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完全に
完全に・・・
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あれから何年たったのだろうか・・・もう私は完全にワニになってしまった。身体は完全に消失し意識だけが残っていた。でもそれは地獄だ。ワニという牢獄に閉じ込められた。私をワニにした園長は歳をとり、飼育員も交代していったが、その飼育員も年老いていくのが分かった。それから四季を何度めぐったのか分からなくなった。
「このワニ、名前はカズミといいますが、この動物園に来て50年がたちます」
その日、テレビ局の取材があった。飼育員の女性は案内していた。
「このワニですが、先代の園長の娘さんの名前が付けられています。なんでも若くして不慮の死を迎えたので、代わりにこのワニにつけたそうです。それにしても大きいでしょ! まるで怪獣ですよ。あんまり巨体なので映画に使われた事もあります。まあ、コンピュータで合成したそうですよ」
私の本当の名前は思い出せない。はるか昔に同級生をイジメて死に追いやった報いでワニにされた女だ。そのことを知る者はこの動物園にいなくなったようだ。ふと、あの日のある場面がよみがえった。
「一人のいじめられっ子の人生よりも、十人のいじめっ子の人生の方が大事だ! イジメられるっていうのなら転校すればいいんだ!」
これは教頭先生が言った言葉だ。私たちを擁護するために。それを言われたいじめられっ子の、カズミの父親、動物園の園長は恐ろしい夜叉のような顔をしていた。でも、私はその時何も感じなかった。カズミなんか死んでしまえばいいと本当に思っていた。実際そうなったが、それは私という存在がワニにされるトリガーになった。
「うーん、あんまり湿っぽい話になるなあ。でも立派なワニだからとりあえずワニの映像を撮らせてもらうわ」
テレビ局のプロデューサーらしき男はそういうと、カメラマンに私の姿を撮るように指示した。
”私は人間よ! みんなに知らせてよ! お願いよ!”
私は訴えたが、もう誰にも伝える事は出来なかった。人間の身体をワニに改造するなんて想定もしていないだろう、分かってもらえるわけはなかった。言葉をいう事も出来ないし!
「なんか、このワニってイライラしているようだな! ご機嫌斜めのようですよ」
カメラマンはそういうと撮影を終えると、さっさととその場を後にした。残された私の意識はぼやけていった。最近は人間だっという意識がぼやけるようになった。老化のせいかもしれない。確実なのは私は完全にワニだと。誰にも知られることなく罪と罰を背負っているワニだ。ワニには出来ないが私は死にたかった。死んだあと、たとえ地獄に落ちても構わないから・・・
「このワニ、名前はカズミといいますが、この動物園に来て50年がたちます」
その日、テレビ局の取材があった。飼育員の女性は案内していた。
「このワニですが、先代の園長の娘さんの名前が付けられています。なんでも若くして不慮の死を迎えたので、代わりにこのワニにつけたそうです。それにしても大きいでしょ! まるで怪獣ですよ。あんまり巨体なので映画に使われた事もあります。まあ、コンピュータで合成したそうですよ」
私の本当の名前は思い出せない。はるか昔に同級生をイジメて死に追いやった報いでワニにされた女だ。そのことを知る者はこの動物園にいなくなったようだ。ふと、あの日のある場面がよみがえった。
「一人のいじめられっ子の人生よりも、十人のいじめっ子の人生の方が大事だ! イジメられるっていうのなら転校すればいいんだ!」
これは教頭先生が言った言葉だ。私たちを擁護するために。それを言われたいじめられっ子の、カズミの父親、動物園の園長は恐ろしい夜叉のような顔をしていた。でも、私はその時何も感じなかった。カズミなんか死んでしまえばいいと本当に思っていた。実際そうなったが、それは私という存在がワニにされるトリガーになった。
「うーん、あんまり湿っぽい話になるなあ。でも立派なワニだからとりあえずワニの映像を撮らせてもらうわ」
テレビ局のプロデューサーらしき男はそういうと、カメラマンに私の姿を撮るように指示した。
”私は人間よ! みんなに知らせてよ! お願いよ!”
私は訴えたが、もう誰にも伝える事は出来なかった。人間の身体をワニに改造するなんて想定もしていないだろう、分かってもらえるわけはなかった。言葉をいう事も出来ないし!
「なんか、このワニってイライラしているようだな! ご機嫌斜めのようですよ」
カメラマンはそういうと撮影を終えると、さっさととその場を後にした。残された私の意識はぼやけていった。最近は人間だっという意識がぼやけるようになった。老化のせいかもしれない。確実なのは私は完全にワニだと。誰にも知られることなく罪と罰を背負っているワニだ。ワニには出来ないが私は死にたかった。死んだあと、たとえ地獄に落ちても構わないから・・・
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