12 / 27
11 (修羅場?)
しおりを挟む
パーティー直後、一同は国王陛下の執務室でも謁見の間でもない場所に招集された。そこは王宮にある一部の者しか存在することをしらされていない秘密の間だった。今回の事態は外部に漏れては困る王室のスキャンダル。そう判断されたからだ。そこは王宮中枢の玉座のある間の地下にあり、薄暗い部屋の中で松明がたかれていた。ここは別名を「火刑の間」といい、そこで取り決められた事の大半は半永久的に公開されないと噂されていた。だから、スキャンダルで王子などが失脚して処刑が決定されるときぐらいしか使われたことはないといわれていた。もっとも、そんな事態はもう半世紀以上も起きていなかったが。
その場には騎士団長ツーゼ、カリンの父親もいた。彼の手は震えていることを感じ取ったカリンはこう思った。”もし、あのパーティー会場にいたらハインツ様は殴られていただろう” と。
カリンの父は騎士団の女性騎士としては厳しい態度であったが、家庭内では溺愛といっていいほど甘やかしていた。特に婚約式から始まる一連の嫁入りの儀式のために必要な品物を、まだ日取りすら決まっていないのに伯爵家として相応しいものを注文していたほどだ。それらの品物に相当の私財を使っていたのは噂になっていた。
「カリン、大丈夫か?」
騎士団など世間の多くの者が知らない父の優しい声でカリンにたずねてきた。
「はい、呆れていますが」
カリンはあきらめた境地を装っていった。自分の本当の気持ちを偽って。
「そうか?」
この「火刑の間」は、現在では枢密院が秘密会を行うためのところであり、高い天井に相当の面積があった。だから先方のシファードルフ家側とは距離があった。この時、国王陛下は官房長官に命じ宰相府や宮内省など関係各所にいろいろと手配している様だった。
小一時間後。国王陛下が入場してきた。この会議の議長を務めるために。この時すでに国王陛下の裁可が決定していた。事前に聴取した両者の調書で判断したようだ。ハインツの処分は決まっていた。後は形式的に本人たちの意見を聴取したうえで宣告するはずだった。
「これから王孫ツファードルフ公爵令息ハインツとツーゼ特別伯爵令嬢カリンの婚約契約についての裁可を行う。事前にハインツ側からこの婚約契約をなかったものとしたいと申し入れがあったために行う。一同起立!」
国王陛下自らが王族の婚姻に関する事で会議を行うのは異例で合った。通常は全て書面のやり取りだけでしか行わないものだから。それにしても、国王陛下は娘夫婦の爵位を言い間違えていたが、それだけ頭の中では違う感情が渦巻いていたのかもしれない。
「それでは・・・まずはハインツ。そなたは婚約破棄を願い出たそうだが理由を述べよ」
国王陛下がそう言うと、ハインツは少し震えながら言った。さきほどまでの尋問でカリンという婚約者がいたのを失念していたことを思い出したからだ。
「陛下・・・申し訳ございません。わたくしはこちらの令嬢と結婚したいと思っていたのですが・・・令嬢カリンの事・・・彼女と婚約していたことを忘れておりました。それで手続きとして婚約破棄をしていただきたく・・・お願いします」
ハインツは相当汗をかいている様だった。隣にいるローザ嬢は言葉が分からないのできょとんとしていた。一応、通訳をする官吏がいたので、少し遅れてリアクションしているようだった。
「そなたは・・・まあ、ここで愚痴はよそう。会議を迅速にしたいからな。では、カリン。そちらの意見は?」
カリンは証言台にむかった。このように緊張するのは試合でもなかったことだ。本当は、色々といいたいこともあったし、自分の気持ちを正直に言いたかったが。事前の打ち合わせ通りの事をいった。
「わたくしカリンといたしましては、全てそちらのハインツ様のご希望通りの裁可になることを希望します。どのような裁可が下っても一切の異議を申しません。以上です」
実は内々に裁可の内容がカリン側だけに伝えられていたのでカリンはそう述べた。これが婚約を維持するというものだったら。そういわなかった。後は、双方の弁護代理人が事実関係を整理した書類を提出した。この裁判に近い会議は結果が決まっているので全ては書面を秘密裡に残すための形式的なものだった。
国王陛下は提出証拠を点検したうえで、ハインツに意見陳述するようにこう促した。
「ハインツ。そなたはカリン嬢に対して何か述べる事はないか? 申し訳ないと思うのならなにかしら陳謝すること」
そう述べる国王陛下の手は震えていた。それは国王ではなく祖父として表現できない怒りの感情からくるものであった。
その場には騎士団長ツーゼ、カリンの父親もいた。彼の手は震えていることを感じ取ったカリンはこう思った。”もし、あのパーティー会場にいたらハインツ様は殴られていただろう” と。
