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序章:女子脱走兵たち

女子脱走兵たち

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 三陸沖で分子レベルまで爆発した宇宙強襲揚陸艦・認識番号”Γ50210”、非公式には「”紅い魔女の10”」は銀河系で数多くの知的生命体を支配している「機械盟約」の軍事部門に属す量産型の一隻に過ぎず、その乗員も消耗品でしかなかった。

 だから彼女たちが所属していた軍は、敵である「時空聨合」に協力などしないように逃亡した場合は追手を差し向けるところであったが、自爆したのを確認にするために地球に調査隊を派遣することはなかった。自爆で完全に分子レベルまで分解したはずだから。

  その艦に搭乗していた乗員も兵員も敵軍による度重なる攻撃で大半が戦死していて、最後に残された艦長ラーヌが戦場になっていない惑星系の生物が居住している星の重力に捕捉され脱出できないので、その星の住民に見つかる前に自爆したと公式記録された。

 しかし、この時艦には六人の生存者がいた。一人は乗員唯一の生存者ラーヌで、ほかの五人は女子遊撃強襲機械兵だった。直前の戦闘で辛うじて生き残っていた者たちだった。

  「ラーヌ、大丈夫なの? 本当にごまかせられるのかな。なんかの偶然でばれたりしないかしら」

  そういって艦長のラーヌに近づいてきたのは、この艦に搭乗していた女子遊撃強襲機械兵小隊長マリンだった。彼女は優秀な強襲機械兵士で歴戦の勇者として名をはせていたが、それも過去のものになりつつあった。彼女は記録上は既に戦死したことになっていたからだ。

 直前の戦闘、のちに対決した両軍事勢力から「第四次エルバ774戦役」と呼ばれた戦いで、不意打ちを受けた際に、彼女が指揮していた小隊は直前の戦場で孤立無援となり、所属していた隊員の大半を戦死させてしまった。本人も地対地ミサイルの直撃を受け、大半の生体維持装置が破損し脱出後に機能停止、艦に収容後に死亡したとされていた。

 むろん、それは故意に軍中央の統括作戦ネットワークに虚偽の報告であった。なお宇宙強襲揚陸艦”Γ50210”で戦線離脱する際に直撃弾を複数食らい、艦橋と機関部を損傷し跳躍航法に失敗し地球圏にやってきてしまった。生存者はたまたま医療整備部のあるブロックにいて生存していた。ほかのブロックにいた者は跳躍航行中の亜空間で艦外に飛ばされたり猛烈なフィールド放射で焼かれたりして死亡していた。

 もちろん、傷ついた艦であっても、最期の動力が機能すれば、地球からは見ることが出来ない月の裏側に不時着し、そこで救助を待つ方法もあったが、彼女ら六人の総意は永久に戦線を離脱することだった。

  ”Γ50210”が自爆する瞬間、居住モジュールの一部だけが、日本海溝に沈んでいた。そのなかに生存者となった脱走兵がいた。艦長のラーヌ、小隊長のマリン、兵卒のアケミとミランダ、キャシャリン、整備兵のユリアンだった。あとは何人かの機械兵の遺体だった。

  「それよりもマリン小隊長。あなたの身体大丈夫なの? 生体と機械の接合部から体液が噴き出しているんじゃない? そんな状態でそんなに長くないわ」

  「それわかっているわよ。わたしって、ほらこの作戦が終了して帰還すれば生殖活動に入るために除隊予定だったじゃないの? あんな任務に就くぐらいなら死んだ方がましだわ! でもその前にこの子達の夢をかなえさせてユリアン」

  そういったマリンの身体はサイボーグのようだった。全身を特殊金属と炭素繊維で構成された外骨格に覆われ、髑髏のようなマスクをしていた。もし外骨格が外れた胸の部分から血がにじんだ素肌が見えなかったら誰も人間には見えなかったのは間違いなかった。

  「小隊長! わたしたちよりも早くこの惑星の人間の身体になってください。わたしたちは後回しでいいですから」
  三人の機械兵は動きが緩慢になったマリンに近寄っていた。

  「いいのよ。アケミ、ミランダ、キャシャリン。わたしのような数多くの人々を殺戮した女は早く死ぬべきだわ。
  あなたたち言っていたわね。こんな戦闘のための兵器に改造されるために身体が切り刻まれて、こんな金属の人形に改造されるのは嫌だったって。
  わたしも嫌だったわ。こんな機械なのか生物なのかわからなくなる事に。それに知ってしまったわ。人を殺める事のむなしさを!
  どっちにしても、私たちは原隊に復帰したら再教育キャンプ送りされて自我なんてなくされてしまうところだったわ。だから、この地球という星の人間になりましょう!」

  そうマリンは息も絶え絶えに話したが、うしろからユリアンが近づいてきた。ユリアンは改造箇所が少ないので、外見上は普通の人間のようであったが、内部は機械兵をメンテナンスする装置でいっぱいだった。

 「小隊長! あなたたち機械兵に改造された女子を、この地球で生活できるようにするには・・・この惑星の女子と融合させないといけません! そのためには地球人の命を奪う事になります!」
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