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 ハインツの言葉にカリンは呆れていた。自分の存在を忘れているなんて。でも、違和感があった。ハインツの隣にいる彼女は何が起きているのか分からないといった表情を浮かべていたからだ。

 「ハインツ! そちらのローザさんという方ってファマスティア語を理解できるのか?」

 ハインツの母テレサが何気なく尋ねた。すると、ハインツはこんなことを言い出した。

 「判らないさ!」

 すると黙っていたハインツの父であるシファードルフ伯リヒャルトがしゃべりだした。

 「ハインツ! お前ってもしかすると母国語を忘れていないか? なんか帝国訛りがひどいぞ」

 「父上、僕は必死に勉強してきました。この王国で習った事も忘れるぐらいに。もうすっかり帝国の人間です!」

 そんなことを言っているハインツを目の当たりにしてカリンの「侍女」としてやってきた方のローザはそっとカリンに耳打ちをした。

 「お嬢様。もしかすると勉強しすぎて婚約者の存在を忘れているのかもしれませんね」

 それを聞いてカリンはローザと一緒に反対方向を向いた。

 「そうね! たしかシファードルフ伯様から聞いたことがあるわ。ハインツ様って一つの事に夢中になると全てを忘れ夢中になると。だから便りを寄こさないのは祖国の事を忘れているんじゃないかとおっしゃっていたわ。その時は冗談だと思っていたけど」

 「そういうことは、つまり・・・本当に忘れていると。お嬢様が婚約者だということを?」

 「そうよ・・・呆れたわね」

 その時、向こうから王宮警備隊がやってきた。そして、ハインツとその彼女ローザをいずこかに連行していった。その場には気まずい雰囲気の人々が残された・・・










 そのあと、王妃陛下誕生日祝賀のパーティーは始まった。その時もカリンとローザはシファードルフ伯爵側にいた。いまさら騎士団の面々のところに移動できないからだ。婚約者はどこにいったか知らなかったが。

 奉祝の演奏が行われた後、食事が運ばれてきたがシファードルフ家の者は手を付ける事はなかった。ただ伯爵夫妻の元に頻繁に伝令らしき者が往復していた。その様子をカリンとローザは黙って観ていた。その時、重苦しい空気を感じ永遠に続くかのような空虚な時間が過ぎていった。

 パーティーが終わり帰ろうとしたとき、カリンたちは呼び出された。それは国王陛下からの招集であった。カリンはさっき国王の言葉を思い出した。 ”詳しい話はパーティーの後にする” と。
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