【なにか】助けてくれ【いる】

一樹

文字の大きさ
上 下
122 / 139
ムシキバスの夢

しおりを挟む
 その日、いつもの様に墓地の掃除をしていたのだが、変わった毛玉がとある墓の前に置かれていることに気づいた。
 その墓の影には、まるで葬られた人と共に眠るかのように目を瞑り微動だにしない灰色の髪をした魔族が座っている。
 とりあえず、毎朝挨拶はしているものの今日も多分反応は無いだろうなと思っていたら、なんと今日は返事があった。
 
 「その毛玉を持っていけ」

 「おや、珍しい。起きていたんですね。エドさん」

 「……聞こえなかったか? その毛玉を持っていけ。
 昨日の夜からキャンキャンとうるさくてかなわない」

 少しイライラと、魔族のエドさんが返してきた。
 丸まって眠る毛玉は、仔犬だった。
 雪のように真っ白な仔犬。

 「エドさんが拾ってきたんじゃないんですか?」

 聞くが、もう答えは返ってこなかった。
 しかし、野良犬、それも仔犬がこんな墓地にいるなど珍しい。
 魔物避けもそうだが、獣避けの結界も張ってあるというのに。

 「もしかして、どこか綻んでるのかな?」

 後でチェックしよう。
 そう考えつつ、俺はその仔犬へ手を伸ばしてもふもふと撫でた。
 毛艶がいいし、こんなに近づいても警戒せずに寝ているということは、かなり人馴れしているようだ。
 結界が綻んでいて、迷い込んだのだろうか。

 「あとで母さんに報告して、迷い犬のお知らせも作らないと」

 保護犬、保護猫の世話と里親への斡旋もこの神殿では行われている。
 愛護団体との共同活動だ。

 「首輪もあるし、飼い犬だな。名前は書かれてるかなぁ?」

 俺は仔犬の首輪をチェックした。
 残念ながら住所等は無かったが、仔犬の名前らしきものは書かれていた。

 「は、や、て。お前、ハヤテって言うのか!」

 抱き上げるが、仔犬はされるがままだ。
 くぁあ~とアクビをして眠そうである。
 俺が、ハヤテを抱き直して一度神殿の事務所へ報告のために向かおうとしたところ、意識が中へ引っ張られる。
 そして、俺の兄、リムが表へと出ていった。
 俺は、内側でそれを眺める。

 「随分、やる気のなさそうな犬ころだな」

 まるで猫のように、仔犬ハヤテの首根っこを掴んで兄が言った。
 ハヤテは、やはりされるがままだ。

 「それで、お前これ飼うのか?」

 リムが俺へ聞いてくる。
 そこでまた、俺とリムは入れ替わる。

 「まさか。飼い犬みたいだし。飼い主を捜すよ。
 まぁ、それまでは面倒見るけどさ」

 幸いにして、保護猫や保護犬はこの前新しい家族の元へと迎え入れられたため、今、この神殿内では他に犬猫はいないが、設備だけなら整っている。
 それに、また数日もすれば保護犬と保護猫がやってくるはずだ。
 ハヤテの友達もすぐに出来るだろう。

 そうして、新たなる保護犬ハヤテが神殿にやってきたのだった。
 ハヤテの世話は、当然といえば当然なのだが保護した俺が見ることになった。
 保護団体の人と連絡を取り、飼い主を探してもらうよう手配もした。

 「しかし、ハヤテか。意外と悪い猿神でも退治してくれるかもしれないぞ」

 ハヤテのことを知った、リムとは違う異世界から来た異形ぬらりひょんの兄がそんな事を楽しそうに呟いた。

 「サルガミ?」

 俺が首を傾げると、兄が、『あぁ、そうか。オーシューと同じでここにもサルはいないんだったな』と呟いた。

 いや、サルなら知っている。
 まぁ、たしかに生息はしていないので、生で見たことは無いが。
 テレビや動画の外国の動物園で展示されている動物だったはずだ。
 以前、俺が動画みたサルは、その長い尻尾で木からぶら下がっていた。

 「簡単に言うとな、俺たち妖怪の仲間だ。
 こちらの世界や、あちらの世界の西洋で言うところの魔物モンスターというやつだ」

 とても興味深い話しだが、今日も今日とて俺は色々忙しいので兄の話しはまた今度、休みの日にでもじっくり聞くことにしよう。
 なにしろ、さっきから父親代わりの男、イルリスさんから手渡された携帯端末がしつこく震えているのだ。
 また新しい仕事だろう。
 出かけることになるのは、もう確定だ。
 同僚の誰か、いやここは母さんに直接ハヤテの世話を頼んでから出るしかないか。
 あの人、エルフってこともあるんだろうけど、動物普通に好きだし。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...