社畜少年の異世界交流記

一樹

文字の大きさ
上 下
17 / 24
16歳の異世界転移

17

しおりを挟む
 間一髪、という言葉がふさわしいのだろうか。
 爆風に吹っ飛ばされつつも、俺とミルさんは役所の広場へと転移して戻ってきた。
 ウィルさんの姿はない。

「あの、何が起こったんですか?」

 爆発の直前、ウィルさんがストーカーがどうのと言っていた気がする。
 ミルさんが服の汚れを叩いて落としつつ答えてくれた。

「……君と私が初めて出会った時、襲ってきた魔族がいただろう?」

 ミルさんは言葉を選びながら言ってきた。

「いましたね」

 俺は、あの時切り付けられた左腕をぎゅうっと、右手で押さえつつなるべく軽く返した。

「どうやら彼らがまたやってきたようなんだ。
 気配はしていた。
 さっきの爆発も、彼らの仕業だろう」

 言って、しかしミルさんはすぐに言葉を訂正した。

「あぁいや、気配は一つだったから【彼】といったほうが正しいか」

 言われて寒気と同時にあの灰色髪の少年のことが脳裏に浮かんだ。
 二度とかかわりたくない人物がすぐ近くに来ていた。
 それだけでも怖いのに、なぜか屋敷を破壊するという行動にでたという事実も中々どうして精神的にくるものがある。

「え、でも待ってください。
 じゃあ、ウィルさんは……」

 俺の言葉にミルさんは淡々と返してくる。

「ウィル坊自身が言っていただろう。
 仕事のために残ったんだ。
 まぁ、大丈夫だ。
 君はこの数時間であの子の変なところしか見ていないから信じられないだろうが、アレであの子は頼りになる。
 何せ――」

「次期魔王候補だから??」

 するり、とミルさんが言おうとした言葉が俺の口から滑り出た。

「おや、知っていたか」

「リストさんに聞きました」

 俺の返しにミルさんは満足げに頷く。

「そうか。
 そう、あの子は魔族と人間の間に生まれたが、先祖返りなんだ。
 つまり、地上に堕とされるまえの、牙を奪われる前の、神族だった頃の力が備わっている。
 それこそ、本来の魔族に対抗できる程度の力をもっているんだ」

 とてもそうには見えない。
 しかし、見た目で判断はできない、という例だろう。

「うまくやるさ。そこは安心していい」

 その言葉を信じるしかない。
 しかし、やっぱり不安は消えない。
 なにしろ、あの灰色髪は人をいたぶるのがとても好きそうだからだ。


 ***


 アキラとミルが転移したことを気配で確認する。
 ほっと息をついて、ウィルは本来の魔族、灰色の髪をした人間と変わらない外見の少年エドと対峙した。

「なんだ、お前?」

「……」

 ウィルは答えず、目を細めてエドを見た。
 そして、

「護衛」

 短く、そう口にした。
 それだけで、エドは色々悟ったらしい。

「あの人間の子供の護衛か」

「……エド、君の目的はあの子、アキラだろう」

 淡々と無表情に、ウィルは必要な事だけをエドに訊ねた。
 そのことに、エドは怪訝な表情を浮かべる。

「お前、誰だ?
 どっかであったことあるか?
 生憎、俺に天使の知り合いはいないと思うんだがな」

「……君が僕を知らなくても、僕は君を知っている。
 それだけのことだよ」

 ウィルの言葉をエドは都合よく解釈した。

「偽物たちの情報網も馬鹿にはできないってわけか」

 思ったより情報収集能力が高い、そう考えたのだ。

「今の僕と、君がこうして顔を合わせるのはこれが初めてだ。
 けれど、君が好きな子を傷つけて興奮する変態だってことを、僕はよく知っている。
 だから僕は君が嫌いだ」

 言いつつ、ウィルは魔法を展開する。
 あちこちに魔法陣が浮かび上がる。
 そして、宣言するように。
 しかしやはり淡々と、ウィルは言葉を紡ぐ。

「悪いけど今ここで君には消えてもらう」

「おーおー、自信満々だな偽物種族」

 そのエドの挑発的な言葉に、ウィルは少しだけ懐かしそうに微笑んだ。
 でもそれは本当に一瞬で、そしてエドからすれば余裕の笑みに見て取れた。
 次の瞬間、展開していたあちこちの魔法陣から鎖が出現し、エドを拘束しようと襲い掛かった。

そして、それをやはり何処か淡々と見つめながら、小さく。
本当に小さくウィルは呟いた。

「今度こそ、絶対にあの子アキラを救う」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...