ミズタマリから誘惑されたあとは

ジャン・幸田

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ミズタマリからの誘惑

序章:小学校の夜のプール

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 子供の頃、夏休み行きたいといえば海水浴だった。砂浜で砂遊びをしてもよし、泳いでもよし、スイカ割など友達や兄弟が集まれば楽しくてよかった。

  しかし、普段は両親共稼ぎの家庭なので、連れて行ってもらえるのは夏休みの期間中、一度あればよかった。夏休みが一ヶ月以上もあるのに勿体なかった。そこで代わりに行っていたのが小学校のプールだった。

  小学校の時には異性について意識をすることが殆ど無かったので、いま思えば女子の水着をもっと良く見とけばよかったのにと思う。なぜなら中学、高校とも進学先にプールが設置されていなかったからだ。だから今思い出そうとしても、同級生の水着を見た記憶がないのだ。

  まあ、彼女いない暦二十年だったので、一緒に泳ぎに行ったことがないから当たり前だが、実は小学六年の夏のあの晩の忌まわしい体験のせいで水着をみるのも嫌になったからだ。さすがに最近は徐々にその記憶も薄らいできたので大丈夫になったが、今でも時々夢にみるのだ。あの時おきたことはいったいなんだったんだろうかと。

あれは小学生六年夏の夜の事だ。あとで大人たちによって封印され、公式記録では全く違う内容が捏造されたが、それは恐ろしい体験だった。六年生といえばもう少しで大人になれるのではないかと思い上がる年頃だった。なので、夜中に年上の高校生がやるような徘徊をしていた。

  その晩、自分は友人のケンタとイサムと三人で夜の街を歩き回っていた。しかし当時何もない田舎町でコンビニすらないところだったので、遊びに行くところがなかった。その頃、ヒマな夜は廃墟や墓地に忍び込んでは肝試しをしていたが、それも飽きてしまっていた。そこで二人に小学校のプールに行こうといった。すると気があったのか、同じ事を思っていたということで出発した。

  ほどなくして到着したプールは夜の闇にその水面を浮かべていた。それにしても昼間と違い恐ろしい雰囲気だったが、何かに誘われているかのような気がした。そうしていると必要なものを持っていないことに気付いた。水着を誰も持っていない事を!

  「いいじゃん、アキラ。昼間とちごうて誰も見てへんから、すっぽんぽんで入ろうや! 大きな風呂だと思えばいいじゃん!」

  「そうじゃ! 全部脱いではいりゃ、後で濡れたパンツを履いてかいらんでいいじゃんかよ。そうだケンタがいうとおりじゃのう」

  ケンタとイサムは言ったが、抵抗感があった。でも先生にやってはいけないということをやる快感を感じたくなって、結局プールの柵のうち破れているところから侵入し、更衣室の前で着ているものを全て脱いで、生まれたままの姿で飛び込んだ。

  最初のうちは気持ちよかったが、昼の暑い空気が残っているとはいえ、水の方は冷たく感じてしまった。それで三人ともプールから上がって更衣室の前まで引き返した。

  「なんか寒いのう! ひとつ大変な事を気付いたんだが、濡れた身体を拭くものがないだろう! それに着替えも! どうすりゃええんかよ」

  そんな事を自分で言ったことは覚えているが、二人は口を合わせて一つの事を言った。

  「なに、いってんのよ! そこにバスタオルもあるし水着だってあるだろ。とりあえず水着を着てもう一度泳ごうぜ」

  するとプールにある備品倉庫の中から紙の包みを取り出すと、なかからバスタオルと不思議な感じのする競泳水着を出して来た! それってどういうことなんだと思っていたが、それが悲劇の始まりだと誰も知らなかった。
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