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 カリンはハインツへ折々に「婚約者」として「挨拶状」にかっこつけたラブレターみたいな手紙を送っていた。それは戦場などにいった殿方に送る便りみたいなものであった。それに愛情が籠っているのかと尋ねられたら、否定も肯定も出来ないような形式だけのものだった。そんな便りに対し一度もハインツから返信が来ることなかった。だからカリンは形だけの婚約者だから無視されているのだと思っていた。それなのか・・・

 ハインツの横にはローザという女がいた。年齢はハインツよりも少し上のようで、もしかすると20歳前後のようだ。着ているものと顔立ちからすると、貴族ないし有産階級といった上流階級に属す子女のようだった。

 その場にいた者は誰一人として言葉を発することがなかった。様子見をしているって言うかもしれなかった。未知なる存在に身構えていた。ハインツはそんな両親らの反応に構わず、自分が言いたいことを発していた。

 「ローザは僕が留学している工兵学校の教授の娘で、お世話になっていたんだけど、いわゆる恋仲になってね。それで将来を誓う仲というわけさ。陛下には先に書類を送っているけど、この国の貴族籍からの離脱と王位継承権の放棄を申請しているわけさ。
 本当は父上の許可をいただきたかったのだけど、彼女が婚約しそうだったので急いで決めたわけさ。だから・・・申し訳ないけど許してもらえない? まあ、許してもらえなくても彼女と一緒になる意思に変わりがないけどさ」

 ハインツが満面の笑みでそう語るが、意思を貫徹するにしても相談ぐらいはするものだという空気が漂っていた。いくら六男でろくな貴族階級や役職などが望めなくても、国王の孫が異邦人と結婚するのは、いささか飛躍しすぎであるといえた。ましては婚約者がいるのに!

 「ところで、そちらのお嬢さんはどちら様ですか? 心当たりありませんが?」

 カリンはそう言われてしまった! いくら三年間会っていないし、その間に大人になって顔つきが変わったかもしれないが、気付かないなんて。

 「ハインツ!! お前忘れたのかカリンさんの事を?」

 「カリン? どこかで聞いたことあるけど同じ名前の女なんていっぱいいるし、従姉妹か誰か?」

 ハインツの母は絶句し呆れていた。あまりの事態で言葉が続かなくなっていた。それはハインツの父も一緒だった。この両親は子供が多くて下の子になるほど放任する傾向にあったが、放任した結果に打ちのめされていたのかもしれない。だからカリンがいう事にした。

 「ハインツ様、お忘れのようですがわたくしはクルセイド騎士団所属のカリン・ツーゼです。あなた様の婚約者ですわ。国王陛下が五年前にお決めになった。今日はあなたと出席するはずでしたよね?」

 カリンは嫌味ありげに言った。この男が女を連れてきた時点でどうでもよかったが、話が進まないので言った。
どんな反応を示すのかは分かりきっていた。ハインツはきょとんとした表情を浮かべていった。

 「僕の婚約者? 冗談だろ! 記憶にないって!」

 ハインツの頭の中にはカリンという婚約者は存在していない様子だった。
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