上 下
11 / 50

11

しおりを挟む
 予告通りというか。
 予定通りというか。
 とりあえず、マリーの希望通りにステーキが食べられるサービスエリアに寄った。
 まぁ、混んでるよね。
 知ってた。
 ただでさえ、快晴で、テレビで特集されたばかりで、さらに日曜という三つの条件がそろっていたら、そりゃめっちゃ混むよなぁ。
 件の店は、エリア内の建物の中に入っているテナントで、さらに言うなら無理やり高速道路のサービスエリアで食べなくても、下道でも時折見かけるチェーン店だ。
 まぁ、ほかの店も混んでるだろうけど。
 回転は、まあまあ早い。
 それというのも、店側の配慮というかでテイクアウトできるからだ。
 弁当だ。
 ステーキ弁当。
 さすがの人混みに、父がどこか遠くをみながら持ち帰り用にしてもらって、車の中で食べようと提案してきた。
 マリーもあたしも特に異議はない。
 店の回転が早い理由は他にもあった。
 並んで待つこと数分で持ち帰り用のステーキ弁当を手に入れることが出来た。
 と、いうのも、イートインかテイクアウトかおそらくバイトさんであろう従業員が並んでいる客に確認に来たのだ。
 どちらの客にもメニューを渡し、テイクアウトの客には注文が決まる頃を見計らって順番に注文を取っていた。
 レジの問題で、基本列は一つだけだ。
 しかし、最近はキャッシュレスが浸透してきているためか専用の端末を所持した従業員が注文をとって持ち帰り用の物に限っては、出来上がると、すぐに持ってきてその場で会計してくれた。
 と言っても、携帯のアプリがなかなか反応しない、という地味なハプニングがあったが。
 しかし、すげぇ、近未来に生きている。
 文明の利器バンザイ。
 そのためか、列の消費はだいぶ早い。
 だがしかし、時折空腹でイライラしているのだろう客がたまに怒鳴っていた。
 気分が悪くなるから、ほんとやめてほしい。
 あとワガママ言うな。
 皆ならんで買ってるんだから。
 そんなに、早く買いたいならインじゃなくてアウトにしろ。
 そんなことを内心で呟きつつ、あたしらは列を離れた。
 
 (それにしても……)

 あたしは、列に並んでいる女性客を見て、それからお父さんを見た。
 年代も種族も様々な女性客達が、お父さんに注目している。
 こういうのを熱い視線と言うのだろう。
 上は二十歳過ぎ、下は五歳児がいる子持ちダンピールは、それでも顔が良ければやはりモテるものらしい。

 (顔はいいんだよなぁ、きっと)

 なにしろ、生まれてから見てる顔だ。
 イケメンの部類に入るということは認識している。
 でも、こうも毎日見ていると普通に感じてしまうから不思議だ。
 
 「どうした?」

 お父さんがあたしの視線に気づいて、訊ねる。

 「別に」

 これで四児の父だからなぁ。
 そういや小学生の時の授業参観だと、たしかに浮いていたっけ。

 「テュケるる!」

 車に戻ると、一匹で留守番をしていたタマが嬉しそうに鳴いた。
 よしよし、タマ新兵は無事、車の守番を済ませてくれた。
 車内が暑くならないように、少しだけ窓を開けていたのだけどどうやらその効果はあったようで、そんなに熱はこもっていなかった。
 今度は窓を全開にして、それぞれ弁当を食べ始めた。
 タマにも、予め持ってきていた草をマリーが籠の中へいれてやる。
 タマがもしゃもしゃと、自分の分の弁当(草)を食べ始めた。

 「さすが、国産牛だけあるな。
 美味い」

 「ほんとだー、やぁらかい。うんまい」

 お父さんとマリーが口々に美味い美味いと言いながら、弁当を食べ始めた。
 あたしも、箸で下のご飯を上に乗っかっているステーキで包み、一口食べる。
 うわ、ガチで美味い。
 美味しい。
 どう美味しいかと言うと、とても美味しい。
 もっと他に感想は無いのか、その語彙力はどうなんだ、そんな読者諸君の罵詈雑言が聞こえてきそうだが、あいにく詩人や作家の持つ語彙力など、あたしには無いのだ。
 せいぜい、テレビのリポーターがよく口にしている、『口の中で肉が溶けた!』くらいしか言えない。
 ステーキにはタレが掛かっていて、溶けた肉、ご飯、タレが口の中で混ざり合い、とてもとても美味しい。
 気の利いた事を言うのが仕事のリポーターだったら、ハーモニーを奏でてるとか言いそうだ。
 そこで、あたしは視線を感じた。
 背後、バックミラー越しに、タマが草をもしゃもしゃしながら興味津々に、あたしやお父さん、マリーの食べる姿を順番に見つめている。

 あたしは弁当を手にしたまま、後部座席を振り返り言った。

 「どしたの、タマ?」

 「テュケるる~」

 食べたいなぁ、食べたいなぁ、そんな事を一つしかない目で訴えてくる。

 「なに、タマも食べたいの?
 仕方ないないなぁ、ほら、あーん」

 妹が、小さく箸で切った肉の切れ端をタマへ近づける。

 「あ、ちょっと。これ味が濃いんだし、あげないでよ」

 あたしが注意すると、妹が返してきた。

 「金平糖も十分甘いし、たまにばあちゃんが焦がした煮物あげてたし。
 しかもそれを美味しく食べてたから、大丈夫だよ」

 マジか。
 ばあちゃん、何してんだよ、もう。
 そこで今度は、お父さんがマリーの援護射撃をしてきた。

 「そうそう、たまーに、お父さんのツマミも食べてるしな。
 ビーフジャーキーがお気に入りみたいだぞ」

 だから、人の食べ物はあんまり与えちゃダメかもしんないのに。
 そんなタマだが、一口肉を食べただけで目を輝かせてモグモグしている。
 そうかそうか、口にあったか。
 人間の食べ物ではあるが、その人間でも滅多に食べられない高級肉なんだから、とりあえずよく味わっておけよ。
 あたしは、内心でそう呟いた。

 そして、また一口肉とご飯を口に入れる。
 あぁ、散歩の時間増やそう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...