ミズタマリから誘惑されたあとは

ジャン・幸田

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ミズタマリからの招待

(1)再びやってきた

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 それから月日は過ぎ、二十歳の俺は工場に勤務していた。あれ以来プールに行くのも恐ろしくなってしまい、中学も高校も水泳の授業がない(プールがないので出来ない)ところに進学したほどだった。

 あの晩のことは昨日起きたことのように覚えているが、いまも意味が判らなかった、そして消えていった二人の運命もだ。

  今年の夏、あのプールに来ていた。なんでも数年前から原因不明の地盤沈下で使用不可能になり敷地は立ち入り禁止になっていた。もっとも小学校も今年の春に廃校になってしまったが。

  俺は立ち入り禁止の立札を無視し、無理やり中に入っていった。それにしても小学校が廃校になったからといっても建物ではなく敷地も入りにくいように板塀で囲んでいる意味がわからなかった。これではまるで危険地帯ということではないだろうか?

 プールの前まで来たとき、祠の方向に視線をやった。あの晩、河童がうじゃうじゃとうごめいていた池が出現したときの光景がフラッシュバックしてきた。

 今は昼間の強烈な太陽が降り注いているが、あの幻の池がぼんやりと目に浮かんできた。あの池は今もかすかに存在するかのように。ふと俺は変な想像をした。もしかすると奴らがやってきたのは異次元で、あの池はこの世界とのゲートではなかったのだろうか?

 そういうことは、いなくなった二人はあの世界で河童として今も生きているような気がした。そして、一人だけ逃れた俺を今も仲間にしようとしているのではないかと。

 ここにいたら警察にでも通報されて面倒くさいことになると思った俺は、早く出ようとして歩き出した。するとプールの脇で陥没した窪地に出来たミズタマリに目をやると何やら見たことのあるものを見つけた。それを見た俺は戦慄した。あの晩二人が持ってきた謎の水着が入っていたのと同じ袋だった!

 俺は、中身を確かめてみた。するとそれにはスクール水着ではなく格好いい全身タイツのような競泳水着が入っていた。おもわず手にとって見たが、不思議な感触がするものだった。思わず着てみたいと思ったが、いくらここが立ち入り禁止でも屋外で水着に着替えるわけにもいかないので、俺はそのまま袋をもって敷地外に脱出した。
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