上 下
2 / 22
朝起きたら・・・

(01)三十歳を過ぎて童貞だったら

しおりを挟む
 誰が言ったんだろうか、三十歳を過ぎて童貞だったら魔法使いになれるとは? なんかのアニメの設定だったような気がする。童貞がなんかの力を持っているようには思えないけど。処女、といったら神秘的というかなんというか、美しい意味があるような気もするけど、童貞というのは未熟者で一人前でない意味にしか感じられない、そんな挫折に似た感覚に襲われてしまう。

 まあ、それはともかく彼女いない歴が生きてきた年齢と一緒というのは恥なのかなんなのかは知らないけど、いくら珍しくないとはいえやっぱり恥のような気がする。それに風俗なんかは・・・金がないし夜が弱いのでいったことはない。それに女の子の肌を触ったのは、レジでおつりを貰う時に・・・指が当たった時しかない。

 そんなことだから、エッチどころが手を握った事も大人になってからやったことは無かった。どこで道を間違えたかといえば、高校を卒業してから朝から晩まで安い給料どころか残業代ももらえない中小零細企業、俗にブラック企業に勤めていたから。

 まあ、言い訳になるけど若い女の子どころか年老いたおばさんすらいない(一応経理をしていた社長夫人はいたけど)職場で遊びにも行かず毎日真面目に働いていたつもりだったけど・・・

 「××さん、家賃いつ払ってくれるの?」

 大家のおじいさんがやって来た。「僕」の住むアパートは築七十年、良く言えば昭和レトロ、普通に言えばただのボロ、という六畳一間トイレ・風呂共用の家賃が二万円だけど、いまの自分にはそれすら払えなかった。そう失業してしまったから!

 勤めていたブラック企業が社会からリストラされ消えてしまったから! しかも失業保険で生活できると思ったら、勤務先が雇用保険未納だったため、まさかの無収入生活に突入してしまった! おかげでここ一ヶ月生きていく気力もなくなっていた。そうそう死ぬ気力すらないので何もする気が起きなかったけど。

 そんな「僕」は何もする気はないし食べる物もないので、ほとんど修行僧のようになっていたといいたいけど、実際はタダ妄想に耽っていた。人間の三大欲求のうち睡眠欲は満たされているし、食欲は拾って来た残飯で済ませているので、残る性欲だけが満たされないからだ。それでエッチな事を妄想していたのだ。

 ただ、妄想するにしても女性経験はないので悶々としてはいても、一体どうするのかは想像の域をでなかった。まあエッチなビデオを見ればわかるとはいえ、本物の女の子の身体なんて・・・分かるはずはなかった。

 だから妄想で女の子を想像もとい創造したかったけど、出来るはずはなかった。そんなある日の朝、隣で女の子の顔があったので驚いてしまった! あれ? 「僕」って魔法がつかえたの?
しおりを挟む

処理中です...