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無人直売所に野菜を持っていくと、サチが待ち構えていた。
どうやら、ギルドマスターからコノハ姫のことを聞いたらしい。
とはいえ、サチが聞いていたのはコノハ姫が研修生として、住み込みでヒロの家で働くことになったというくらいだ。
その正体については、もちろん知らない。
ただ、こう言っては職業差別というか偏見になってしまうが、とても農業とは無縁の可愛い子が来た、というだけで話題になってしまうのは、仕方の無いことだった。
「そりゃあもう話題ですよ。ヒロさんに嫁が出来たって」
「嫁じゃないよ。
セクハラだし、コノハさんにも迷惑だから本人の前では言わないようにね」
さすがに姫様だの、コノハ様だのと口にできないので、【さん付け】する。
さて、そんなヒロの言葉にサチはどこか不服そうにする。
「優しいですねぇ。
でも遅かれ早かれ、私じゃなくてもコノハさんに言うと思いますよ?
ここは、そういう業界じゃないですか」
「女性差別があるのは否定しないよ」
「女性蔑視と偏見も他の業界に比べて多いですよ。
ま、あくまで個人的な体感として、ですけど。
でも、皮肉なもんですよねぇ。
その差別と蔑視と偏見のお陰で、私はこうして仕事にありつけてるんですから」
受付は女性の方が良い、という一部古い世代の考えが根付いている。
そのため、農業ギルドだけではなく、冒険者ギルドや商業ギルドでも受付は女性が多い。
それも一定の基準があるのか美人が多い。
あとは飲み会のこともある。
農業ギルド内ではともかく、一度開拓民や地元農耕士との飲み会と言う名の交流会があるのだが、これが一部女性職員と女性農耕士の悩みの種になっていたりする。
何故なら、息子の嫁探しの場として利用されているからだ。
もっと言ってしまえば、そういった飲み会だけではなく、法事での場もそういうことに利用される。
現代では、結婚しない選択をした農耕士も多い。
それにも関わらず、親が余計な気を回すのだ。
本人の意思なんて無視される。
本人が一人で幸せだと考えているのに、気の迷いにされる。
そして、結婚さえすれば、そして子供さえ作れば【幸せ】なのだと、洗脳しようとする。
ちなみに、男性からの差別もそうだが女性による女性差別と偏見、蔑視があるのだから闇が深い。
個人の考えならそれもありだろう。
でも、それを押し付けて気乗りしない男女をくっつけるという自慰行為にふける、時代に合わない【大人】が本当に多いのだ。
そして、その考えを現代に合わせようとしても無駄なのだ。
何故なら、それが正しいのだと洗脳されてきたのだから、
今は正しくない正しさ、それが農業、と言うより田舎には普通に蔓延している。
「これは、私なりのコノハさんへのお節介ですよ。
でも、私がいきなりこのことを話しても、きっとド新人のコノハさんは戸惑うと思うんですよ」
「だから、俺に言えと??」
「少なくとも、ヒロさんはそういった【大人のお節介】をせず、私のような小娘の、子供の【お節介な考え】に賛同してくれるでしょ?」
ヒロには許嫁がいる。
親が勝手に決めた許嫁が。
それも、【大人のお節介】になるのだろう。
だけど、ヒロ個人は【大人のお節介】は抜きにして、許嫁のことは嫌いではない。
それは、お互いにそうなのだ。
相手を決めたのは親だけど、相手に対する好意だけは自分達だけのものだ。
でも、自分がそのように相手がいるからといって、その境遇や考えを押し付ける気はサラサラ無い。
それをサチは知っているからこそ、先輩として注意しろと言っているのだ。
そうでないと、ほかの【お節介な大人】に良いように自慰行為の道具にされるから、と。
そう、年齢的に成人したからといって大人扱いされるとは限らない。
結局、ご都合主義の大人扱いでしかないのだ。
本人が今口にしたように、都合よく小娘扱いされているのだろう。
「ま、実家の方だと俺は未成年だからね。
でも、うん、預かっている大切な子だから、注意はしておくよ」
彼女の正体を知っているのは、農業ギルド内ではヒロだけなのだから。
ヒロは彼女の命も守らなければならないが、同時に精神的な苦痛からも守らなければならないのだ。
何故なら、コノハは雲の上の存在なのだから。
市井とは別の世界のルールに生きる【お姫様】なのだから。
さて、そんなコノハだが無人直売所に次々並ぶ野菜を興味深そうに見ている。
それも、二又や三又に分かれた奇形の野菜に興味を示している。
それに気づいた、二十歳ほどの青年がニヤニヤと楽しそうにマジックを取り出し、大根に落書きを始めた。
それを興味津々に、コノハは眺める。
やがて、落書きを終えた青年が大根を見せる。
そして、声高に叫んだ。
「見よ! これが野菜に付加価値をつける魔法だ!!