カリンの父は騎士団の女性騎士としては厳しい態度であったが、家庭内では溺愛といっていいほど甘やかしていた。特に婚約式から始まる一連の嫁入りの儀式のために必要な品物を、まだ日取りすら決まっていないのに伯爵家として相応しいものを注文していたほどだ。それらの品物に相当の私財を使っていたのは噂になっていた。
「カリン、大丈夫か?」
騎士団など世間の多くの者が知らない父の優しい声でカリンにたずねてきた。
「はい、呆れていますが」
カリンはあきらめた境地を装っていった。自分の本当の気持ちを偽って。
「そうか?」
この「火刑の間」は、現在では枢密院が秘密会を行うためのところであり、高い天井に相当の面積があった。だから先方のシファードルフ家側とは距離があった。この時、国王陛下は官房長官に命じ宰相府や宮内省など関係各所にいろいろと手配している様だった。
小一時間後。国王陛下が入場してきた。この会議の議長を務めるために。この時すでに国王陛下の裁可が決定していた。事前に聴取した両者の調書で判断したようだ。ハインツの処分は決まっていた。後は形式的に本人たちの意見を聴取したうえで宣告するはずだった。
「これから王孫ツファードルフ公爵令息ハインツとツーゼ特別伯爵令嬢カリンの婚約契約についての裁可を行う。事前にハインツ側からこの婚約契約をなかったものとしたいと申し入れがあったために行う。一同起立!」
国王陛下自らが王族の婚姻に関する事で会議を行うのは異例で合った。通常は全て書面のやり取りだけでしか行わないものだから。それにしても、国王陛下は娘夫婦の爵位を言い間違えていたが、それだけ頭の中では違う感情が渦巻いていたのかもしれない。
「それでは・・・まずはハインツ。そなたは婚約破棄を願い出たそうだが理由を述べよ」
国王陛下がそう言うと、ハインツは少し震えながら言った。さきほどまでの尋問でカリンという婚約者がいたのを失念していたことを思い出したからだ。
「陛下・・・申し訳ございません。わたくしはこちらの令嬢と結婚したいと思っていたのですが・・・令嬢カリンの事・・・彼女と婚約していたことを忘れておりました。それで手続きとして婚約破棄をしていただきたく・・・お願いします」
ハインツは相当汗をかいている様だった。隣にいるローザ嬢は言葉が分からないのできょとんとしていた。一応、通訳をする官吏がいたので、少し遅れてリアクションしているようだった。
「そなたは・・・まあ、ここで愚痴はよそう。会議を迅速にしたいからな。では、カリン。そちらの意見は?」
カリンは証言台にむかった。このように緊張するのは試合でもなかったことだ。本当は、色々といいたいこともあったし、自分の気持ちを正直に言いたかったが。事前の打ち合わせ通りの事をいった。
「わたくしカリンといたしましては、全てそちらのハインツ様のご希望通りの裁可になることを希望します。どのような裁可が下っても一切の異議を申しません。以上です」
実は内々に裁可の内容がカリン側だけに伝えられていたのでカリンはそう述べた。これが婚約を維持するというものだったら。そういわなかった。後は、双方の弁護代理人が事実関係を整理した書類を提出した。この裁判に近い会議は結果が決まっているので全ては書面を秘密裡に残すための形式的なものだった。
国王陛下は提出証拠を点検したうえで、ハインツに意見陳述するようにこう促した。
「ハインツ。そなたはカリン嬢に対して何か述べる事はないか? 申し訳ないと思うのならなにかしら陳謝すること」
そう述べる国王陛下の手は震えていた。それは国王ではなく祖父として表現できない怒りの感情からくるものであった。
13
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
お城で愛玩動物を飼う方法
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約を解消してほしい、ですか?
まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?
まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。
それで、わたくしへ婚約解消ですのね。
ええ。宜しいですわ。わたくしは。
ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。
いいえ? 説得などするつもりはなど、ございませんわ。……もう、無駄なことですので。
では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか?
『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。
設定はふわっと。
※読む人に拠っては胸くそ。
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる