【無双】底辺農民学生の頑張り物語【してみた】

一樹

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実家帰省編

裏話9

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 シルフィーおばちゃんが、なんとか弟を宥めようとするが、ダメだった。
 頭に血が上って、聞こえていない。
 おそらく意識が落ちていたのは、本当に一瞬だったんだろう。
 さてそんなズタボロの俺の近くで声がした。

 「あ、動かないで! 今ファフの所に送るから」

 水の精霊、その女王のディーネおばちゃんだった。
 ディーネおばちゃんは言って、転移魔法を発動させようとする。
 俺はそれを止めた。

 「おばちゃ、やめ、タケル、とめ」

 途切れ途切れの俺の言葉から、それでも意志を読み取ってくれたらしい。

 「えぇ、ヤマトってば、アレ止めるつもり?
 それをするには、まず怪我を治してからの方がいいわ」

 俺はディーネおばちゃんの説得に首をブンブン横に振ろうとした。
 痛みと、吐瀉で出来なかった。

 「ほら見なさい、ほとんど死んでるようなもんなんだから、大人しくしてなさい」

 ディーネおばちゃんがさらに言ってくるが、俺は聞かず、むしろ魔法袋に痛み止めが無かったかと探り出す。
 無いかぁ。
 あれ? これは。
 だいぶ前に買って魔法袋の肥やしになってたのか?
 すっかり忘れてた。
 とりあえず、なんでもいいや。
 
 「……ほんとに死ぬ気なの?」

 俺が、特別性の強い痛み止めモルヒネを使おうとしてるのを見て、ディーネおばちゃんが呆れた声を漏らした。
 
 俺は、それらを口に含みディーネおばちゃんに水を出してもらう。
 一気に飲み干す。
 すぐに効果は現れた。
 痛みが嘘のように消える。
 麻痺してるのかもしれない。
 それでも、皮膚や手を動かしてみて、ちゃんと感覚があるのを確かめる。
 よし、これならいける。

 「頭も割れて凄いことになってるんだけど。水鏡見る?」

 ディーネおばちゃんが、もうなんて言ってみようもない複雑な声でそう聞いてくる。
 丁重にお断りした。 

 「終わったら爺ちゃんに治してもらうよ。
 とある人達にいわれたんだけど、うちの家系って、身体が丈夫みたいだしさ。平気平気。
 そんな簡単に人は死なないって」

 ディーネおばちゃんが、なんて言うか頭痛が痛そうな顔になる。

 「あんたの曾お祖父さんも似たようなこと言って、耕運機で無茶な運転してひっくり返って圧死したんだけど」

 んんん、聞こえない聞こえない。
 よしよし、呂律も回るな。
 立ち上がる。
 足を動かす。
 普通に動いた。

 うし。

 あ、やべ、痛み止め効きすぎてる。
 ぼうっとしてきた。
 早めに止めるか。

 俺は駆け出す。
 そして、二年生達と弟の間に割って入ると転移の札を発動させ二年生へ投げつけた。
 情けないくらいに涙と焦りで顔をグチャグチャにした、二年生達と目が合った。
 そりゃ怖かっただろうなぁ。
 なんて思っていたら、弟の猟銃から二発の銃弾が発射される。
 あー、くっそ!
 微妙に転移に間に合わねぇ!!
 俺は手足を伸ばして、それを防ごうとする。
 うん、馬鹿だね俺。
 あと条件反射って怖いね。
 左手と右足が吹っ飛ぶ。
 そこで弟が、固まった。
 驚いた顔で固まった。
 背後でも、怯えに似た声が聞こえてくる。

 「ひぃっ?!」

 しかし、すぐにその気配が消えた。
 転移したんだろう。
 そのことに、とりあえずホッとする。
 続くように、

 「なにやってんのーー!!」

 シルフィーおばちゃんが、叫んだ。
 しかし、その声が遠のいていく。
 やべぇ、本当に死ぬかも。
 視界が揺れて霞んでいく。
 その先で、弟が銃を投げ出して俺に走りよってくるのが見えた。
 バランスを失って倒れたのか、僅かに土と草の感触が肌に触れる。
 と、弟に抱き起こされた。
 必死に俺の事を呼んでくる。
 俺は、俺の顔を覗き込んでいる弟の頭に無事だった右手を伸ばす。
 時々そうするように、くしゃくしゃと撫でようとしたけど力が上手く入らず、触れるだけで終わる。
 触れながら、

 「おい、おちつけ、バカ」

 そう言った直後に、完全に意識が落ちた。
 ただ、遠くで弟が、

 ――バカはどっちだ!!――

 なんて怒鳴ったのが聴こえた気がした。
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