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14(カリン父目線)
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カリンの父ツーゼ特別伯爵はその時50歳で、騎士団長の座にいても現場に出る事はもうなかった。実務を二人の息子に任せ、政務に勤しんでいた。
ツーゼ家は領地はなく、国家から受け取る騎士団運営のための予算と、騎士が参加する競技会の運営益で成り立っていた。戦争が殆ど起きなくなった世界において、後者の運営益はほぼ独占的に入っていた。そのため下手な領地持ちの貴族よりも裕福だった。
そんなツーゼ家が貴族待遇になったのはここ二十年ぐらいで、この国の上位貴族家のように王家との縁戚がなかった。そのためカリンが婚約させられる理由であった。でも、それが失敗に終わった。
国王陛下の執務室に呼び出されたツーゼ特別伯爵は怒りを抑えるのに必死だった。可愛い娘が身勝手な理由で婚約破棄、公式には婚約そのものが無効になったことに。一人娘の婚礼の為に投じた金銭よりもプライドが許せなかった。
それを察した国王陛下は困った表情を浮かべながら、ある事を説得しようとした。
「ツーゼ伯、本当に愚かな孫で申し訳ない」
「いえ、陛下もったいないお言葉です」
そう言ってもツーゼ伯は自分の顔に感情が出ているのは分かっていた。本当なら陛下の前でしてはならないと分かっているのにである。
「カリン嬢であるが、順序としては逆だが先に話をした。政略的には王族もしくは王家に血筋が近いものと再び婚約させたかったが、もう目ぼしい候補も残っていない。だから相談したかったが、意中の男がいるそうだ」
「意中・・・ですか?」
「そうだ、意中の男がいるというのだ。その男は無位無官であるが、相手が良ければ一緒になりたいというのだ」
「誰だ・・・そいつは?」
ツーゼ伯には心当たりがなかった。ここ数年そのような男はいないと思っていたからだ。
「まあ知らなくて当然だと思う。貴族ですらないからな。知っているだろ、その男を」
陛下はある男の名を明かすとツーゼ伯は頭を抱えた。
「あいつ・・・ですか? あいつはカリンよりもずっと年上です! それに・・・うちの使用人みたいなものです。それと結婚できないじゃないですか?」
カリンは生まれた時は騎士息女であったが、現在は伯爵令嬢だ。伯爵令嬢になると王室官房長を経由して国王の裁可が必要になるが・・・勘当されたわけでもない令嬢が貴族でない庶民と結婚するのは、めったにない事だった。大抵は自由に婚礼するために身分を返上するのが一般的だ。なのにカリンは直接自分で陛下に頼み込んでいた。
「そうだな。騎士団員が身分を返上すれば騎士でなくなるからな。だから直接頼み込んだんだといえるな」
国王陛下はそういうと、ツーゼ伯に近寄ってこういった。
「まあ、カリン嬢が女騎士として頑張ってくれた褒美ということだ。娘の恋を応援するってことだよ」
「ありがたいことです・・・でも、あいつが認めるとは信じたくないな」
ツーゼ伯は国王陛下から直接認めてくれたことに複雑な思いであった。
ツーゼ家は領地はなく、国家から受け取る騎士団運営のための予算と、騎士が参加する競技会の運営益で成り立っていた。戦争が殆ど起きなくなった世界において、後者の運営益はほぼ独占的に入っていた。そのため下手な領地持ちの貴族よりも裕福だった。
そんなツーゼ家が貴族待遇になったのはここ二十年ぐらいで、この国の上位貴族家のように王家との縁戚がなかった。そのためカリンが婚約させられる理由であった。でも、それが失敗に終わった。
国王陛下の執務室に呼び出されたツーゼ特別伯爵は怒りを抑えるのに必死だった。可愛い娘が身勝手な理由で婚約破棄、公式には婚約そのものが無効になったことに。一人娘の婚礼の為に投じた金銭よりもプライドが許せなかった。
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そう言ってもツーゼ伯は自分の顔に感情が出ているのは分かっていた。本当なら陛下の前でしてはならないと分かっているのにである。
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「意中・・・ですか?」
「そうだ、意中の男がいるというのだ。その男は無位無官であるが、相手が良ければ一緒になりたいというのだ」
「誰だ・・・そいつは?」
ツーゼ伯には心当たりがなかった。ここ数年そのような男はいないと思っていたからだ。
「まあ知らなくて当然だと思う。貴族ですらないからな。知っているだろ、その男を」
陛下はある男の名を明かすとツーゼ伯は頭を抱えた。
「あいつ・・・ですか? あいつはカリンよりもずっと年上です! それに・・・うちの使用人みたいなものです。それと結婚できないじゃないですか?」
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「まあ、カリン嬢が女騎士として頑張ってくれた褒美ということだ。娘の恋を応援するってことだよ」
「ありがたいことです・・・でも、あいつが認めるとは信じたくないな」
ツーゼ伯は国王陛下から直接認めてくれたことに複雑な思いであった。
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