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マウント取ってタコ殴りすることには定評あるんだぜ?知ってたろ??

裏話8

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 特殊な事情であるので、幼児退行したヤマトの世話を普段しているのは、そういうことに対しても黙々と仕事をこなせる人物だ。
 今回は、かつて生徒会長の家に仕えていた元家令とその妻に頼むことが出来た。
 妻もかつては生徒会長の家でメイドとして働いていたし、子育ての経験もあるので、身の回りの世話についても、ヤマトのその日の行動についても報告してくれる。
 あのパニック以降、ヤマトは少しだけ変わった。
 落書きをやめて、テレビをみたり、パソコンを弄って動画をみたりしているらしい。
 まだ幼いままだ。
 幼児言葉で話している。
 遠慮も増えた。 
 ノームやシルフィーがファフと共にやってきた時はそうでもないが。
 またなにかを言って刺激するのははばかられた。
 そんな矢先のことだった。

 「外に出たい?」

 ヤマト直々に生徒会長へ、そんな申し出があったのだ。

 「うん、あのね、外で遊びたい。
 ノームと一緒に、遊びたい。
 だめ、ですか??」

 ノームと一緒。
 それなら、問題ないように見える。
 しかし、ウスノのことはいいのだろうか?
 確認したいが、それをするとこの前のようにまたなってしまいそうだ。
 
 「考えておく」

 その答えに、ヤマトはパァっと明るい表情を浮かべた。
 おそらく、元に戻ったら二度と見ることの無い表情だ。
 そういえば、幼児退行してから今日まで見てきた表情は、どれも豊かだった。

 「ありがとうございます!」
 
 にぱあっと笑って、またパソコンに齧りつく。
 なにやら動画を見ているようだ。

 そういえば、記憶が戻りつつあるのかそれともなにかしら覚えがあるのか、パニックの日以降ヤマトは掲示板を検索して読んでいるらしい。
 良くも悪くも、あれも刺激になったということだろうか。
 しかし、あんな光景はできるなら見たくない。
 もう二度と。

 「……あの!」

 なんて考えていたら、ヤマトからそんな声がかかる。
 
 「アンクお兄ちゃん、ここってアパートのお部屋??」

 お兄ちゃん呼びに、なんというか、来るものがあったがそれをポーカーフェイスで誤魔化して、アンクは答えた。

 「アパートよりは大きな、そうだな、マンション、かな?」

 「そっかー」

 パソコンの画面は見えない。ちなみにノートパソコンである。
 しかし、なにやらぱちぱちとキーを打っているのはわかった。

 「ねーねー、アンクお兄ちゃん、ご近所さんっている??」

 「いないよ。この階に入ってるのはウチだけだよ」

 「そっかー」

 なんて言いながら、またぱちぱちとキーを打った。
 そして、しばらくするとノートパソコンをパタンと閉じた。

 「ブランお兄ちゃんはいつ来るの??明日?」

 「今日、これから来るよ。お休みだからね」

 「あ、じゃあまたあそべる??」

 「遊べるよ」

 「じゃあじゃあ、ノームも呼んでいい?」

 「いいよ。好きに遊びなさい」

 アンクが答えると、ヤマトが物凄く嬉しそうに抱きついてきた。

 「やったー!! アンクお兄ちゃん、ありがとう!」

 ここまで無邪気だと、本当に弟のように思えてくるから不思議だ。
 アンクにも弟はいるが、命のやりとりをする関係である。
 と、ふんふん、ふんふん。
 ヤマトがアンクの匂いを嗅ぎ始める。
 そして小さく、小さく呟いた。

 「嫌な匂いがする」

 呟くと同時に、アンクがここに置いている道具を確認し始める。
 さすがに老家政婦が見咎めて注意する。

 「ダメですよ、イタズラしちゃ」

 「アンクお兄ちゃんから変な匂いがする。
 でも、ここには無い。
 ねぇ、アンクお兄ちゃん、学校に変なもの置いてない??」

 ヤマトがアンクを見つめ返して、そんなことを言う。
 そのヤマトの目とアンクの目が交差する。
 そこにあったのは、あの日。
 初めて、アンクとヤマトが話した日の目の色で。

 「毒、か?」

 少し考えてから、フルフルとヤマトは首を振った。

 「わかんない。でも、嫌な匂い」

 アンクは少し考える。
 考えて、そして、言った。

 「ノームを呼んでくれるかい?
 ノームが居るなら安心だから、ちょっと学校までお出かけしようか」

 「いいの?!」

 「ああ、ただし、ノームが良いって言って、ブランが来てからだ」

 「わかった!!」

 ノームがいるなら、ヤマトはきっと大丈夫だろう。
 それに、今日は休日だ。
 生徒会メンバーはいないし、部活動をしているところもあるだろうが生徒会室と文化部の部室は離れている。
 危険は少ないはずだ。
 ヤマトが呼ぶと、ノームはすぐに来てくれた。
 ノームはヤマトを見て、何故か吹き出した。
 笑いつつも説明を聞いて、了承する。
 ヤマトが無邪気にはしゃいでいるのを見て、また盛大に吹き出した。
 とても楽しそうである。
 やがて、ブランがやってきて外出の話を聞いた。
 良い顔はしなかった。
 しかしヤマトがどうしても外に出たいんだ、とオネダリすると、渋々こちらも了承した。

 ノームはずっと笑っていた。

 「良かったな」

 ノームがそう言うと、ヤマトが満面の笑みで答えた。

 「うん!!」
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