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実家帰省編

裏話2

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 さて、急な来客があった以外は概ね普通だった。
 親父ともすぐに連絡が取れて、大叔父さんのことを伝える。
 電話の向こうから、

 『おいっ!! おい!!!! かあちゃん!!!!!!』

 と、自分の妻であり、俺たちの母親を呼ぶ声がする。
 何も知らない人間が聞いたら怒鳴り声に聞こえたことだろう。
 実家でもそうだが、農閑期である冬や、それ以外の季節にも、たまに小遣い稼ぎで重機なんかを使う仕事をしているので耳が遠いのだ。
 そのため大声になってしまうらしい。
 だが、怒鳴り声になってしまうのはやめてほしい。
 呼ばれた方は気分悪いが。
 さて、そんな親父の声に負けじとヒステリックな声が返ってきた。
 母親である。

 『なに?! あんた、そんな怒鳴らんでくれる!? 聴こえてる!』

 夫婦喧嘩に聞こえるだろう。
 紛うことなき、夫婦喧嘩である。
 この時期、この人たちはとくにピリピリしているので日常茶飯事だ。
 親父が母親に大叔父の来客と、ドラゴンの尻尾を置いていったことを伝える。

 『また!? いつもいらないっていってんのに?!
 誰が料理すると思ってんの!? ヤマトも断ってよ!!
 気が利かないったら、もう!!
 タケルと違って、ほんっと、馬鹿なんだから!!』

 おい、ドサマギでdisるのやめろ。

 「はいはい、すみませんね。
 なんなら、尻尾の生姜焼きか汁、作っておくけど、どうする?」

 相手にしても疲れるだけなので、俺は淡々とそう返した。
 これならハウスまで行かなくていいし、まだ楽できる。
 そう考えての提案だった。
 しかし、その提案に親父が怒鳴りつけてきた。

 『そんなこといいから、さっさとこっち来て手伝え!!』

 うるさいなぁ、ほんと。
 実家は相変わらずだった。


 農高時代に従兄弟からもらった自転車は、まだ健在だった。
 念の為に空気を入れて、パンクしていないかをチェック。
 大丈夫そうだったので、それに乗ってビニールハウスが立っている畑まで向かう。
 去年までは作業小屋で土詰め作業をしていたが、今年からはハウスでやる。 
 仕事場に着くと、ラジカセから音割れした声が流れていた。
 ハウスの入口で、積み上げられた紺色の空の苗箱を淡々と、土詰めと筋播きが一緒に出来る、小さなベルトコンベアに乗せていってる母親を見つけた。
 ベルトコンベアには二箇所箱のような物がくっついている。
 片方には土、もう片方には主役である消毒された籾種をいれるのである。
 ちなみに今日は土詰めだけである。このベルトコンベアの本領が発揮されるのは、来週以降である。
 土詰めされた苗箱を、ハウスに入ってすぐの場所に弟が積んでいく。

 「あ! やっと来た!!」

 「クレームならアポ無しで来た、おじさんに言ってくれ」

 非難がましい声を掛けられたので、なにか言われる前にそう言っておく。
 親父の姿は無かった。

 「父さんは?」

 「ま た ど っ か い っ た!!!!」

 堪忍袋の緒が切れる直前だったらしく、そう怒鳴ってきた。
 俺に怒鳴らないでほしい。
 うちの親父は落ち着きが無い。
 とにかくじっとしていられないのだ。
 俺がもうすぐここに来ると、さっきの電話で確定したためスクーターを走らせて、離れた場所にある畑にでも行ったらしい。

 「あ、兄ちゃん、おかえりー。
 土、そっちに袋のあるから、それ入れて。
 多分足りると思うけど、無くなったら軽トラの車庫の所にまだあるってさ」

 「了解」

 そんな感じで、黙々と作業を続ける。
 こんな山奥でも辛うじて電波は入っているので、古いラジカセはそのために置いている。ニュースや時間がわかるからだ。
 別に時計を置いてもいいけれど、BGM代わりにもなる。

