桜の木の下の首無し死体

一樹

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年老いた老女の話

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はい、えぇ、そうです。
娘に相違ありません。
あんな優しい子が、そんな恐ろしいことに加担することになるなんて。
きっと何かの間違いだと信じたいです。
ですが、死体があり、娘婿もそのことを認めているのなら、きっとそれが真実なのでしょう。
捕まるのは、裁かれるのは、娘もでしょうか?
それとも、娘婿だけでしょうか?
言えない。
そう、そうですよね。

え、娘婿について、ですか?
知人からの紹介でした。
それで、お見合いをして一緒になったんです。
仕事の関係で、国のあちこちを転々としている方でしたから、中々嫁がみつからず、うちに話が来たんです。
娘も年頃でしたし、お見合いをして気があったようで。
婚約までスムーズすぎるほどスムーズに進みました。
そして、娘達は結ばれました。
結婚式はささやかなものでした。
なにしろ貧しい家でしたので、あまり派手なものは行えず。
娘婿も国をあっちに行ったり、こっちに行ったりで。
友人たちとの都合を合わせるのも難しかったのです。
娘婿のご両親もすでに亡くなっていた、というのもありました。
出席したのは、母である私だけ。
娘と娘婿と、そして私の三人でお祝いをしたのです。
式を挙げてすぐに、娘婿は仕事のために旅立たねばなりませんでした。
娘は当然それにくっついて行くことになっていました。
それから、もう何年たったでしょうか。
いきなり手紙がきて、帰ってくるって書いてありました。
そして、少しして、手紙通りに娘たちは帰ってきたんです。
手紙が届いてから、二ヶ月後でした。
でもまさか、こんなことになっているなんて。
話してくれれば良かったのに。
包帯?
娘婿が帰ってきた時は、顔の怪我はすっかり治っていましたよ。

……それで、娘婿が手にかけた人は、何処のどなただったのでしょう?

はぁ、そうですか。
まだ調べている最中なんですね。

あ、あらあら、起きちゃったの。
すみません、孫にミルクをあげる時間ですので。
娘も話を聞くということで連れていかれたので、ヤギの乳をやっています。
最初の子は残念なことにしてしまったけれど。
でも、お陰でこの子が来ましたから。

えぇ、それではお気をつけて。
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