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午後の講義も概ね順調に終わった。
結局、【言霊使い】のことは誰にも相談しなかった。
まぁ、まだ初回だし。
これから参加していって、講師の方々もそうだけれど、グレイさんみたいに色んな大人の人に話を聞いたりして情報を集めてからカミングアウトでいいだろう。
どうせ、そんなに使う機会など無いだろうし。
使い方よくわかってないし。
さて、帰るか、とあたしがタマをキャリーケースに入れてそれを両手で持ち上げる。
こっちの方が安定するな、やっぱり。
教室を出ようとした時、今度はエリスちゃんと目が合った。
なにやら思い詰めたよう表情であたしを見ている。
何か言いたければ言ってくればいいのに。
いや、それが出来れば言い方は悪いけどリリアさんみたいな人の手先になんてならないか。
あたしは、そのまま教室を出てエレベーターへ向かった。
ありゃ、混んでるなぁ。
それに、なんだろう?
空調、換気扇効いてないのかなぁ、人混みがユラユラ陽炎みたいに揺れている。
仕方ない、階段で降りるか。
うん、これもダイエットのためだ。
運動しよう。運動。
あたしは、エレベーターのとなりにある階段へ足を向けた。
その時、明らかにこちらに向かって走ってくる足音が耳に届いた。
あたしの脳裏に、咄嗟に妹ズの顔が思い浮かんだ。
普通に考えればこんなところにいるわけはないのだが、そう考え直すよりもあたしの体と口は動いていた。
「マリー!! エリーゼ!! 階段で遊ぶんじゃないの!!
姉ちゃんはアンタらと違って、普通の人間なんだから、落ちたら大怪我だけじゃなく死んじゃうでしょ!!」
最近、上の妹の方はこういうイタズラはしなくなったけれどエリーゼはイタズラ盛りだ。
ひょっとしたら徒党を組んだか?! と、この時のあたしの頭は判断した。
走ってくる足音は一つだったのに、なんでそう考えたのか自分でもちょっと謎だ。
あたしは横に飛び退いて、ここには居ないハズの妹たちへそう叫んだ。
と、今まであたしが居た場所へエリスちゃんが何故か腕を突き出し突っ込んできて、悲鳴を上げながら階下へ転がり落ちていった。
「へ? ちょ、なにやってんの、エリスちゃーん!!??
階段で遊んだら危ないでしょーーーー??!!」
当たり前だが、場は騒然となった。
しかし、救急車を呼ぶことは無かった。
なんと他の教室の参加者――帰り支度をしていた、あの言動がおかしい治癒術師軍団が現れてエリスちゃんを治癒して行ったのだ。
その際も、
「ほほぅ、これは見事なお点前で」
「頭割れて中身出てら、誰かー、回復術士と反魂術士いたら来てくれー!
いい練習になるぞー」
「あ、やります!! 初めてなんで是非やらせてください!!」
と、普通の倫理観でいうならドン引きなハイテンション会話がなされた。
なんだろう?
治癒術師界隈は、命のやりとりが多すぎて倫理的な感覚麻痺者が多いのだろうか?
まぁ、無事エリスちゃんは治癒され数分後には元気な姿で立っていた。
顔は真っ青だったけど。
あと、あたしを見てかなり怯えてたけど。
頭が割れて中身が出てた割には普通に見えたから、うん、これは元気な姿と言っていいだろう。
さて、読者諸君。
ここで問屋が卸さないのは、想像できただろうか。
その場にリリアさんが現れ、エリスちゃんと二人してあたしを名指して批判してきたのだ。
曰く、あたしがエリスちゃんを突き落としたらしい。
自分の目で見ていたのだそうだ。両腕であたしがエリスちゃんを突き落とす様を。
あたしが携帯で動画を撮影していないと確信してるな。
まぁ、してないけど。
でも、よくやるわ。
そんなに、あたしが気に食わないか。
そーかそーか、そーですか。
こういう時、感情的になってはいけない。
あたしは、自分の頭の中が冷えていく感覚を味わった。
その場にたまたま居合わせた野次馬達の視線があたしに向けられる。
突き刺さる。
よーくわかった。
もう容赦しねーからな。
「それ、おかしいですよね?」
あたしは、マリーとの喧嘩でもそうだけど、昔五つ上の兄(当時十歳)を泣かせたこともある口喧嘩に持ち込むため、そう言った。
そして、ずっと抱えていた、タマを入れたキャリーケースを掲げて、大声で矛盾点を突いた。
