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21 (食堂にて・ケネス視点)

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 王妃生誕祭のため騎士団は訓練も含め休みになっていた。休みの期間を利用し所属する騎士たちの中には帰省など旅行に行っている者が多くいた。騎士団は20年前に終結した大戦争以降、軍事的役割は消失し競技団体として存続していた。それもこれもファスマティア王国を含め世界全体が平和を謳歌していたからだ。もう大規模な戦乱は遠い昔の出来事であった。

 ケネスは帰省する故郷も家族もいないので、競技会に遠征する以外はいつも騎士団の施設にいた。遊びにも行かなかった。だから休日は鍛錬をした後は中庭で昼寝しているか、食堂で時間を潰すのが日課だった。

 「ケネスさん、たまにはどこか行ったらどうなの? 此処にいたって用心棒代は払わないからね、おかしな連中は来ないしね」

 食堂の炊事婦兼主人のデイジーは呆れていった。デイジーはオストラス帝国の侵略により家族を失って、戦後は住み込みで働いている女性だった。ケネスや騎士団長よりもずっと年上だった。

 「用心棒やっていても、頂かないから問題ないさ。それよりもカリンの婚約破棄はどうなったんだ?」

 「婚約破棄? あんたも気になるのかい? お嬢様の事が」

 「そりゃ気になるさ! もし結婚すれば次の万国競技会に出れなかったかもしれないから」

 「本当にそうか? カリンお嬢様は騎士としてはおっかない娘だけど、令嬢としては王女としても通用するさ。なんだってお母様は子爵令嬢だったんだぞ! なんだってお母様は・・・」

 「はい、ストップね! そうやっていつも同じ話をするんだから。騎士団長夫人は綺麗だけどおっかないんでしょ! 騎士団長殿も頭が上がらなかったというんでしょ!」

 「そうさ! 子爵令嬢でありながら戦場で戦ったんだからね」

 「はい! 俺も戦いましたから! 本当に夜叉みたいだった! 俺も死ぬかもしれないと思いました!」

 「あんたも、ストップね! 同じ話の繰り返しなんだから!」

 「そっちが始めたんだろ!」

 「そうだけど・・・なにか持ってこようか?」

 「そうだな、いつもの豆を!」

 「はいはい! 持ってきてあげるわ! ついでに酒を持ってこようか?」

 「酒は晩にしよう。とりあえず茶にしてくれ」

 デイジーとケネスの会話はいつも似たようなものだった。それでも最初の頃はデイジーはいつもケネスを敵視していた。家族の仇だと思っていたから。二人ともこんな風に和やかに会話できる日が来るとは思ってもいなかった。

 ケネスが豆の皮をむいで口に運んでいた時、食堂に騎士団の事務局長を務めているサリーが急いで入ってきた。その手には手紙のようなものがあった。

 「ケネス、やっぱりここにいたのか? 都合よかった」

 「サリーさん、俺に何の用か?」

 「とりあえず、これを読んでくれ! 正式な果たし状だ」

 「果たし状? 俺を恨んでいる者はいっぱいいるだろうけど、今更なんだよ!」

 ケネスは手紙を広げると見た事のある筆跡があった。その筆跡は豪快であったが、内容はもっと壮絶だった。

 「なんだって・・・俺にカリンが勝負を申し込むなんて・・・しかも・・・」

 彼にとってそれは青天の霹靂なカリンからの決闘の申し入れであった。ケネスをモノにしたいという。
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