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「じゃ、とりあえずご飯食べるんで、一度ログアウトします」
彼ーーコテハン【新人】の口にした言葉が、そのまま掲示板に書き込まれた。
それを見届けて、一緒にパーティを組んでくれた、コテハン【プレイヤー】こと、プレイヤー名【✝漆黒の堕天使✝】にお疲れ様を言って、ログアウトしようとする。
すると、黒髪清楚美少女アバター【✝漆黒の堕天使✝】が、
「あ、待って待って!
どうせならフレンド登録しよう」
なんて言ってきた。
ちなみに、新人――プレイヤー名【シャーロット】を助けに来た時は、頭のてっぺんから三つ編みを垂らし、周囲は剃り上げた髪型、所謂、辮髪と呼ばれる髪型で、さらに筋肉ムキムキのゴリマッチョアバターだった。
「いいんですか?
ありがとうございます」
彼は丁寧に返すと、【✝漆黒の堕天使✝】をフレンド登録した。
「こっちこそ、【探偵】のクエストは初めてで新鮮だった、ありがとう。
今度一緒に狩りに行こうぜ。
なんなら、来週の土曜と日曜日、ミニイベント開催されるから一緒に参加しねぇ?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。
俺もこのアバター育てたいし」
そんなやり取りをした後、彼はゲームからログアウトした。
来週、【✝漆黒の堕天使✝】と一緒にミニイベントに参加することとなった。
ヘルメットやグローブを外す。
涙で濡れた顔が現れる。
軽く瞼をこする。
「ふぅ」
満足そうに彼は息を吐き出した。
彼の名前は、荒木新太。
読書好きの高校一年である。
新太は自分の部屋を見回した。
壁には本棚。
その本棚にはビッシリと、国の内外問わず小説が収められている。
漫画もある。
映画のディスクも収まっている。
棚に入り切らなかった分は、床を埋めつくし塔となっている。
これらは古本屋で購入したり、図書館からタダで貰ってきたものである。
そんな部屋の中で、新太は感嘆の呟きをもらした。
「すごいゲームだ」
いままでゲームといえば、家族でできるパーティーゲームくらいしかしたことが無かった。
ヘルメットを脇に置いて、立ち上がる。
時計を見たら、もうすぐ正午であった。
部屋を出て、キッチンへ向かう両親はどちらも休日出勤だ。
キッチンのテーブルの上には、新太の昼食が用意されていた。
本の読みすぎによる栄養失調で倒れてから、きっちり用意されるようになった食事である。
それまでは、母の負担になるのと新太当人が、
『もう高校生だから、適当にチャーハンかお茶漬けでも作って食べるから用意しなくていいよ』
と伝えていたため、米こそ炊いてあったもののこのように用意されていたことは無かった。
母も息子の自立のため、と考えてその言い分を尊重していたのだ。
しかし、その言い分は結局、いちいち食事をするのが面倒くさかった新太の方便でしかなかった。
新太は、食事をする時間があるなら本の世界に没頭していたかったのだ。
けれどそれはどうやら許されないらしい。
別に食事をするのが嫌いなわけではない。
ただ優先順位の違いがあるだけだ。
栄養失調になって入院騒ぎを起こして以降、母はきっちり三食、新太の分を別で用意するようになった。
ちゃんと食べたか知るためだ。
そんなのおかずや米の減り具合でわかるんじゃないかと言われそうだが、新太には兄と弟がいる。
この二人は、新太と違ってアウトドア派である。
まず本なんて読まない。
運動部に所属しているから、平日や土日はずっと部活動に精を出している。
今日だって、部活に勤しんでいることだろう。
そして、そんな二人は食べ盛りだ。
二人が新太の分も食べてしまえば、わからないのだ。
新太はシメシメと思っていたのだが、自分が入院した時にその二人が新太の分もご飯を食べていたことが発覚して叱られてしまったのである。
ちなみに、この二人は別に意地悪で食べていたわけではない。
他人の分のことまで考えて食べないだけだ。
あればあるだけ食べてしまうのである。
兄弟仲は、まぁまぁ良い方だ。
なんなら、家族会議の時に新太へ兄は部活動を勧めたくらいには気にかけている。
兄と新太は年子だ。
そして、通っている高校も同じである。
そのため、自分と同じ部活に入ればいいと考えたらしかった。
結局、部活には入らなかったけれど。
「カツサンド……一切れでいいんだけどなぁ」
皿には、カツサンドが四切れ乗っていた。
新太には多すぎるし、重すぎる。
「……絶対、夜食べられなくなる」
しかし、これを全部食べなければ読書とゲームが禁止になってしまう。
ゲームは別にいいが、読書禁止は絶対避けなければならない。
「フルダイブじゃなくて、せめて昔ながらの据え置き型ゲーム機だったら、ゲームしながら食べられたのに」
ブチブチ文句を言いながら、新太は椅子に座ってカツサンドを食べ始めた。
カツサンドを食べ切るなら、本を読みながらの方がまだいいだろう。
もぐもぐとカツサンドを食べながら、新太は携帯端末を操作する。
日参しているWeb小説サイトを表示させる。
「あ、作品更新されてる」
ブクマしている作品が更新されてることに気づく。
しかも、一気に五話、一万文字分更新されていた。
「…………」
カツサンドを口に咥えたまま、更新分を一気読みする。
「はっ!」
読み終えた新太の口から、咥えていたカツサンドが落ちる。
慌てて、それを手で受け止める。
なんとか床に落下するのは防げた。
「もう読み終わっちゃった」
やはり併読の合間合間にカツサンドを摘むのがいいだろう。
全部食べられるかは分からないけれど。
午後は日が暮れるまで、積読消化に努めようと新太は決意したのだった。
彼ーーコテハン【新人】の口にした言葉が、そのまま掲示板に書き込まれた。
それを見届けて、一緒にパーティを組んでくれた、コテハン【プレイヤー】こと、プレイヤー名【✝漆黒の堕天使✝】にお疲れ様を言って、ログアウトしようとする。
すると、黒髪清楚美少女アバター【✝漆黒の堕天使✝】が、
「あ、待って待って!
