社畜少年の異世界交流記

一樹

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16歳の異世界転移

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「ったく、あの子は」

 仕方ないので迎えに行くことになった。
 ミルさんからウィル氏の携帯に連絡をとってもらったが、全く繋がらなかったのだ。
 そうしてやってきたのは、こじんまりとした平屋だった。
 聞けばウィル氏はここで、ひとり暮らしをしているらしい。
 親が魔王で家が金持ちだからか、それとも家庭内でも問題行動を起こして見放されつつも監視下に置かれているのか、どちらだろうか?

「ウィル坊、遅刻だよ!!
 早く出てきな!!」

 チャイムを押して、ミルさんがイライラと怒鳴る。
 返ってきたのは、

『あと少しで、全員アイテムとれるんだ。
 一人だけ取れないのは、どうかと思うんだ』

 そんな、枯れた老人のような声だった。
 ミルさんの眉間に青筋が浮かぶ。

「たかがゲーム如きで、仕事の約束を破るな!!
 もう高校生だろ!?」

 すげぇ、あのミルさんがキレている。
 しかし、今度は返ってくる言葉は無かった。
 それどころか、チャイムすら反応していない。
 電源、切ったな。
 ミルさんは、フッと怒りの形相を引っ込め、笑顔になる。
 かと思ったら、俺を見て言ってきた。

「少年、ちょっとここで待ってなさい。
 少し五月蝿くなるが、近所の人が来たら仕事への強制連行だといえばわかってくれる」

「あ、はい」

 なんとなくこれが初めてじゃないんだろうな、と思ってしまった。
 そこからミルさんの行動は早かった。
 合鍵を使って、家に入り、ドタンバタンと賑やかになった。
 幸い、近所の人は通りかからなかった。
 来たのは野良猫だった。
 やけに人懐こい野良猫が俺に対して、ミャーミャー鳴いている。
 あー、これもしかして、ウィル氏が餌をやってたのかな?
 家の前から野良猫は動こうとしない。
 仕方ないので、モフる。
 ゴロゴロと、野良猫は上機嫌に喉を鳴らした。
 と、そこにミルさんが俺と同い年くらいの少年を引き摺って出てきた。
 紺青の髪に、ヤギのような角がある少年だった。
 グズグズと鼻声で、

「いきなり電源落とすとか、ヒトの所業じゃない」

 と言っている。
 ゲームのハードか、ディスプレイか、はたまた家のブレーカー――主電源そのものを落としたと考えられる。
 それに対し、ミルさんは淡々と正論を突きつける。

「そもそも時間を守って仕事に来ていればこんなことになっていないんだ。
 これはアンタの自業自得だよ。
 それよりも、あいさつしな」

 ミルさんはウィル氏を無理やり立たせて、俺と向き合わせた。

「今回、一緒に仕事をする稲村明さんだ」

 紹介のためだろう、さん付けでミルさんに名前を呼ばれた。
 少しくすぐったく感じてしまう。
 しかし、ウィル氏、いやウィルさんはと言うと俺を見て、というより俺の名前を聞くと同時に驚いて、目を丸くしながら固まってしまった。
 コミュ障にも程があるだろ。

「なんで?!」

 ウィルさんが信じられないとばかりに声を上げた。
 その視線は、しかし逸らされることなく俺を見据えたままだ。
 ミルさんが呆れながら口を開いた。

「なんでって、辞令だよ。彼と一緒に仕事をするんだ」

「そうじゃなくて!」

 何かを言おうとして、でも、なんだろう何かを我慢するようにウィルさんは唇を噛んで俯いてしまった。
 かと思うと、キッと俺を睨みつけてくる。

「……見たところ、彼新人だよね?
 そして、魔力の反応がない。
 使えないでしょ」

 ウィルさんは声を絞り出す。
 そして、続けた。

「どうかしてる」

「仕方ないんだ」

「だからって、なんで彼なんだ」

「色々あるんだよ。だからウィル坊、今回君は護衛として選ばれた」

 ミルさんの言葉に、とくに護衛という言葉にウィルさんが絶望的な表情を見せた。

「うそだ、だって、それなら、どうして??
 いや、もしかして、来てるのか?
 アイツが??」

 なんなんだ、いったい。
 というか、この人には仕事より病院の方がいいかもしれない。
 俺がいうのもなんだけど。
 とは思うものの、下手に発言できない。
 しちゃいけない気がした。

「ほらほら訳の分からないこと言ってないで、しゃんとしな」

 ミルさんの言葉を聞いているのかいないのか、ウィルさんは徹夜で出来たのだろうクマのある顔で、やっぱり俺を睨みつけてくるのだった。
 もちろん初対面ではあるが、彼に嫌われたと言うことだけは理解できた。
 気づいたら、野良猫の姿は消えていた。
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