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ヌシラタミのお姫様
白い綺麗な人
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背中をいきなり押された。
とんっ、軽い感じで。
「え?」
驚いて、声が漏れた直後に激しい衝撃と痛みが全身を襲った。
体を動かそうとするが、痛みが酷くてうまく動いてくれない。
階段から落ちたのだ。
と、そこで聞こえてきたのは笑い声だった。
聞き覚えのある、ケタケタとケラケラと笑う声。
同級生達の声だ。
同じクラスの仲間、とまではいかないが、それでも人が階段から落ちて動けなくなっているのが、彼らにはとても面白いらしい。
彼らは階段から降りてくると、今度は階段から落ちた彼を蹴りつける。
何度も、何度も、口汚く罵り、貶し、蹴るのを繰り返す。
やがて、気が済んだのか笑いながら彼らはその場を去っていく気配が伝わってきた。
なんとか瞼だけでも開けようとする。
すると、赤い世界が広がっていた。
どうやら、頭を切ったようで血が出てるようだ。
血で目が染みる。
また閉ざしてしまう。
もう一度、体を動かそうとする。
やはり、痛くて動かせない。
息をするだけでも、胸に激しい痛みが走った。
「っ!」
声にならない声が、口から漏れでる。
でも、誰も助けてくれない。
当然だ、ここには誰もいないのだから。
(ぼく、死んじゃうのかな?)
たった一人で、痛みの中死ぬ。
それは、すごく怖くて寂しいことのように思えた。
痛みではなく、その事実に直面してポロポロと涙が流れ出す。
死にたくなかった。
と、そこへ足音が二つ近づいてきた。
「遅いから見に来てみれば、やっぱりか」
そんな、またも聞き覚えのある声。
この声を、彼はよく知っていた。
優しい、綺麗な、まるで雪のように真っ白なお兄さん用務員の声だ。
その声に、答える別の声があった。
「なるほどねー、あの時の再現ってわけか。
違うのは、記憶が無いからかな?
それとも、君が彼から離れてるせいかな?
あるいは、その両方か」
「さぁな。ただ、いつあの時と同じことが起こるかわからない」
「後に手を出したほうが、負け、か」
「そういうことだ。
少なくとも、あの時はそうだった。
でも、今回は違う。俺にもこいつにも誰かを殺す能力が消えてるからな」
「それは、違うかな」
「どういう意味だ?」
「誰かを殺すことに、誰かの命を奪うことに能力はあってもなくても変わらないってことだよ。
たとえば、僕が鋭利な刃物を持っていたとする。その持っている状態で何かの拍子に違う方向へ体を向ける。向けた先にはたまたま人がいて、刺してしまった。刺しどころが悪くて相手が死んでしまう。
ね? 誰かを殺すのに必要なのは能力じゃない道具だよ。
そこに復讐心や殺意、悪意がオプションでついたり付かなかったりするだけ。
変わり種で言えば、殺意を向ける相手、その相手を精神的に追い込んで自殺させるなんて方法も、まぁ立派な殺人になる。
その時、自殺の時に息の根を止めるのは?
ロープかもしれない、練炭かもしれない、はたまた水か炎か?
ね? 殺すのに必要なのは、能力じゃなくて道具なんだよ」
「……そういうものか」
それだけ返すと、彼の近くにその聞きなれた声の人物が近寄る気配がした。
直後、優しく抱き上げられる。
「そういうものだよ。
だからこそ、君はその子の心だけでも守ろうと消し続けてきたんだろ?」
なんの話しをしているのかは、さっぱりだった。
でも、自分を抱き上げて包んでくれる、この大きな手と腕にはとても安心した。
「……仕方ないだろ、誰も助けてくれないんだからな」
「そうでもないよ。ほら、これ。
プレゼントだ。君には彼は大愚と名乗っていたっけ?