どうせならフレンド登録しよう」
なんて言ってきた。
ちなみに、新人――プレイヤー名【シャーロット】を助けに来た時は、頭のてっぺんから三つ編みを垂らし、周囲は剃り上げた髪型、所謂、辮髪と呼ばれる髪型で、さらに筋肉ムキムキのゴリマッチョアバターだった。
「いいんですか?
ありがとうございます」
彼は丁寧に返すと、【✝漆黒の堕天使✝】をフレンド登録した。
「こっちこそ、【探偵】のクエストは初めてで新鮮だった、ありがとう。
今度一緒に狩りに行こうぜ。
なんなら、来週の土曜と日曜日、ミニイベント開催されるから一緒に参加しねぇ?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。
俺もこのアバター育てたいし」
そんなやり取りをした後、彼はゲームからログアウトした。
来週、【✝漆黒の堕天使✝】と一緒にミニイベントに参加することとなった。
ヘルメットやグローブを外す。
涙で濡れた顔が現れる。
軽く瞼をこする。
「ふぅ」
満足そうに彼は息を吐き出した。
彼の名前は、荒木新太。
読書好きの高校一年である。
新太は自分の部屋を見回した。
壁には本棚。
その本棚にはビッシリと、国の内外問わず小説が収められている。
漫画もある。
映画のディスクも収まっている。
棚に入り切らなかった分は、床を埋めつくし塔となっている。
これらは古本屋で購入したり、図書館からタダで貰ってきたものである。
そんな部屋の中で、新太は感嘆の呟きをもらした。
「すごいゲームだ」
いままでゲームといえば、家族でできるパーティーゲームくらいしかしたことが無かった。
ヘルメットを脇に置いて、立ち上がる。
時計を見たら、もうすぐ正午であった。
部屋を出て、キッチンへ向かう両親はどちらも休日出勤だ。
キッチンのテーブルの上には、新太の昼食が用意されていた。
本の読みすぎによる栄養失調で倒れてから、きっちり用意されるようになった食事である。
それまでは、母の負担になるのと新太当人が、
『もう高校生だから、適当にチャーハンかお茶漬けでも作って食べるから用意しなくていいよ』
と伝えていたため、米こそ炊いてあったもののこのように用意されていたことは無かった。
母も息子の自立のため、と考えてその言い分を尊重していたのだ。
しかし、その言い分は結局、いちいち食事をするのが面倒くさかった新太の方便でしかなかった。
新太は、食事をする時間があるなら本の世界に没頭していたかったのだ。
けれどそれはどうやら許されないらしい。
別に食事をするのが嫌いなわけではない。
ただ優先順位の違いがあるだけだ。
栄養失調になって入院騒ぎを起こして以降、母はきっちり三食、新太の分を別で用意するようになった。
ちゃんと食べたか知るためだ。
そんなのおかずや米の減り具合でわかるんじゃないかと言われそうだが、新太には兄と弟がいる。
この二人は、新太と違ってアウトドア派である。
まず本なんて読まない。
運動部に所属しているから、平日や土日はずっと部活動に精を出している。
今日だって、部活に勤しんでいることだろう。
そして、そんな二人は食べ盛りだ。
二人が新太の分も食べてしまえば、わからないのだ。
新太はシメシメと思っていたのだが、自分が入院した時にその二人が新太の分もご飯を食べていたことが発覚して叱られてしまったのである。
ちなみに、この二人は別に意地悪で食べていたわけではない。
他人の分のことまで考えて食べないだけだ。
あればあるだけ食べてしまうのである。
兄弟仲は、まぁまぁ良い方だ。
なんなら、家族会議の時に新太へ兄は部活動を勧めたくらいには気にかけている。
兄と新太は年子だ。
そして、通っている高校も同じである。
そのため、自分と同じ部活に入ればいいと考えたらしかった。
結局、部活には入らなかったけれど。
「カツサンド……一切れでいいんだけどなぁ」
皿には、カツサンドが四切れ乗っていた。
新太には多すぎるし、重すぎる。
「……絶対、夜食べられなくなる」
しかし、これを全部食べなければ読書とゲームが禁止になってしまう。
ゲームは別にいいが、読書禁止は絶対避けなければならない。
「フルダイブじゃなくて、せめて昔ながらの据え置き型ゲーム機だったら、ゲームしながら食べられたのに」
ブチブチ文句を言いながら、新太は椅子に座ってカツサンドを食べ始めた。
カツサンドを食べ切るなら、本を読みながらの方がまだいいだろう。
もぐもぐとカツサンドを食べながら、新太は携帯端末を操作する。
日参しているWeb小説サイトを表示させる。
「あ、作品更新されてる」
ブクマしている作品が更新されてることに気づく。
しかも、一気に五話、一万文字分更新されていた。
「…………」
カツサンドを口に咥えたまま、更新分を一気読みする。
「はっ!」
読み終えた新太の口から、咥えていたカツサンドが落ちる。
慌てて、それを手で受け止める。
なんとか床に落下するのは防げた。
「もう読み終わっちゃった」
やはり併読の合間合間にカツサンドを摘むのがいいだろう。
全部食べられるかは分からないけれど。
午後は日が暮れるまで、積読消化に努めようと新太は決意したのだった。
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