 「あ、そうだ。去年送って貰った米、友達めっちゃ喜んでたよ」
 
 嘘ではない報告を母にする。
 米は母に送って貰ったのだ。
 喜ばれて嫌な気はしないらしく、母の機嫌が少しだけ良くなった。
 祖父母の姿が見えないので聞いてみた。

 「爺ちゃんと婆ちゃんは?」

 その質問は地雷だったらしく、また、母の機嫌が悪くなった。

 「その辺でくたばってんじゃないの?!」

 嫁いだ時からだいぶ姑と舅にやられたらしく、母は二人が大嫌いだった。
 たぶん、いや、確実に早く死ね、と思っている。
 実家だなぁ、と俺は感慨深かった。
 如何せんキーキー声なので、ちょっとストレスになってしまうのがアレだけど。

 「爺ちゃん達なら、朝からドラゴンが出たってことで狩りに行ってるよー。ほら麓の小学校のグランドで足跡と糞が見つかったんだってさ」

 弟がそう言ってきた。
 ちゃんとした理由があっても、母親には気に食わないらしい。
 まぁ、それだけのことをされてきたのだ。仕方ない。
 でも、このヒステリックなキーキー声はやめて欲しいなぁ。

 「去年から、増えてんな」

 実技授業のことを思い出しながら、俺は呟いた。
 あ、土足さなきゃ。
 弟が苗箱を積み上げながら言ってくる。

 「今年はとくに多いんだって。おじさんとこも罠を仕掛けるとポンポン取れるって言ってたし」
 
 さっき、ドラゴンを持ってきてくれた大叔父のことだ。
 
 「ふぅん」

 「あちこちの山で登山客がドラゴンや熊、あとワーウルフやゴブリンなんかに襲われる事故がけっこう起こってるっぽい。
 うちも去年、柿とザクロが食われた。とくにゴブリンは手や道具使うじゃん?
 だから、食べ頃のやつが全滅したんだ。油断してたってのも。
 ゴブリンのやつら、家から柿をつける用の酒まで盗んで行ったし」

 そうだったのか。

 「鍵付けかえたいよなぁ」

 俺が呟くと、弟は同意してくれた。

 「ほんとになぁ」

 うちの玄関の鍵は内側からしか掛けられない仕様だ。
 ちゃんと外からも掛けられるようにしたいが、爺ちゃんと親父が生きている間は無理だ。
 曰く、親戚やご近所さんが来た時に感じが悪くなるから、らしい。
 気にしなきゃいいのに。

 さて、黙々と作業を続けていく。
 と、俺たち三人はやけに山が静かなことに気づく。
 母親がベルトコンベアのスイッチを切る。
 近くに投げてあった鍬を手に取る。
 弟も手近にあったシャベルを、持つ。
 俺も魔法袋から、鉈を取り出す。
 警戒していると、今度は、俺たち三人の携帯から警報が鳴り響いた。
 モンスターの群れが近づいているので気をつけて下さい、という警報だ。
 あ、やっぱりこっちだと鳴るんだな。
 実技授業の時は、鳴らなかったから変だなとは思ってたんだ。

 いち早く動いたのは母親だった。
 一番近くの森の中に走っていく、すぐに野太い断末魔が聴こえてきた。
 少しして、母親が森の奥からズルズルとサイクロプスの腕を掴んで引きずってきた。
 首があるはずの場所になく、腹の上に乗っていた。
 そして、また駆け出す。
 今度はゴブリンキングとその配下のゴブリンを仕留めてきた。
 そんな感じで、魔物を仕留め、死体の山を文字通り積み上げていく。

 「これ罠と結界が壊れてる。絶対壊れてる」

 弟が呟いた。
 と、なると結界と罠は農業ギルドに連絡だ。
 ハウス周りの方は大丈夫そうだけど、一応確認しておくか。
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