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カリンが本当に気になっているのは教官のケネスなのは、少し感が鋭い同僚のローザにはお見通しだった。騎手養成所に入ってから、同じように指導を受けている仲だからである。気が付いていないのはケネスぐらいかもしれなかった。もっともカリンに国王が定めた婚約者がいるので叶わぬことであった。
ローザが思うのは、あの乙女心に鈍感なケネスは、カリンに婚約者がいなかったとしても、思いに応えることはないだろうと感じていた。なぜなら彼は騎士団員としての使命感のほうが強く、女性騎士団員のことを女とは見ていないようにしか思えなかった。
もしかすると、自分のことが一番好きだっていう男なのかもしれない、と思っていた。でも、自分の幸せよりも使命感に重きを置いているので、恋愛感情を自分で押さえこんでいるのかもしれないとも考えていた。
馬車は王城へと進んでいた。ケネスへの想いを否定も肯定もしなかったが、カリンは自分も振り払わないといけないと考えていた。でも婚約者ハインツとは、おそらくケネスの数万分の一ぐらいしか一緒に過ごした時間は、ほとんどなく幻な存在といって差し支えなかった。
いつも会っても、たいてい親たちも一緒に同伴しているし、ましては一緒に過ごすことなどということは、全くなかった。婚約は全て大人達が都合により決めたことであり、当人たちには全く関係ないという風に思っていた。
それでもハインツが留学してから、カリンは嫌と言うほど婚約者の存在を気にしないといけなくなっていた。騎士ではなく貴族の娘として振る舞う時に必ずついてくるのは、婚約したという事実だ。
婚約者がいる女性はもちろん恋愛対象にもならないし、当然のことながらお嫁さんに欲しいというふうな話がならない。しかもエリスは自分が結婚するということを考えたことがなかった。そういえば結婚というものは想像したことも意識もなかったそんなふうに想っているとローザが話しかけてきた。
「お嬢様、ハインツ様と今日お会いできますが、何かお手紙のやり取りなどされておりますか? 」
そういえば手紙のやりとりといったものをしたことなかった。カリンにとって婚約者は全く見えぬ存在だった。それにしても大人達は12歳で婚約を決めておきながら、なぜ今まで放置していたのか? それが不思議としか思えなかった。カリンにすれば婚約者は本当は存在しないのでないかという認識だったし、留学するといって遠い異国にいって三年も音沙汰なしというのは許せなかった。
今日は王妃陛下の70歳のお誕生日。その日の為に国王陛下からハインツと一緒に招待状を受け取っていた。だから本来ならカリンはまずシファードルフ家に赴いてからハインツと合流し、そして王城に向かうはずであった。でも昨日先方からこう伝達があった。”ハインツが帰国するのが遅れるので、先に一人で会場入りしてください”と。
「お嬢様、婚約者と一緒に赴くのが筋ですよね? それではまるで独身の、誰も婚約者がいない令嬢と同じではありませんか? それにしてもお嬢様。いまさら婚約破棄ということはできないのですか?」
「なぜ、そんなことを言うの?」
「決まっていますわ。婚約者を無下にするような男なんか許せないからです! 許されるのなら槍で殴り倒したいところですわ」
ローザはそういってカリンの為に怒っていた。王城につくとカリンたちは直ちに国王陛下の執務室に来るようにと命ぜられた。
ローザが思うのは、あの乙女心に鈍感なケネスは、カリンに婚約者がいなかったとしても、思いに応えることはないだろうと感じていた。なぜなら彼は騎士団員としての使命感のほうが強く、女性騎士団員のことを女とは見ていないようにしか思えなかった。
もしかすると、自分のことが一番好きだっていう男なのかもしれない、と思っていた。でも、自分の幸せよりも使命感に重きを置いているので、恋愛感情を自分で押さえこんでいるのかもしれないとも考えていた。
馬車は王城へと進んでいた。ケネスへの想いを否定も肯定もしなかったが、カリンは自分も振り払わないといけないと考えていた。でも婚約者ハインツとは、おそらくケネスの数万分の一ぐらいしか一緒に過ごした時間は、ほとんどなく幻な存在といって差し支えなかった。
いつも会っても、たいてい親たちも一緒に同伴しているし、ましては一緒に過ごすことなどということは、全くなかった。婚約は全て大人達が都合により決めたことであり、当人たちには全く関係ないという風に思っていた。
それでもハインツが留学してから、カリンは嫌と言うほど婚約者の存在を気にしないといけなくなっていた。騎士ではなく貴族の娘として振る舞う時に必ずついてくるのは、婚約したという事実だ。
婚約者がいる女性はもちろん恋愛対象にもならないし、当然のことながらお嫁さんに欲しいというふうな話がならない。しかもエリスは自分が結婚するということを考えたことがなかった。そういえば結婚というものは想像したことも意識もなかったそんなふうに想っているとローザが話しかけてきた。
「お嬢様、ハインツ様と今日お会いできますが、何かお手紙のやり取りなどされておりますか? 」
そういえば手紙のやりとりといったものをしたことなかった。カリンにとって婚約者は全く見えぬ存在だった。それにしても大人達は12歳で婚約を決めておきながら、なぜ今まで放置していたのか? それが不思議としか思えなかった。カリンにすれば婚約者は本当は存在しないのでないかという認識だったし、留学するといって遠い異国にいって三年も音沙汰なしというのは許せなかった。
今日は王妃陛下の70歳のお誕生日。その日の為に国王陛下からハインツと一緒に招待状を受け取っていた。だから本来ならカリンはまずシファードルフ家に赴いてからハインツと合流し、そして王城に向かうはずであった。でも昨日先方からこう伝達があった。”ハインツが帰国するのが遅れるので、先に一人で会場入りしてください”と。
「お嬢様、婚約者と一緒に赴くのが筋ですよね? それではまるで独身の、誰も婚約者がいない令嬢と同じではありませんか? それにしてもお嬢様。いまさら婚約破棄ということはできないのですか?」
「なぜ、そんなことを言うの?」
「決まっていますわ。婚約者を無下にするような男なんか許せないからです! 許されるのなら槍で殴り倒したいところですわ」
ローザはそういってカリンの為に怒っていた。王城につくとカリンたちは直ちに国王陛下の執務室に来るようにと命ぜられた。
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