ、許さない」
 
 そこで意識が完全に途切れ死に行くだけのジークに、リリーはさらに追い打ちをかける。

 「だって貴方達は私を許してくれなかったじゃない」

 言葉が終わると同時に、部屋の扉が開いて成り行きを見ていたアクアが乱入してくる。
 今しかチャンスはないと考えたのだろう。
 縫いぐるみ目がけて突進し、口に含んだ塩水とペットボトルの中の塩水を全部ぶちまける。
 浮いていた縫いぐるみはポトリ、と床に落ち、ジークも首から落ちてそれが止めとなった。
 あの女が棒読みで、勝ちを宣言する。
 
 「あらら、あっけない、もうおわ」

 言葉の途中で、リリーがとりついていたエディも床に倒れてしまう。
 私は何が起きたのか一瞬、理解出来ずに画面を見つめていた。
 やがて、ゲームが終了したことと、このゲームに私自身が負けた事を悟った。
 少し、溜飲が下がったのか不思議と画面の向こうで誇らしげに勝ちを宣言しているあの女には何も感情が出て来ない。
 
 ――お疲れ様、姉さん――

 そんな妹の声が聞こえた気がして、私はハッとすると自分でも冷静なほど冷静に淡々とマイクのスイッチを入れてあの女の勝ちを宣言し、この屋敷の鍵、術式を解除する。
 
 『お疲れ様でしたアクアさま。賞金に関しては後日貴女の銀行口座に振り込ませていただきます』

 そして、私はマイクの電源と画面の電源を切った。
 
 
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