両腕が塞がってるのに、それを突き出すなんて芸当出来るわけないだろ。
アホか。
あたしの腕は二本だけだ。
声に、感情は入れない。
そう、この大声はこの場にいる人達へ聞かせるための、パフォーマンスだ。
演説に近いかもしれない。
キャリーケースの中にいるタマは、『高い高いしてくれるの?!』と楽しそうにテュケテュケ鳴いている。
悪いな、タマ、今回は高い高いはないんだ。
それを無視して、あたしは淡々と説明する。
なんなら、野次馬の一人を招いて、手品師がショーをする時のように現場検証を手伝ってもらう。
HAHAHA。漫画、アニメ、小説問わず、推理物読み込んできたスキルがこんなところで役に立つとは。
推理物の探偵役って高確率で人集めてトリックの粗を披露した後で、犯人つるし上げるからな。
あの、推理物あるあるをパクらせてもらった。
ついでに、リリアさんとエリスちゃんの自作自演の犯行動機も全部バラす。
動画のことも、全部言う。
彼女達が保身のために、これだけの大芝居を打ってミスったとバラす。
エリスちゃんには悪いが、世の中には勧善懲悪というものがあるんだ。
主に時代劇なんかがわかりやすいだろうか。
嫌々ながらでも悪者に手を貸した奴は、死ぬ運命にある。
イキってる?
だからどうした。
こちとら殺されかけたんだ。
容赦なんて絶対しねえ。
「最後に、これだけは言っておきます。
あたし、今すんごい怒ってるんですよ。
それこそ」
アンタらみたいなのは、さっさと死んでしまえ。
そう思ってる、そう言おうとした時。
あたしの口を塞ぐ手があった。
「はい、そこまで」
ジーンさんだった。
「ふがっ!」
邪魔するな、最後まで言わせろ、イケメン!!
もがくあたしに、ジーンさんが耳打ちする。
「さすがに、今この場で受講者から殺人犯を出す訳にはいかないんだ」
は?
言うだけだ。
あたしが手を下すわけじゃない。
この二人とは違う。
そこまで考えて、ハタ、と気づいた。
今、【言霊使い】の能力使ってた?
気づいて、肝が冷えた。
それと同時に、そう思うならもっと早く止めに出てこい、とも思った。
結局、【言霊使い】のことは誰にも相談しなかった。
まぁ、まだ初回だし。
これから参加していって、講師の方々もそうだけれど、グレイさんみたいに色んな大人の人に話を聞いたりして情報を集めてからカミングアウトでいいだろう。
どうせ、そんなに使う機会など無いだろうし。
使い方よくわかってないし。
さて、帰るか、とあたしがタマをキャリーケースに入れてそれを両手で持ち上げる。
こっちの方が安定するな、やっぱり。
教室を出ようとした時、今度はエリスちゃんと目が合った。
なにやら思い詰めたよう表情であたしを見ている。
何か言いたければ言ってくればいいのに。
いや、それが出来れば言い方は悪いけどリリアさんみたいな人の手先になんてならないか。
あたしは、そのまま教室を出てエレベーターへ向かった。
ありゃ、混んでるなぁ。
それに、なんだろう?
空調、換気扇効いてないのかなぁ、人混みがユラユラ陽炎みたいに揺れている。
仕方ない、階段で降りるか。
うん、これもダイエットのためだ。
運動しよう。運動。
あたしは、エレベーターのとなりにある階段へ足を向けた。
その時、明らかにこちらに向かって走ってくる足音が耳に届いた。
あたしの脳裏に、咄嗟に妹ズの顔が思い浮かんだ。
普通に考えればこんなところにいるわけはないのだが、そう考え直すよりもあたしの体と口は動いていた。
「マリー!! エリーゼ!! 階段で遊ぶんじゃないの!!
姉ちゃんはアンタらと違って、普通の人間なんだから、落ちたら大怪我だけじゃなく死んじゃうでしょ!!」
最近、上の妹の方はこういうイタズラはしなくなったけれどエリーゼはイタズラ盛りだ。
ひょっとしたら徒党を組んだか?! と、この時のあたしの頭は判断した。
走ってくる足音は一つだったのに、なんでそう考えたのか自分でもちょっと謎だ。
あたしは横に飛び退いて、ここには居ないハズの妹たちへそう叫んだ。
と、今まであたしが居た場所へエリスちゃんが何故か腕を突き出し突っ込んできて、悲鳴を上げながら階下へ転がり落ちていった。
「へ? ちょ、なにやってんの、エリスちゃーん!!??
