上 下
9 / 50

しおりを挟む
 「ただいま!!」

 あたしは帰るなり、居間で猫を撫でながらテレビを観ていたばあちゃんに言った。 

 「あら、おかえり。
 お勉強会、どうだった?」

 のんびりとばあちゃんが訊いてくる。
 そう、そのことを相談しようと魔法とかに詳しいことで有名なエルフでもある、ばあちゃんに声をかけたのだ。

 「そのことなんだけど!」

 あたしは、抱き抱えていたタマを見せながら、今日あったことを説明した。
 つまり、特別ゲストの講師であるあのイケメン大学生に言われたことだった。

 「タマの幻覚魔法に、多幸感?
 あ~、はいはい。それね。
 大丈夫大丈夫。タマはココロのこと食べたりしないよねぇ?」

 何の話かと言うと、タマの芸の一つである【桜吹雪】は、本来モンスターが捕食の時に使う技らしい。
 正式名称は、ばあちゃんが今口にした【幻覚魔法】。
 要は幻を見せて餌を捕まえ、逃げられないようにフワフワとした幸せな気分にさせるフェロモンを出す。
 苦痛を感じさせず、生きたまま、そして活きのいいまま食べる為の技らしい。
 怖っ!!

 ばあちゃんに言われ、タマはあたしを見てスリスリとその胴体を擦り付けて甘えてきた。

 「食べられる心配はしてないよ!
 そうじゃなくて、ほら、多幸感ってのが気になっちゃって。その、なんつーの?
 アブナイ白い粉的な感じで依存しちゃったりしない?
 大丈夫??」

 「大丈夫大丈夫。
 ココロは、桜吹雪を見てどんな風に感じてるの?」

 「えっと、普通に綺麗だなって。花見したいな、くらい」

 「ほら、それなら大丈夫。
 ずっとそこにいたい、とか、ずっと桜を見ていたいとかじゃないもの。
 そんな風に偽物作り物の桜に心を奪われてないなら、大丈夫」

 そういうものらしい。
 まぁ、たしかに本物の桜の方があたしは好きだ。
 桜吹雪の桜は、なんというか作り物めいていて、本物とはやはりちょっと違うのだ。

 「そっか、ばあちゃんがそう言うなら安心だ」

 こういう知識は、やっぱりばあちゃんが頼りになる。
 お母さんは、まぁ、普通だ。
 お父さんの有するそっち系の知識は、うん、生け贄が必要だったり、なんというか不穏な奴だから時と場合かな。
 
 「あ、そういえば講師の人がこれ、御家族に渡してくださいって」

 あたしはばあちゃんへ、ジーンさんから受け取った手紙を渡した。

 「んー、なんだろうね」

 呟きながら、ばあちゃんは老眼鏡を取り出すと掛けて手紙の中を検める。
 見た目、あたしと同じか若いくらいなのに、こういうのを使っているのをみると、あぁばあちゃんなんだ、と妙な安心感を覚える。

 「あらあら、これはこれは」

 ばあちゃんが楽しそうな声を出した。

 「ココロ、あんた、魔物使いテイマーの才能があるかもだって。良かったね。
 プロのお墨付きだよ」

 「……はい?」

 ばあちゃんが実に楽しそうだ。
 
 「この際だし、ちゃんと鑑定してもらいに行こうかね。
 古い習慣ってことでやってなかったけどさ」

 「えー」

 ばあちゃんはノリノリだ。
 孫の才能がわかって嬉しいのかもしれないが、あたしは面倒臭い。
 というか、才能があったとしてもそれでお金を稼げる人はひと握りだ。
 あんまりネガティブなことは言いたくないが、ばあちゃんが期待をすればするほど。
 そして、嬉しそうにすればするほど、それに応えられなかったら恥ずかしいし嫌だな、と考えてしまうのだ。
 あと、なんて言うか、才能が鑑定によって証明されてもされなくても、それはそれで、あたしがなんか嫌なのだ。
 だから、

 「いや、別にいいよ。面倒いし」

 「そんなこと言わないの。
 今日はおめでたい日だから、ご馳走だね。
 手巻き寿司でいい?」

 なんで、たいがいこういう事があると手巻き寿司なんだろ。
 高校の推薦取って、無事合格した時も手巻き寿司だったし。
 ばあちゃんは、生魚も火を通した魚も食べられない。
 手巻き寿司の時は、だいたいいつも野菜巻きか納豆巻きを食べている。
 孫のためとはいえ、自分が食べられないご馳走を作ってもらうのは気が引けた。

 「いや、だから」

 あたしが、ばあちゃんを止めようとすると、そこに上の妹のマリーが現れた。

 「あ、はいはい!
 なら、ハンバーグ食べたい!!
 お祝いなんだからさ!」

 こいつ、話聞いてたな。
 つーか、お前も種族的にはハイエルフだろう。なんで肉食べられるんだよ。好きなんだよ。
 昔はそんなに気にして無かったけど、マリーは世間の普通には当てはまらないんだと最近はつくづく思い知るようになった。
 混血か? 混血だからか?
 というか、いつかの散歩の時、こいつが言った通りの事になってしまった。
 ばあちゃんは、

 「ココロも好きだったよね、ハンバーグ。
 それでいいかい?」

 なんて言って、ほんとにニコニコ嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...