上 下
112 / 142
スレ民はにはお見通し♡

裏話18 口喧嘩 中編

しおりを挟む
「で、なにが聞きたいんだよ?」

どこか不貞腐れたように、ヤマトは言った。
ようやく、観念したか。
目の前には、寮母さんが出してくれた、キンキンに冷えたアイスティーがあった。
それを一口飲んで、俺はテーブルを挟んで向かい側へ座っているヤマトへ聞いた。

「傷の具合わるいんだろ?」

ヤマトは諦めたように嘆息して、シャツを捲って包帯の巻かれたそこを見せてきた。

「縫ったあとがグロテスクだから、包帯とって見せるのは勘弁してくれ」

なんて、ヤマトが言ってくる。
それを右から左へと聞き流し、俺は包帯をじいっと見る。
多重に魔法がかけられているのがわかった。
傷口を塞ぐためなのか、他にも理由があるのか。
何故か、包帯やその下に貼り付けられているだろうガーゼにも魔法がかけられている。
そして、かすかにあの甘い匂いがした。
死んだじいさんの時に嗅いだ、死前臭。
もしかしたら、これが呪いの臭いなのかもしれない。
しかも、これだけ魔法を何重にかけても漏れ出てしまっているということだ。

「あと、傷に関しては俺に聞かれてもわからない。
糞担任か、ノームか、じいちゃんに聞いてくれ」

わからないわけが無いだろう。
嘘が下手くそになったな、こいつ。

「お前さ、俺が魔族だってこと忘れてないか?」

「忘れてない」

「そうか、それなら話が早い。
なら、俺が魔力の流れを読めるのも知ってるよな」

ヤマトがハッとして俺を見返した。
その顔には怯えがあった。
今朝の楽しそうな顔からは、程遠いそれ。
その顔に、またイライラしてくる。

「お前が言いたくないなら、もう、それはそれでいい。
自分で調べる」

こうなりゃ実力行使だ。
スレ民から聞き方についていろいろレクチャーされたが、イライラの方が勝って吹っ飛んでいた。
俺は、立ち上がってヤマトの横に座った。
ヤマトは、逃げようとしたけれどその動きはとてもゆっくりだ。
寮母さんがそれとなく、こちらを見てくる。

「殴り合いの喧嘩はダメだからね?」

釘を刺される。

「わかってますって」

「……はい」

多分、本気でボコろうとすればこいつの事だ。
これだけ隠したがっているなら、ノームを呼ぶはずだ。
それがない、ということはこれは許容範囲内と考えていいだろう。
ヤマトの首根っこを掴んで、座っていたソファに押し倒す。
両手首を片手でまとめて拘束し、ヤマトの体に乗り上げた。
そのまま、今は降りているシャツを今度は俺が捲し上げる。

「……やめろ」

ヤマトが、俺の手を掴み返してくる。
その手が震えていた。
お構いなく、俺はヤマトの腹に触れようとする。
これで、コイツが何に悩んでいるのかわかる。
そこで、ヤマトがカッと目を見開いて、

「やめろって言ってんだろーが!!
腹に触るな!!」

腹の底から怒鳴り声を出して、俺を蹴り飛ばした。
俺はソファから落ちた。
そこで、俺もハッとする。

え、今、なに、しようとしてた、俺??

俺は、自分の思うよりもずっとキレていたのかもしれない。

「ち、ちょっと!!」

寮母さんが声をあげ、俺たちのことを止めようとしてくる。
しかし、

「執拗いよ、お前?!
傷は見せたんだから、もういいだろ?!
それで満足しろ!!」

「……満足?」

不思議と出てきたのは、そんな言葉と笑いだった。

「もう、いい??」

ははは。
こっちがどんだけ心配してると思ってやがる。

「いいわけねーだろ!!」

「……っ!」

思わず怒鳴り返してしまった。
あきらかに、ヤマトは恐怖に怯えた目をしたが、もう止まれなかった。
近くにあった、壁を蹴りつける。
ビクッとヤマトの体が震えた。
そのままヤマトに近づいて、胸ぐらを掴む。
殴るのをグッと堪える。
本当は殴りたかった。
でも、こいつにはちゃんと言葉にしないと伝わらないと思ったのだ。

「お前さ、俺がどんだけお前のこと心配してるか、わかるか?
わかんねーよな。
春先の事もそうだ。
俺じゃなく、レイドを頼りやがった。
しかも、自分を始末させるためにだ!!
それを知った時、俺がどんな気持ちだったか、わかるか?!
わかんねーよな?!
わかってたら、どっかで相談してきたはずだ!!
でも、お前は絶対俺を頼らない。
誰かを頼っても、利用できるか否かで判断してるだろ!!
なんで、そこまでする!?
他人の為に、なんでそこまで出来る??!!
いつもいつも。
いつもいつもいつもいつも!!」

「……っ」

いろんな言葉を投げつけたかった。
でも、出てきたのは、

「……なんで、どうして、自分を大切にしようとしないんだよ?」

そんな、問いかけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【しかも】襲われたところを、ヤンキーに助けてもらった件【暴走族の総長だった】

一樹
恋愛
暴走族の総長に助けてもらった女の子が、彼とお近付きになる話です。 暴走族総長×お嬢様の恋愛モノです。 ※基本掲示板だけの話となります。 古いネタが多いです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【掲示板形式】気付いたら貞操逆転世界にいたんだがどうすればいい

やまいし
ファンタジー
掲示板にハマった…… 掲示板形式+αです。※掲示板は元の世界(現代日本)と繋がっています。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

島流しなう!(o´・ω-)b

一樹
ファンタジー
色々あって遭難したスレ主。 生き延びるためにスレ立てをした。 【諸注意】 話が進むと、毒虫や毒蛇を捕まえたり食べたりする場面が出てきますが、これはあくまで創作です。 絶対に真似しないでください。

処理中です...