婚約していたことを忘れていたので破棄するなんて私にとっても都合良いですわ

ジャン・幸田

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 伯爵令嬢で女性騎士のカリンから「愛の決着」と呼ばれる決闘を申し込まれたケネスは戸惑いながらも応じるほかなかった。騎士が決闘を申し込まれたら受けて立つのが定めだから。ケネスは以前にも決闘を受けたことがある。それらは全て旧帝国時代に戦場で打ち破った者たちの遺児などであった。その時に腕の腱を斬られたため、事実上騎士を引退したわけだ。

 「なあ、ケネスよ。槍って持てるのかよ?」

 事務局長のサリーは心配そうに見ていた。指導の時に持っているとはいえ、実戦用の重い槍を抱えているケネスは何かがおかしいように見えた。傷は癒えたとはいえ機能は以前のレベルまで回復していないのは確実だった。

 「だいじょうぶさ! 昔取った杵柄というじゃねえか! なんとかなるさ。なんたって俺が育てた騎士と戦うなんて騎士冥利に尽きるじゃないか」

 ケネスは強がってはいたが、自分でもまずいと思っていた。現役時代と同じぐらいならカリンをケガさせないように負かせる事は簡単であったが、今の状態ならそれは出来なかった。下手をするとカリンに重傷を負わせかねないし、負ける事もありえそうだった。


 「で、ケネス。万が一負けたらカリンを受け入れるのか? あっちの方が身分が上だけど構わないだろう。それを分かったうえで決闘をするんだろ」

 騎士団に所属すると、出身の身分に関係なく登用されるのが定めである。貴族であっても平民であっても元奴隷であっても実力で評価される。しかし、これが私生活になるとどうしても出身に左右される。それほど身分に差がないのなら超えるべき壁は低いが、カリンとケネスでは壁は高すぎた。

 カリンは騎士団長の娘で伯爵令嬢、ケネスは権利などない一般市民だ。カリンが苦労するのは確実だと思えた。騎士団で現役なら昇進の可能であるが、指導者として余生を過ごしている状態なら、これ以上昇進できそうもなかった。つまりは、伯爵令嬢を娶る経済的基盤はなかった。

 「そうだが・・・正直迷っている。カリンの為を想えば負けるわけにはいかないが、カリンの決闘の意思からすれば・・・とにかく戦って勝つことを考えよう」

 ケネスは最悪でも引き分けに持ち込もうと考えていた。手加減するわけにはいかないが、かといって完勝も望めないし、ましては再起不能になるような事はあってはならないといえた。

 「まあ、頼むぞ! なんだって国王陛下のご臨席も決まったそうだ。それに闘技場で開催されるのも決まりだ。大観衆の前だから逃げるなよ!」

 「闘技場? それってどういうことだ。決闘といったら非公開だってあり得るだろ?」

 「それもそうだが、お前さんとカリンの話題で王都中は持ちきりなんだ。非公開にするわけにはいかないそうだ」

 「それって・・・」

 ケネスはさらに困惑するほかなかった。
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