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彼女は知らない、ということを知っていた

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裁判、というものはとにかく時間がかかる。
しかし、その時間の中で出来る事はたくさんあった。
いわゆる、ながら作業だ。
気がつけば二年、という時間が過ぎていた。
その二年で、彼女の妹――リリーが自殺した件の裁判はほぼ終わっていた。
和解、という道も提示されたがそれだけは断固断った。
イジメが【行われていたのか】、この証明からはじまり、学校側の把握等情報が一部隠ぺいされたり、あいまいになりそうになったりした。
しつこい、いい加減にしろ、とクレームが来たこともあった。
その度に、調べつくした彼らの埃をまき散らす。
脅しになんて使わない。ただ、まき散らした。
たとえば、イジメを行った奴らの身内のスキャンダル。
学校側、教師たちのスキャンダル。
人間なのだ、清廉潔白な者などいるはずもない。
そう、彼女が行ったのは、まずそれだった。
イジメに加担したと思われる生徒達、その生徒を守るべき立場の大人への攻撃だ。
浮気、不倫、年老いた親への虐待、職場でのイジメ等々。
調べつくした中にはイジメを行った者達への虐待もあったが、わざわざ不利になるような情報は流さなかった。
家庭に問題があった、なので【イジメを行った者達がこうなることは仕方ない】という方向には持って行かせないようにした。
就職が決まった者達には、その就職先へその者の現状をリークした。
その就職先が優良企業であればあるほど、問題を抱えた人材の雇用はなくなった。
企業側もまさか、これこれこのようなタレこみがあったので不採用です、等とは伝えずただ不採用通知を送りつけるだけなので、彼女の行動がバレるようなことはなかった。
正直バレても良いという方向で彼女は動いていた。
しかし、意外とバレなかった。
何故かというと、身内への攻撃がきいたのだ。
親の離婚調停等や別の裁判で、イジメを行った者達の周囲は常にゴタゴタしていた。
リリーに関する裁判での決定では、刑務所に入る事は無かった者達だったが、度重なるトラブルでどんどん道を踏み外していった。
というか、各家に慰謝料の支払い命令が出て裁判は決着を見せた。
そう、加害者側の誰一人として牢獄に繋がれることはなかった。
裁判は、話し会いで【何か】をはっきりさせるためのものだ。
正義を振りかざすわけではない。
悪を本当の意味で、断罪出来るわけではない。
ただ、形で【何か】をはっきりさせ、【決着】させるもの。
私はそう感じた。
この場合、とりあえず彼女の妹の命と彼女と弟が負った心の傷がお金として換算された。
支払い命令は出たものの、それに強制力はなく払ったのはごく一部の者だった。

命の価値は等価じゃない。
たった一人が、複数の人間によって虐められ、死んだ。
命は尊くなんて、ない。

溜飲の下げ方は人それぞれだろう。
まだ、彼女の恨みは晴れなかった。
心は晴れなかった。
たぶん、彼女の心は一生晴れることはないだろう。
加害者側の中には、家庭がめちゃくちゃになって無理心中をした者もいた。
自殺した者もいた。
そうやって、悪者が自滅していくのを見ても何も感じなかった。
ただ、上手くいかないもんだなぁと思った。
全員、天寿を全うするまで苦しめるはずだったのに、それは叶わなかった。
苦しんだ、そして妹と同じ道を歩んだ。
それだけだ。
中には、家族に殺された者もいたらしい。
あるいは恋人に刺された者もいた。
自分の手を汚せば気は晴れるのだろうか、と考えたこともある。
でも、それはなんとなく上手くいかない気がした。
呆気なく壊してしまいそうだ。

二年。全てが書類上は解決した後で、彼女は残っている者達への行動を起こした。
と言ってもやる事は変わらない。
まずは、二年前と同じように意見を聞く。
そこから始める。
彼女は家の中では落ちこぼれのレッテルを貼られていた。
実際頭もそんなに良くない。
成績は常に下位だった。
でも、彼女がどんなに成績が悪かったとしても、一人ではやる事に、出来ることに限度がある事を知っていた。
そう成績の善し悪しと、何かを知っていることは全くの別物だ。
知らないことは聞けば良い。
知っている者に聞けば良い。
その事を彼女は、二年前に経験して知っていた。
世の中は、世界は広い。
現実だろうとネットだろうと、いろんな人たちがいることを彼女は知っていた。
そのどちらにも、彼女の知らない知識を持った者達がたしかに存在していた。

彼女は知らない、という事を知っていた。




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