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 伯爵令嬢待遇とはいえ普段のカリンには侍女はいなかった。騎士団長の娘といっても騎士団では一人の騎士でしかなかった。だから特別待遇もないし教官のケネスも数多くいる女性騎士と平等な対処をしていた。

 しかし王室の式典では「ツーゼ伯爵令嬢カリン」として招かれている。だから他の貴族と同じように侍女がいなければならなかった。そこで同じ年頃の女性騎士ローザ・シューメーカーが侍女として同行することになった。

 「ねえカリン、そうかしら私って侍女らしく見える?」

 ローザは戸惑っていた。カリンよりも地味とはいえ侍女の衣装はそれなりに高級な生地で作られているので、普段とは大違いだ。ローザもまた騎士として汗や泥まみれになりながら日々を過ごしているのに、今日は髪も整ってもらい綺麗に化粧していた。貴族令嬢に仕えるにふさわしい侍女として。

 「似合っているわよローザ。でもね、王城にいったらお嬢様といってね。私も嫌だけど侍女に呼び捨てにされる貴族の娘っていないからね」

 カリンは馬車の中でそういっていた。二人は普段は同じ騎士でも今日は仕方ない事だった。

 「はい、わかりましたお嬢様。それにしてもいいかしら聞いてみて」

 「なにを?」

 「今日、カリンの、いやお嬢様の婚約者が帰国するんでしょ三年ぶりに。本当に結婚することになるの?」

 ローザの言葉にカリンは困った表情を浮かべていた。

 「そうねえ、国王陛下の勅願だからね。まああんまり覚えていないけどね顔もなにもかもね」

 「本当に覚えていないの? お嬢様ってあんなに対戦相手の研究をするというのに!」

 「そうよ! あんまに気にしていなかったけど婚約者なのよね、相手は。でもシファードルフ伯爵家から殆ど音沙汰ないしね」

 カリンは考えてみれば仕方ない事だった。婚約が決まってから三年後、15歳の時に貴族の子女が通う学校ではなく騎士を養成する学校に行くのを強く主張したため不興を買ったのだ。それは相手も同じでこの世界でも超大国のジーゼル帝国の学校に留学すると主張したので、それから二人が顔を真面に会わせたことはことはなかった。

 カリンは事あるごとにシファードルフ伯爵家に婚約者として挨拶しにいくけど、相手はいつも不在。どうも留学先から一度も帰省したことはないようだ。それでは婚礼に向けての儀式は進行しないのは当然だ。

 「そうなんだあ、じゃあまだ一緒に戦えるわね。来年は六年に一度の大きな世界競技選手権があるしね。それよりもお嬢様の本命は教官なのよね?」

 それを言われたカリンの顔には「図星」という文字が浮かんでいる様であった。
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