婚約していたことを忘れていたので破棄するなんて私にとっても都合良いですわ

ジャン・幸田

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 王城に行くときはカリンは騎士としてくるのが普通であった。だから今日のように「伯爵令嬢」らしいドレスを纏い「侍女」を連れて会場入りするのは一年に一回あるかどうかであった。

 その日は国内の主だった上流階級の人々が集う王妃殿下誕生日会だ。当然ただ遊びに来ているわけではないので様々な思惑が渦巻いていた。それが社交界というものだ。

 パーティーが始まるまで会場の各所では社交の輪が広がっていたが、カリンはあまり興味はないので、とりあえず婚約者のシファードルフ伯爵夫妻に挨拶しに行った。挨拶が終わるとハインツの母からこんなことを言われた。

 「カリンさん、すいませんねえ。うちのハインツと言ったら・・・今朝になって当日参加するなんていう知らせをよこしたのよ。あれほど出席しろと言っていたのですが三年ぶりの帰国だというのにね」

 カリンは何て言ったらいいのか分からなかった。あれほど婚約者同伴で出席するようにという通達だったのに、これである。一層の事欠席の方が気が楽であった。去年も一昨年もそうだったのだから。

 「そうですか」

 「ハインツから何か知らせありませんですか? あの子は筆不精すぎるので真面な連絡がないので」

 「そうですか、私の方も便りはないのでわかりません」


 カリンはこんなふうに想っていた。いくら情の薄い婚約者といっても放置するのは無責任じゃないかと。昔の騎士や兵士のように戦場に行くのなら仕方ないかもしれないが、留学した後は一切連絡ないなんて。婚約者を放置するなんて無責任ではないかと。でも目の前の両親にいえないことであったが。

 すると、会場がざわついてきた。いきなり旅姿の一団が入ってきたからだ。パーティーに似つかわしくない光景だった。警備兵は制止するためについてきているようだったが、完全に止めきれなかった。そしてカリンがいる方にシファードルフ家の家令らしきものが走ってきた。

 「旦那様、ハインツ様が来られました。しかも見知らぬ異邦人の女性を連れておられます」

 その言葉に一同は何が起きたのか分からなかった。すると、その一団がやってきた。ハインツは年相応にたくましくなっていたが、横には異邦人、おそらくジーゼル帝国出身らしい娘がいた。そしてこう告げたのだ。

 「父上、母上お久しぶりです。突然のことで申し訳ございませんが、隣にいるローザと結婚したいのですがよろしいですか?」

 その場にいた者たちは思考停止状態に陥っていた、でもカリンはかすかにこう思った。目の前にいる私を誰だと思っているのよこの男は!
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