名付けて、おっパイだいこ――」
「何セクハラしてんだ、てめー!!」
ただの落書きだが、一国の姫に見せるには下品過ぎるのでヒロは飛び蹴りを食らわせて、青年を黙らせる。
その青年の手から落書きをされた大根が投げ出され、コノハの手に収まった。
それをマジマジと見て、コノハは蹴飛ばされた青年へ訊ねた。
「とても官能的な落書きですね。
これで、おいくらになるんですか??」
真面目に聞いているあたり、どうやら不快感はないようだ。
言葉を返したのはヒロだった。
「コノハさん、世の中知らなくていいこともあるんですよ」
ちなみに収穫祭時の言い値しだいなので、下手すると五倍の値段が付くことがあったりする。
今日みたいな直売所では基本一律の値段になる。
とりあえず、落書き大根は没収となった。
どうやら、ギルドマスターからコノハ姫のことを聞いたらしい。
とはいえ、サチが聞いていたのはコノハ姫が研修生として、住み込みでヒロの家で働くことになったというくらいだ。
その正体については、もちろん知らない。
ただ、こう言っては職業差別というか偏見になってしまうが、とても農業とは無縁の可愛い子が来た、というだけで話題になってしまうのは、仕方の無いことだった。
「そりゃあもう話題ですよ。ヒロさんに嫁が出来たって」
「嫁じゃないよ。
セクハラだし、コノハさんにも迷惑だから本人の前では言わないようにね」
さすがに姫様だの、コノハ様だのと口にできないので、【さん付け】する。
さて、そんなヒロの言葉にサチはどこか不服そうにする。
「優しいですねぇ。
でも遅かれ早かれ、私じゃなくてもコノハさんに言うと思いますよ?
ここは、そういう業界じゃないですか」
「女性差別があるのは否定しないよ」
「女性蔑視と偏見も他の業界に比べて多いですよ。
ま、あくまで個人的な体感として、ですけど。
でも、皮肉なもんですよねぇ。
その差別と蔑視と偏見のお陰で、私はこうして仕事にありつけてるんですから」
受付は女性の方が良い、という一部古い世代の考えが根付いている。
そのため、農業ギルドだけではなく、冒険者ギルドや商業ギルドでも受付は女性が多い。
それも一定の基準があるのか美人が多い。
あとは飲み会のこともある。
農業ギルド内ではともかく、一度開拓民や地元農耕士との飲み会と言う名の交流会があるのだが、これが一部女性職員と女性農耕士の悩みの種になっていたりする。
何故なら、息子の嫁探しの場として利用されているからだ。
もっと言ってしまえば、そういった飲み会だけではなく、法事での場もそういうことに利用される。
現代では、結婚しない選択をした農耕士も多い。
それにも関わらず、親が余計な気を回すのだ。
本人の意思なんて無視される。
本人が一人で幸せだと考えているのに、気の迷いにされる。
そして、結婚さえすれば、そして子供さえ作れば【幸せ】なのだと、洗脳しようとする。
ちなみに、男性からの差別もそうだが女性による女性差別と偏見、蔑視があるのだから闇が深い。
個人の考えならそれもありだろう。
でも、それを押し付けて気乗りしない男女をくっつけるという自慰行為にふける、時代に合わない【大人】が本当に多いのだ。
そして、その考えを現代に合わせようとしても無駄なのだ。
何故なら、それが正しいのだと洗脳されてきたのだから、
今は正しくない正しさ、それが農業、と言うより田舎には普通に蔓延している。
「これは、私なりのコノハさんへのお節介ですよ。
でも、私がいきなりこのことを話しても、きっとド新人のコノハさんは戸惑うと思うんですよ」
「だから、俺に言えと??」
「少なくとも、ヒロさんはそういった【大人のお節介】をせず、私のような小娘の、子供の【お節介な考え】に賛同してくれるでしょ?」
ヒロには許嫁がいる。
親が勝手に決めた許嫁が。
それも、【大人のお節介】になるのだろう。
だけど、ヒロ個人は【大人のお節介】は抜きにして、許嫁のことは嫌いではない。
それは、お互いにそうなのだ。
相手を決めたのは親だけど、相手に対する好意だけは自分達だけのものだ。
でも、自分がそのように相手がいるからといって、その境遇や考えを押し付ける気はサラサラ無い。
それをサチは知っているからこそ、先輩として注意しろと言っているのだ。
そうでないと、ほかの【お節介な大人】に良いように自慰行為の道具にされるから、と。
そう、年齢的に成人したからといって大人扱いされるとは限らない。
結局、ご都合主義の大人扱いでしかないのだ。
本人が今口にしたように、都合よく小娘扱いされているのだろう。
「ま、実家の方だと俺は未成年だからね。
でも、うん、預かっている大切な子だから、注意はしておくよ」
彼女の正体を知っているのは、農業ギルド内ではヒロだけなのだから。
ヒロは彼女の命も守らなければならないが、同時に精神的な苦痛からも守らなければならないのだ。
何故なら、コノハは雲の上の存在なのだから。
市井とは別の世界のルールに生きる【お姫様】なのだから。
さて、そんなコノハだが無人直売所に次々並ぶ野菜を興味深そうに見ている。
それも、二又や三又に分かれた奇形の野菜に興味を示している。
それに気づいた、二十歳ほどの青年がニヤニヤと楽しそうにマジックを取り出し、大根に落書きを始めた。
それを興味津々に、コノハは眺める。
やがて、落書きを終えた青年が大根を見せる。
そして、声高に叫んだ。
「見よ! これが野菜に付加価値をつける魔法だ!!
名付けて、おっパイだいこ――」
「何セクハラしてんだ、てめー!!」
ただの落書きだが、一国の姫に見せるには下品過ぎるのでヒロは飛び蹴りを食らわせて、青年を黙らせる。
その青年の手から落書きをされた大根が投げ出され、コノハの手に収まった。
それをマジマジと見て、コノハは蹴飛ばされた青年へ訊ねた。
「とても官能的な落書きですね。
これで、おいくらになるんですか??」
真面目に聞いているあたり、どうやら不快感はないようだ。
言葉を返したのはヒロだった。
「コノハさん、世の中知らなくていいこともあるんですよ」
ちなみに収穫祭時の言い値しだいなので、下手すると五倍の値段が付くことがあったりする。
今日みたいな直売所では基本一律の値段になる。
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なんというか、
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