彼からのプレゼントだ。その子の傷も癒せるしなんなら助けてくれる、仲間になってくれるはずだ」
シャンっという、不思議な音が聴こえた。
でも、そこで、彼の意識は完全に落ちてしまった。
とんっ、軽い感じで。
「え?」
驚いて、声が漏れた直後に激しい衝撃と痛みが全身を襲った。
体を動かそうとするが、痛みが酷くてうまく動いてくれない。
階段から落ちたのだ。
と、そこで聞こえてきたのは笑い声だった。
聞き覚えのある、ケタケタとケラケラと笑う声。
同級生達の声だ。
同じクラスの仲間、とまではいかないが、それでも人が階段から落ちて動けなくなっているのが、彼らにはとても面白いらしい。
彼らは階段から降りてくると、今度は階段から落ちた彼を蹴りつける。
何度も、何度も、口汚く罵り、貶し、蹴るのを繰り返す。
やがて、気が済んだのか笑いながら彼らはその場を去っていく気配が伝わってきた。
なんとか瞼だけでも開けようとする。
すると、赤い世界が広がっていた。
どうやら、頭を切ったようで血が出てるようだ。
血で目が染みる。
また閉ざしてしまう。
もう一度、体を動かそうとする。
やはり、痛くて動かせない。
息をするだけでも、胸に激しい痛みが走った。
「っ!」
声にならない声が、口から漏れでる。
でも、誰も助けてくれない。
当然だ、ここには誰もいないのだから。
(ぼく、死んじゃうのかな?)
たった一人で、痛みの中死ぬ。
それは、すごく怖くて寂しいことのように思えた。
痛みではなく、その事実に直面してポロポロと涙が流れ出す。
死にたくなかった。
と、そこへ足音が二つ近づいてきた。
「遅いから見に来てみれば、やっぱりか」
そんな、またも聞き覚えのある声。
この声を、彼はよく知っていた。
優しい、綺麗な、まるで雪のように真っ白なお兄さん用務員の声だ。
その声に、答える別の声があった。
「なるほどねー、あの時の再現ってわけか。
違うのは、記憶が無いからかな?
それとも、君が彼から離れてるせいかな?
あるいは、その両方か」
「さぁな。ただ、いつあの時と同じことが起こるかわからない」
「後に手を出したほうが、負け、か」
「そういうことだ。
少なくとも、あの時はそうだった。
でも、今回は違う。俺にもこいつにも誰かを殺す能力が消えてるからな」
「それは、違うかな」
「どういう意味だ?」
「誰かを殺すことに、誰かの命を奪うことに能力はあってもなくても変わらないってことだよ。
たとえば、僕が鋭利な刃物を持っていたとする。その持っている状態で何かの拍子に違う方向へ体を向ける。向けた先にはたまたま人がいて、刺してしまった。刺しどころが悪くて相手が死んでしまう。
ね? 誰かを殺すのに必要なのは能力じゃない道具だよ。
そこに復讐心や殺意、悪意がオプションでついたり付かなかったりするだけ。
変わり種で言えば、殺意を向ける相手、その相手を精神的に追い込んで自殺させるなんて方法も、まぁ立派な殺人になる。
その時、自殺の時に息の根を止めるのは?
ロープかもしれない、練炭かもしれない、はたまた水か炎か?
ね? 殺すのに必要なのは、能力じゃなくて道具なんだよ」
「……そういうものか」
それだけ返すと、彼の近くにその聞きなれた声の人物が近寄る気配がした。
直後、優しく抱き上げられる。
「そういうものだよ。
だからこそ、君はその子の心だけでも守ろうと消し続けてきたんだろ?」
なんの話しをしているのかは、さっぱりだった。
でも、自分を抱き上げて包んでくれる、この大きな手と腕にはとても安心した。
「……仕方ないだろ、誰も助けてくれないんだからな」
「そうでもないよ。ほら、これ。
プレゼントだ。君には彼は大愚と名乗っていたっけ?
彼からのプレゼントだ。その子の傷も癒せるしなんなら助けてくれる、仲間になってくれるはずだ」
シャンっという、不思議な音が聴こえた。
でも、そこで、彼の意識は完全に落ちてしまった。
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