上 下
124 / 142
死に別れた兄貴が、実は生きてて反社の偉い人やってた件

裏話5

しおりを挟む
 結果だけを言うなら、アジト襲撃はあっけなく終わった。
 重要な拠点のひとつに、もうほとんど壊れていてあとは廃棄するだけだった耕運機や軽トラ、なんなら大型トラックをかき集め、少々改良して突っ込ませ、爆発させた。
 事前にこれから攻撃するんでー、と予告した上で爆発させた。
 まさか相手も、今にも壊れそうな特殊車両を引っ張り出してくるとは思っていなかったらしい。
 しかもそれ自体を爆弾として扱うとは考えても見なかったんだろう。
 生け捕りにした構成員は、

「なんで戦車じゃないんだよ!!」

 とツッコミを入れていたらしい。
 反社のアジトを取り囲む、農耕車(ほぼ壊れたやつ)の群れは壮観といえば壮観だった。
 それこそ豊作を祝っての農業祭でも行われるんじゃないかってくらい、壮観だった。
 もちろん、突っ込ませただけじゃない。
 軽トラに加え、大型トラックの荷台にはミサイルとその発射台が積まれていた。
 それを惜しげ容赦なく発射させた。
 ちなみに、普段ならスタンピードで空を覆い尽くすほどのドラゴンの群れ向けの兵器である。
 他大陸の農業ギルドのお偉方が、いかにキレまくっているかとてもよくわかる光景だった。

 新聞に出ていた写真だけを見たなら、事情を知らない人はきっと廃墟の瓦礫、それを撤去するために集められた農耕車としか見えなかったと思う。

 反社、もとい、ウスノが首領を務める犯罪組【cutthroat】は後日、これに反撃を開始した。
 世界各地にある農業ギルドの支部が攻撃を受けた。
 しかし、ドラゴンが百匹落ちてきても壊れない建物、それが支部の建物である。
 食料や水、なんなら武器(農具)の備蓄もそれなりにあったので、職員はこれに応戦した。
 基本的に、職員の九割方は農業高校、あるいは農業大学の出身者であるので害獣駆除の要領で、これまた構成員を討ち取っていった。

「なんで、魔王軍に就職してないんだよ!!」

 とは、やはり生け捕りにされた構成員の叫びであった。
 それに答えたのは、今年新卒で入った職員だった。
 曰く、

「だってご縁がなかったし」

 ちなみに、農業ギルドへの就職は高確率で縁故採用だったりする。
 身内が勤めていて、ほかに就職先が見つからないと紹介したり。
 アルバイトで農業ギルドで働いていて、そのままパートになったり正職になったりと、さまざまなパターンがある。
 事実として、農民はほかの業種だと採用されないということは、大陸を問わず、わりとよくある話だった。
 そんな話を人伝で聞いた、俺とシンは首がもげるんじゃないかってくらい頷いた。

「わかる、わかるわぁ」

 と、俺が呟けば、

「ほんと、それな状態なんだよ!!」

 力強く、シンも同意した。
 成績も能力も合格の範囲内だと言うのに、不採用とかはよくある話だった。
それに、そもそも農業高校は士官学校ではないのだから、軍へ入るという選択肢が最初から用意されていないのだ。

 さて、そんな会話をしつつ俺たちは、生きてた構成員を捕まえて農業ギルド、まぁ今回の作戦の本部に送る。

「しかし、このクリスタルのトラップいいなぁ」

 俺はクリスタル漬けとなっている構成員を見ながら、言った。
 すると、

「言ってくれれば安くする」

 横で十歳くらいの、ツインテールの女の子がそう言ってきた。
 こちらの大陸に住む農家出身の女の子、ミナクちゃんだ。

「お父さんがたくさん作ってるから」

 聞けば、彼女のお父さんの自作罠らしい。

「それはありがたい」

 今回のことが落ち着いたら是非購入させてもらおう。

「それを言うなら、うちの兄ちゃんの罠もなかなかだろ?」

 なんて言いつつ、シンが指し示したのはウカノさんが作ったトラップだった。
 構成員に蔦が巻きついて、魔力と体力を吸い上げ、綺麗な向日葵や、紫陽花、秋桜なんかを咲かせている。

「ちょっとえげつないかな?」

 俺の答えにシンは不服そうだ。
 いや、心を折るにはいいんだろうけど。

 さて、点在していた重要拠点を中心に潰され、さらに農業ギルドや各農家から奪った販路まで奪い返された犯罪組織【cutthroat】は、本腰を入れて反撃を開始した。
 つまり、本部の構成員が出張るようになったのだ。
 本部の構成員の練度は、重要拠点にいた構成員よりも高かった。
 そう、けっして弱くはなかったのだ。
 けれど、畑を荒らした獣を農家が人として扱うわけはなく。
 様々な対害獣用武器や罠、なんなら禁止となったトラバサミ諸々を持ち出して、これを討ち取っていったのだった。
 訓練を受けた訳でもないただの一般人。
 もしかしたらそれよりも劣る人種。
 農民のことを無意識にそう捉えている人は多い。
 だからこそ、心のどこかに油断があった。
 そして、認識を改めたところでもう遅い。
 気づけば犯罪組織【cutthroat】に、それなりの大打撃を与えることとなっていた。

 さて、そんな最中のことだった。
 農業ギルドを経由して、俺に手紙が届いた。
 差出人は、

「え、魔王様レフィアさん?」

 それを見ていた、シンが目を丸くする。

「お前、魔界の国家元首と知り合いなの?」

「あ、あぁ、まぁそんなとこかな。
 でも、なんの用だろ??」

 俺は手紙を開けて、中身を確認した。
 そして、シンへ振り向いて聞いた。

「ウカノさん、どこにいる??」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【救世主】さぁ、世界を救おうじゃないか少年【プロジェクト】

一樹
ファンタジー
とある少年が、世界が滅んで家族とか全滅して、それをなんとかする話です。 なんとかしようってとこで終わってます。 肥やしにしとくのもアレなんで投下します。 気まぐれに、続きを書くかもしれないので完結設定にはしていません。 よろしくお願いします。

王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】

時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」 俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。 「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」 「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」 俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。 俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。 主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン

恋人とパーティリーダーに裏切られたSSSランク冒険者、傷心旅行中に魔族のお姫様を助ける

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 話が進むと、陰謀とか財宝探しとかに首を突っ込んだりします。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました

月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...