階段で遊んだら危ないでしょーーーー??!!」
当たり前だが、場は騒然となった。
しかし、救急車を呼ぶことは無かった。
なんと他の教室の参加者――帰り支度をしていた、あの言動がおかしい治癒術師軍団が現れてエリスちゃんを治癒して行ったのだ。
その際も、
「ほほぅ、これは見事なお点前で」
「頭割れて中身出てら、誰かー、回復術士と反魂術士いたら来てくれー!
いい練習になるぞー」
「あ、やります!! 初めてなんで是非やらせてください!!」
と、普通の倫理観でいうならドン引きなハイテンション会話がなされた。
なんだろう?
治癒術師界隈は、命のやりとりが多すぎて倫理的な感覚麻痺者が多いのだろうか?
まぁ、無事エリスちゃんは治癒され数分後には元気な姿で立っていた。
顔は真っ青だったけど。
あと、あたしを見てかなり怯えてたけど。
頭が割れて中身が出てた割には普通に見えたから、うん、これは元気な姿と言っていいだろう。
さて、読者諸君。
ここで問屋が卸さないのは、想像できただろうか。
その場にリリアさんが現れ、エリスちゃんと二人してあたしを名指して批判してきたのだ。
曰く、あたしがエリスちゃんを突き落としたらしい。
自分の目で見ていたのだそうだ。両腕であたしがエリスちゃんを突き落とす様を。
あたしが携帯で動画を撮影していないと確信してるな。
まぁ、してないけど。
でも、よくやるわ。
そんなに、あたしが気に食わないか。
そーかそーか、そーですか。
こういう時、感情的になってはいけない。
あたしは、自分の頭の中が冷えていく感覚を味わった。
その場にたまたま居合わせた野次馬達の視線があたしに向けられる。
突き刺さる。
よーくわかった。
もう容赦しねーからな。
「それ、おかしいですよね?」
あたしは、マリーとの喧嘩でもそうだけど、昔五つ上の兄(当時十歳)を泣かせたこともある口喧嘩に持ち込むため、そう言った。
そして、ずっと抱えていた、タマを入れたキャリーケースを掲げて、大声で矛盾点を突いた。
両腕が塞がってるのに、それを突き出すなんて芸当出来るわけないだろ。
アホか。
あたしの腕は二本だけだ。
声に、感情は入れない。
そう、この大声はこの場にいる人達へ聞かせるための、パフォーマンスだ。
演説に近いかもしれない。
キャリーケースの中にいるタマは、『高い高いしてくれるの?!』と楽しそうにテュケテュケ鳴いている。
悪いな、タマ、今回は高い高いはないんだ。
それを無視して、あたしは淡々と説明する。
なんなら、野次馬の一人を招いて、手品師がショーをする時のように現場検証を手伝ってもらう。
HAHAHA。漫画、アニメ、小説問わず、推理物読み込んできたスキルがこんなところで役に立つとは。
推理物の探偵役って高確率で人集めてトリックの粗を披露した後で、犯人つるし上げるからな。
あの、推理物あるあるをパクらせてもらった。
ついでに、リリアさんとエリスちゃんの自作自演の犯行動機も全部バラす。
動画のことも、全部言う。
彼女達が保身のために、これだけの大芝居を打ってミスったとバラす。
エリスちゃんには悪いが、世の中には勧善懲悪というものがあるんだ。
主に時代劇なんかがわかりやすいだろうか。
嫌々ながらでも悪者に手を貸した奴は、死ぬ運命にある。
イキってる?
だからどうした。
こちとら殺されかけたんだ。
容赦なんて絶対しねえ。
「最後に、これだけは言っておきます。
あたし、今すんごい怒ってるんですよ。
それこそ」
アンタらみたいなのは、さっさと死んでしまえ。
そう思ってる、そう言おうとした時。
あたしの口を塞ぐ手があった。
「はい、そこまで」
ジーンさんだった。
「ふがっ!」
邪魔するな、最後まで言わせろ、イケメン!!
もがくあたしに、ジーンさんが耳打ちする。
「さすがに、今この場で受講者から殺人犯を出す訳にはいかないんだ」
は?
言うだけだ。
あたしが手を下すわけじゃない。
この二人とは違う。
そこまで考えて、ハタ、と気づいた。
今、【言霊使い】の能力使ってた?
気づいて、肝が冷えた。
それと同時に、そう思うならもっと早く止めに出てこい、とも思った。
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