【なにか】助けてくれ【いる】

一樹

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されこうべ様

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 「ほんとだもん!!」

 教室に、鼻声が響いた。
 人間の女の子の声だ。
 それを鼻で笑ったのは、エルフの女の子。

 「絶対嘘だよ、それ」

 そう言って取り付く島もない。
 どちらも外見年齢は、十歳ほど。
 人間族の女の子は、必死に説明を繰り返す。

 「嘘じゃないもん! お母さんが言ってたんだよ!
 その占いで、私の曾お祖母ちゃんは怖い殺人鬼の正体を暴いてクラスの皆で捕まえて追い出したんだって! 倒したんだって!!」

 「術式も、ちゃんとした資格も持ってない人達がそんな高度なことできるわけないじゃん。
 アンタのお母さんが嘘つきなんでしょ?」

 「違うもん!!」

 二人の言い争いは平行線のまま、いや、どちらかと言うとエルフの女の子の方が弁が達者なのか優勢のようだ。
 教室には、ほかにも子供たちがいた、この二人の同級生達である。
 その中の一人が見かねて、

 「じゃあ、その占いをやればいいんじゃない?
 フェルシアはエルフなんだから、その占いが強力なものかどうか分かるでしょ?
 その占いで呼び出せる存在の格も、わかるんじゃない?」

 そう提案した。
 エルフの子も、人間の子もお互い引けなくなっていた。
 エルフの子は、その種族特有とまでは行かないが脈々と受け継がれてきたプライドから、人間の考えに賛同するわけにはいかなかったし、彼女はこの教室では女子たちの中心人物であったことも引けない理由だった。
 下手に賛同すれば、自分の位置が危ういとでも考えたのもある。
 人間の女の子は女の子で、母親を嘘つき呼ばわりされたのが許せなかった。 
 このエルフの子のそういう考え無しなところは、ずっと間違っていると考えていたというのもある。
 
 だから、お互いがお互いの主張が正しいのだと証明するために、その占いを実践することになんの異論もなかった。
 人間の女の子が母から、その母は、人間の女の子からすれば曾祖母にあたる人物から伝え聞いた道具を、用意する。
 用意するのは紙とペン、そして、硬貨。
 紙には、十字架が並んで二つくっついたようなマーク、そしてアルファベットの大文字と、イエス、ノーの文字を書く。

 硬貨をその紙、十字架のようなマークの上に置いて、人間の女の子、エルフの女の子、そして、この方法を提案した同級生がそれぞれ硬貨に指を乗せた。
 
 「されこうべ様、されこうべ様、おいでください」

 人間の女の子が、母から伝え聞いた言葉を口にする。

 「されこうべ様、されこうべ様、どうぞこちらへおいでください」

 エルフの女の子が馬鹿馬鹿しいと、嘲りの笑みを浮かべる。

 「なんの反応もない。ほらね、やっぱりーー」

 魔力も、術式の展開も何もない。
 召喚術式ですらないのだ。
 何も来ないのは当たり前だった。
 当たり前のはず、だったのだが。
 ススっと、硬貨がゆっくりと動き始めた。
 エルフの女の子は、周囲をキョロキョロと見回す。
 興味津々に三人を取り囲んでいる同級生以外、なにもいない。
 いないように、感じた。
 と、カーテンが揺れた。
 風もないのに。窓だって、もう下校の時間だから閉め切ってあるはずなのに、ユラユラと揺れている。
 その間にも、硬貨は十字架を二つくっつけたようなマークから、一旦離れ、紙のふちを一周して、またマークまで戻ってきた。
 その光景に、同級生達がざわめき始める。
 人間の女の子が、硬貨へ言葉をかけた。

 「されこうべ様ですか?」

 また、ススっと硬貨が動いてイエスの位置で数秒停止して、また戻ってきた。

 人間の女の子は、勝ち誇ったような笑みを浮かべてエルフの女の子を見た。
 エルフの女の子はムッとして、口を開いた。

 「ふ、ふん、こんなのアンタが動かしてるんでしょ?!」

 「動かしてないよ。その証拠を見せてあげる。
 されこうべ様はね、どんな質問にも答えてくれるの。
 されこうべ様されこうべ様、フェルシアの秘密を教えてください」

 硬貨が動いて、文字をなぞっていく。
 出てきた返答は、

 「ふ、た、ま、た」

 二股、だった。
 この方法を提案した子が、フェルシアを疑いの目で見た。

 「フェルシア、たしか、四組の子と付き合ってたよね?」

 そう尋ねると、ほかの同級生が口を挟んだ。

 「え、私は高学年の子と付き合ってるって聞いたよ」

 今度はべつのざわめきが始まる。
 顔を赤くして、フェルシアがムキになって否定する。

 「はぁ?!! そんなわけないでしょ??!!
 何言ってんの?」

 「されこうべ様されこうべ様。フェルシアは誰と付き合ってますか?」

 人間の女の子が、さらに質問をした。
 すると、今度は【センセイ】、【ロバート】の返事。

 そこで、エルフの女の子、フェルシアが指を離してしまう。
 そして、喚き散らした。

 「嘘だ! こんなの絶対嘘!! なに? そんなにエルフに馬鹿にされたのが悔しいの?!
 こんな嘘まみれの占いまでして、ばっかみたい!!」

 人間の女の子の顔色が変わる。

 「ダメだよ! まだ指を離しちゃ!!」

 しかし、そんな言葉を鼻で笑って彼女は教室を出ようと、さっさと鞄を持つと、出入口へ歩いていく。
 
 「うっさい! こんな馬鹿馬鹿しいことにエルフの私が本気で付き合うわけないでしょ、ばーかばーか!!」

 そんな捨て台詞とともに、開けられていた教室の出入口から彼女が出ようとした時。
 勢いよくその引き戸が閉まった。
 ゴギンっという鈍い音が同時にして、フェルシアが倒れる。
 教室のざわめきが消えて、一瞬のあと悲鳴が響き渡った。
 その間にも、倒れたフェルシアの首を戸が何度も何度も自動で挟み続けた。
 フェルシアの首は最初の一撃で折れていた。
 と、悲鳴の中、もう一人もつい硬貨から指を離してしまう。
 視線が首が折れたフェルシアへ注がれる中、その硬貨がゆっくりと動き出す。
 フェルシアと対立していた女の子が、動いた硬貨を見つめる。
 硬貨が止まった先は、ノー。
 
 嘘ではない、というそのメッセージ。
 それに、女の子はほっとしたような、少し勝ち誇ったような表情を浮かべて、答えた。

 「ええ、知っていますよ。されこうべ様。
 されこうべ様は、ここにいます」

 そして、無残な姿でドアに挟まり続けるフェルシアを見て、小さく、本当に小さく、その女の子は呟いた。

 「あーあ、だから言ったのに。これだからエルフは馬鹿なんだ」
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